超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
ブラウザのバックボタンで戻ってください。

このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

それでも読む方は方はここをクリックするか、
ガンガンスクロールさせてください。







































「そう言えば、アニメ二期で風呂場にいた俺に石鹸渡すのやたらと恥ずかしがっていたよな、渚」
「あ、当たり前ですっ!」





















































































  

  


「おとーさん。背中、流そうか」
 汐がそう言ったのは、いつものように風呂に入ろうと着替えとタオルを持って脱衣場に入ろうとした、ある晩のことだった。
「背中を、流す?」
 聞き間違いだといけないので、そう確認する俺。正確には、聞き間違えたと半ば確信していたのだが。
「うん」
 しかしそれに対する娘の返事は、実にあっけらかんとしていた。
「……いいのか?」
「うん」
 何でそんなに複雑そうなの? と言った感じで小首を傾げていた汐は、あっさりと頷く。
「じゃ、頼む」
「うんっ!」



『風呂場の温もりと湯気の記憶』



 立ち上る湯気の中、娘である汐の鼻歌が響いていた。
 曲名はもちろん、『だんご大家族』。
 時々それに加えて、嬉しそうな含み笑いが少しだけ漏れていたりする。
 俺はと言うと、それを背中越しに聞きながら風呂の洗い場でおとなしく座っていた。
 誤解が無いように、言っておく。汐は水着を着用していた。
「湯船、もう少し広くするか」
 風呂場の天井を見上げながら、そう呟いく俺。
「いいんじゃない? このままで」
 と、スポンジを両手に持ったまま汐がそう言う。
「でもそろそろ狭いだろ、お前の体格的に考えて」
「そんなことないと思うけど……」
 そんなことを言う汐だが、もう十八だ。もうたいして大人と変わらない。
「そもそも、それを言ったらおとーさんはずっと今のお風呂で平気だったんでしょ。わたしも平気なんだし、あんまり気にする必要無いと思うけど?」
 ……ふむ、汐の言うことにも一理ある。
「そうだな、お前の言う通りだ」
「ありがと、それとごめんね。心配させちゃって」
「謝るなって。こっちが勝手に気にしたことなんだから」 渚ほどではないが、汐も多少こういう気がある。普段は冷静っぽく振る舞っているだけあって、突然こうなるとちょっと戸惑ってしまうと同時に、微笑ましくも思う俺だった。
 それにしても。
「その水着、学校指定のと違うみたいだが」
「あ、わかった? これ競泳水着なの」
 水着の肩紐を軽く引っ張り、ぴちっと音を立てさせて、汐。
「やっぱり気になった?」
「いや、別に」
「そう? 興味無いように振る舞っているけど、ちらっちらっとわたしの方を見ていなかった?」
 ……むぅ、ばれていたか。
「気付いていたのか」
「女の子はね、視線に敏感なのよ」
「……覚えておこう」
「ところでおとーさん」
「なんだ?」
「水着着ていて残念?」
 悪戯っぽい貌で、汐。
「馬鹿言うな。そもそもだな、お前のDNAの半分は俺が書き込んだんだぞ」
「そういえば、そうだけどね」
 何かそう言われると不思議な感じだね、と汐。まぁ俺もなんか不思議である気がしないでもない。
「しかしまた、なんでまたそんな水着を」
 その水着のデザイン、以前水泳部に貰ったものとも違うように見える。
「居間で見せるのも変じゃない?」
「風呂場で見せるのも十分変だ。それで、来年の夏にでも着るのか?」
「ううん、これは今度の演劇の衣装だから。今度の演目ね、水泳部が舞台なの」
「ああ、だから着てみたと――いけません。お父さん、許しませんよ」
「そんな真顔にならなくても……」
 だがこっちはマジだった。
「せめて下に肌襦袢を着なさい。第一体育館寒いだろ」
「あれは余計なところに皺が出来るから好きじゃないの。それに今は舞台と客席側で暖房の温度を変えられるのよ」
 だから水着でも風邪を引くってことはないの、と汐。
「それに男子が大変なことになっちゃうじゃない。首から下が肌色のタイツじゃそれだけでギャグになっちゃうでしょ。……まぁ、やる演目はコメディなんだけど」
「っていうか何でまた演劇で水泳部の話をやることにしたんだ。無理があるだろ」
 主に衣装的に考えて。
「演目を決めるときにね、ちょっと奇をてらってみたいってわたしが言ったら、それじゃ衣装を水着にしてみますかって」
 無茶にもほどがある話だった。
「反対しろよ、女子として」
「確かに男子部員から、女子の水着姿がみたいって下心まるだしで言われたんだけどね。男子も平等に着るならって話になって、男子側も了承したから」
 なるほど、プライドより願望が勝ったのか。それはそれでわかる気がしないでもないが……いやいや。
「反対した女子は居なかったのか? ほら、あの後輩とか結構恥ずかしがりだろ?」
 以前とある縁で知り合った渚と同じ名前の引っ込み思案な女子の顔を思い浮かべながら、俺。
「うん。最初は堪忍してくださいって言っていたんだけどね、わたしも着るって言ったら、岡崎部長が着るのでしたら……って。他にも数人保留と反対があったんだけど、同じ理由で賛成に回ってくれたの」
 それはまた――なんというか、色々な意味で慕われている我が娘だった。
「んで、男子は全員一致で可決か」
「うん。提案した男子なんか、岡崎部長のが特に楽しみですって――あ」
「その男子今度つれてこーい!」
 天誅ならぬ電柱をぶち込んでくれるっ。
「ヒートアップしないの。湯当たりするわよ?」
「熱くならずにいられるか。こっちは見られないかもしれないんだぞ?」
 演劇部の公演は、外に開かれているものもあるが時に生徒だけに公開されるものもある。その場合、俺が見るためには生徒会の記録等を頼る必要があるわけだ。
 ――希に、オッサンが忍び込んで撮影しようとするのだが、悉く汐に見つかって追い出されているらしい。
「だから今着ているのよ。それに今回は写真部にお願いして、記念撮影して貰うから。だから、ね?」
「……そういうことなら、いいだろう」
 渋々と、俺。
「あ、俺の分は焼き増し四つ切りで頼むと伝えてくれ」
「はいはい。ってポスターにでもするの?」
 流石にそれはちょっと恥ずかしいんだけど……と、汐。「安心しろ、壁に貼るつもりはないから。ただ、オッサンと春原には見せびらかすけどな!」
「……くれぐれも、往来でやらないでね」
 思いっきり呆れた声で、汐。



「――よし、終わりっ」
 そう言うと共に、汐が手桶で俺の背中にお湯を流す。
「おう。ありがとうな」
 続けて何度かお湯をかけてもらい、背中の泡を完全に落として貰う。
「それにしても……」
「うん?」
 思わず思ったことを口に出してしまった俺に、汐が反応する。
「いや、その……俺って父親なんだなぁってな」
「なにそれ」
 おかしそうに笑う、汐。
「背中を流して貰っているとな、そう感じるんだよ。何でかは良くわからないが」
「そう言えば、何かの本で読んだことある。世の中のお父さんは子供に背中を流して貰いたくなるし、流して貰うと嬉しいんだって」
「なるほどな。そういや俺も親父の背中を流したら喜ばれたっけ」
 案外万人に共通のものなのかもしれない。そう思うと何処と無く安心してしまう俺だった。
「なんか、懐かしいな」
「そうだね」
「小さい頃は一緒に入って、毎日背中流していたな、お前の背中」
 あの頃の汐の背中は本当に小さくて、屈むのも大変だったときは俺が湯船に入って背中を洗ってやったこともあった。
「いつからだっけ、一緒にお風呂入らなくなったの」
 懐かしそうに、汐。
「今も入ってるだろ」
「む……そう言うのね。じゃあ訂正、いつからだっけ、『何も着ないで』一緒にお風呂入らなくなったの」
「小学生の真ん中辺りだろ」
「うん、正解。良く覚えていたね」
「一応早苗さんから教えて貰ったんだ。10歳過ぎたら性徴が始まる可能性があるからって。でもお前、そのころからひとりで何でもしようとしていたろ、風呂もお前の方からひとりで入るって言い出したんだぞ」
 その他にも、買い物や掃除、挙げ句の果てには家計を付けようとするくらいだった。
「……そう言われると、そうだったね。あーあ、勿体無いことしたなぁ」
 なんだか残念そうにそう呟く汐。
「なんで」
「もうちょっと長くても良かったと思うの。おとーさんとの、裸の付き合い」
「お前なぁ……」
「ちなみに振り返らないと条件付きなら今すぐ水着脱ぐけど?」
「脱がんでいい脱がんでいい」
「それは、どっちの意味で?」
 悪戯心満載な声でそう訊く汐に、俺は人差し指で天井を示しながら、
「両方だ。振り返るのを我慢出来ないかもしれないし、そもそもそんなことをしなくてもお前が大きくなったのは良くわかる」
 そう答えてやった。
「なるほど……って、よく二重の意味だってわかったね
「こちとらお前の父親をやって長いんでな」
「うん――そうだね」
 汐の頬に朱が散ったのは、純粋に嬉しかったからだろう。
「昔はさ、小さい身体をいっぱいに使って背中流してくれたんだよな」
「そうだね……だってあの頃は座っているおとーさんと立っているわたしが同じくらいの高さだったもんね」
「そうだったそうだった」
 渦巻く湯気がスクリーンとなって、思い出が投影される。そう、俺が屈みきれないということは、汐にとってはでかかったということになる。
「そしてわたしは……何も着ていなかったと」
「やたらとそれに拘るなおい」
 もしかして、小さかった頃俺の前で肌を晒したことが恥ずかしかったのだろうか。
 そこを指摘したかったが、照れた上に背中を本気で連打されると居たいのでやめておく。
「ねぇ、おとーさん。お願いが……あるんだけど」
「なんだ?」
「背中、流してくれないかな?」
「どうやって」
 水着じゃ無理だろうに。
「そりゃもちろん、水着を脱いで」
「……お前な」
 どうも俺の推論は外れていたらしい。というか、時々思うことなんだがどうも俺は汐にちゃんと羞恥心というものを教えられなかったんじゃないかと不安に思ってしまう。「べ、別にね、別に大きくなったのを見て貰いたいだけじゃないの」
 慌てた様子で、汐。
「ただその……背中を流すことはあっても、流されるのはもう最後じゃないかなって思って」
 ……なるほど、汐だってあと二年もすれば二十歳になる。そうなれば、もう立派な大人であるわけで……。
「わかった」
 俺は、そう頷いていた。
「いいの?」
 少しだけ意外そうに、汐。おそらく、断られる可能性も考えていたのだろう。
「ああ。その気持ち、なんとなくわかるからな。ほら、後ろ向いているから早く水着脱いでくれ」
「う、うん……ありがとう、おとーさん」
「いいって。お前の背中見るんだから役得みたいなもんだ」
「……さっきお前のDNAの半分は俺が書き込んだって言ったじゃない」
 意図的に意地悪そうな声で汐がそう指摘する。
「残りの半分は渚がやったからな。そっちは見たくなるんだよ」
 こっちも意地悪そうに、俺。
「うー、おとーさんのえっち……」
「やっぱやめとくか?」
 これは割と真面目に、俺。けれど汐は首を横に振って、「ううん、お願い」
 はっきりと、そう言った。
「わかった。しばらく目隠しでもするか?」
「ううん、そこまでしなくていいから、ちょっと後ろ向いててね」
「ああ。でも振り向いたら容赦なく桶ぶん投げていいからな」
「もとより、そのつもりよ」
 ……断言されると、ちょっと哀しい俺だった。
 それはともかく、椅子ごと一八〇度方向転換する俺。
「いいぞ」
「うん。ちょっとだけ、まっててね」
 照れているのか、ちょっとだけ声が小さい汐だった。
 やがて、きゅっとか、ぴちっという小さな音が響く。
 ……むぅ、耳も塞いでおけば良かった。そう俺が後悔していると、
「……いいよ」
 汐からそう声がかかって、俺は再び一八〇度回転する。
 見れば、汐は水着の上半分を脱いでいて、手拭いで胸を押さえていた。ついでに長い髪もしっかりとタオルでまとめられている。
「いいか、絶対に手を離すなよ。絶対だぞ!」
「わかってるって。わたしだっておとーさんにそこまで見て貰いたい訳じゃないし」
 ぎゅっと手拭いを押し当てて、汐。
「それじゃ、洗うぞ」
「うん、お願いね」
 ……なるほど、汐の言う通り背中を見るとわかる。
 健康的な小麦色の背中は、本当に大きくなっていた。
 頼もしくなった、そう思う。
「痛くないか?」
 普段自分でやる通りにやっていると自信がないので、そう訊いてみる。
「ううん、丁度良いよ」
「そいつは、良かった」
 湯気が濃くて、良かったと思う。
 はっきり見えていたら、その綺麗な背中を女性のものとして捉えてしまうのかもしれなかったからだ。
「うん、気持ち良い。ありがとね、おとーさん」
 嬉しそうに、そう言う。
「なぁに、お安いご用だ」
 スポンジで丁寧に洗いながら、俺。
 いつかこの情景も俺と汐の思い出になるのだろうか。俺はそう思う。
 それが恥ずかしい思い出ではなく、懐かしい思い出になってくれれば良い。そうも思ったが、どうもそれは汐の嬉しそうな顔を見ていると、杞憂に終わりそうだった。
 あ、でも妬くなよ、渚……。



Fin.




あとがきはこちら









































「ふっふ〜」
「ご機嫌ねぇ、汐ちゃん」
「ええ、昨日おとーさんとお風呂に入りまして」
「へ、へぇ……でも水着着ていたのよね?」
「途中で脱いで背中流してもらいましたけど?」
「と、と〜も〜や〜? あんた年頃の娘となにやって――」
「待て待て待て、重要なところが抜けてるだろそれ! 汐説明しろ、そんでもって杏はその振り上げた辞書を今すぐ降ろしてくれ!」



□ □ □



 ン ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 。
「お、怒ってないです! 本当ですっ」
 ド ド ド ド ド ド ド ド 。
「いくらお母さんでも、覗きは駄目。絶対」









































あとがき



○十七歳外伝、お風呂編でした。
いつ頃か、毎日親の背中を流すことがなくなりましたが、たまにすると喜ばれます。うちではごく希なことになってしまいましたが、そういうことも大事なのかもしれませんね。
もっとも、朋也と○だとちょっとぎくしゃくしてしまうんはまぁ……年頃的にしょうがないことだと思いますけど^^(私的にはちょっとやりすぎてしまった気がしないでもない)

さて次回は……コメディか、ちょっとシリアス目のどっちかで。


Back

Top