『夕陽の中で午睡』(2002.01.23)




 里村茜が、滅多に訪れない演劇部の部室に足を踏み入れると、そこには彼女を招いた張本人が夕陽に照らされながら床に座り込んでいた。机があちこちに追いやられ、ぽっかりと空いた床にである。
「おう、悪いな急に呼び出して」
「いつものことですから。……悪いことには悪いんですけど」
「すまんすまん、後で山葉堂だ」
「それなら、それほど悪くはないです」
 まんざらではない表情でそう言って、張本人、折原浩平へと歩み寄る。
「どうしたんですか?その毛布」
 よくよく観れば、浩平は下半身を毛布にくるんでいた。と言うより妙なふくらみを隠しているように見える……。
「まあそれはだな――単刀直入に言おう。茜、膝を貸してくれ」
「……どうして私なんですか?」
「決まっているだろう。俺的に 茜 の 膝 枕 は 最 高 だ か ら だ 」
「それはもういいです」
「まあ、冗談はさておいてだな」
 その割には口調はかなり本気だった浩平。
「本当は、こいつのためだ」
 そう言って、そっと毛布をめくってみせる。
 そこには、演劇部員で、毛布のふくらみの正体であった、上月澪がぐっすり眠っていた。
「俺のごつごつした枕じゃぐっすり眠れないだろ?」
「……そういうことですか」
「そういうこと。で、ファイナルアンサー?」
 確信犯の笑みを浮かべて問いかける浩平に、茜は肩を軽くすくめて、
「ファイナルアンサー、浩平なら嫌です」
「つまり澪なら?」
「――OKです」
 そう言って、すとんと浩平の隣に座る。
「ほいきた。ほら、澪」
「…………〜〜〜?」
 小さく揺さぶられて、澪が目がゆっくりと開ける。次いで、夕陽に眼を細めた。
「ほら、あっちの方が寝心地良いから、隣に移れ」
「〜〜〜」
 まだ半分、いや四分の三寝ている澪。目をこすりこすり、浩平の指さす先――茜の膝――に向かってゆっくりと動いて……再び眠りに落ちる。
「うん、茜を呼んで正解だったな。それにこっちの方が絵になる」
「別に良い絵にならなくてもいいです」
「なんでだ?良い絵の方が悪い絵よか良いだろう」
「そう言う問題ですか」
「そう言う問題なんだよ」


 明るいオレンジだった夕陽が鈍い赤に染まってきた。ここからは見えないが、東の方は夜の帳が降りてきているはずである。
「そろそろ陽が落ちます……」
「ああ、そうだな。もう少ししたら起こすか」
 澪は相変わらずぐっすり眠っている。
「そんなに大変なんですか?演劇部の練習」
「何たって、今度の劇の主役だからな」
 自分のことのように誇る浩平。
「えらい頑張って居るんだぞ、澪のやつ」
「……公演が、楽しみです」
 そう言って微笑む茜に大仰に頷いて応える浩平。
 その時、茜の膝の上で、澪が軽く身じろぎした。とても嬉しそうに微笑んでいる。その様子を、茜は慈しむように見守って――小さくため息をついた。
「どうして澪は……」
「ん?」
「どうして澪は笑っていられるのでしょうね……」
「…………」
 浩平は答えない。しかしそれにもかかわらず、茜は続ける。
「私がこの子と同じ境遇なら、きっと笑っていることが出来ないです」
 そっと、澪の頭をなでる。
 それに合わせるように、茜と背中合わせになるように座り直す浩平。そのおかげで茜から彼の表情が見えなくなった。
「……こいつにも笑うことが出来ない時期があったんだよ」
「…………」
 今度は茜が答えない。
「でも、そいつを乗り越えてきたんだ」
「………………」


 日向の中で――
『あのね――』
 嬉しそうに――
『――なの』


「それを一番良く知っていると思ったんだかな。茜、今の質問は愚問だぞ」
「――本当に愚問ですね。ごめんなさい……」
 静かに、澪の髪を手で梳く。再び嬉しそうに、澪が身じろぎをした。
「良い夢を観ていそうです……」
「 茜 の 膝 枕 だ か ら な 」
「それは本当にもういいです」
 小声で強調するのだから、浩平も器用なものである。
「しかしまあ、こうしているとだな」
「……大体言いたいことは分かります」
「なら最後まで言わせてくれ――俺達、家族みたいだよな」
「澪が私達の子供ですか?」
「そうそう」
「それは……嫌です」
「じゃあ、なんだったらいいんだ?」
 そう言って首を傾げる浩平に茜は澪に視線を落として、
「かわいい……妹ですよ」


Fin




あとがき


 今回は澪支援です。
 もうどっかで言っていると思いますが、ONEで好きなヒロインの二番手は澪であります。
 ちょっと書く機会がなかったので、この機会にえいやとばかりにやってみました。結果、むしろ茜の方が出番が多いってのは目を瞑ってください(笑)
 ちなみに、茜を澪は、かなり好みの組み合わせです。姉妹としても(笑)、母娘としても(爆)。

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