超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「あたしがハロウィンの仮装する場合、汐ちゃんならどんなのを勧める?」
「藤林先生のですか? それなら……虎縞の、ビキニかなぁ」
「それじゃ宇宙人でしょ!」
「(でも似合うと思うけどなぁ……)」

















































































  

  


「まだ起きているのか?」
 そうおとーさんが言ったのは、金曜日の夜、それもかなり遅い時間帯だった。
「うん、そろそろ次の演劇部部長を決めないといけないし、進学の問題もあるし」
 風邪を引かないよう、パジャマの上から半纏を着込んだ格好で、わたし。
 そしてちゃぶ台に設置したスタンドが照らす光には、各種ノートと学校、生徒会に提出しなきゃいけない書類が処狭しと広げられている。そう、勉強机のスペースだともう収まりが効かないので、わたしはちゃぶ台を代わりに動員したのだ。
 実を言うと、こっちの方がはかどっていたりする。普段は食卓として使用するわけだから常用出来ないのだけど。
「そうか……まぁ、ほどほどにな」
 ここのところ仕事が忙しくて疲れた様子のおとーさんは、そう言って寝る支度を始めた。
「ごめんね、明るくて」
「これくらいなら余裕だ。それより根を詰め過ぎるなよ」
「うん、ありがとう」
 スタンドランプの光が出来るだけおとーさんの方に行かないよう、ランプシェードの角度を調整する。その様子をおとーさんは目で追って、
「ありがとうな、汐。それじゃ悪いが先に寝る。お休み、頑張れよ」
「うん、お休みなさい」
 程なくして、規則正しい寝息が聞こえてきた。本当に、疲れていたのだろう。
 けれど、おとーさんの心配ばかりするわけにも行かない。わたし自身が演劇部の引退と進学、ふたつの問題を抱えてしまっている。
 特に進学の方は、予備校に通わず自宅学習で入試に臨むと担任の先生方に伝えた途端、大量の参考書を渡されてしまった。とりあえずは、それらをすべてクリアしてほしいということなのだが、そちらはまだ全体の半分程度しか終わっていない。
 それに演劇部の方も……おっと、延々と考えているわけには行かない。わたしは早速、ノートとの格闘を開始した。

 気がつくと、時計は午前3時を指していた。
 流石に、少し眠い――む。
 ……少し、うとうとしてしまったみたいだ。コーヒーでも飲もうか。
 そう思った途端、突如真横からごとっと何か重いものが落ちた音がして、わたしはそちらを見た。
 ――なんだろ、これ。
 よく見るとそれは、巨大なカボチャだった。わたしくらいだったら、膝を屈めれば中に入れそうな――ん? 入れそうな? そこに引っかかった途端、突如としてカボチャが上下に割れ、
「と、トリック・オア・トリートっ!」
 真ん中には、仁王立ちになっているお母さんが居た。




『トリック・オア・ダンゴ!(だんごくれなきゃ悪戯するぞ!)』



「……奇をてらってトリック・オア・トリートメントの方が良かったでしょうか」
 カボチャの上半分を磯野さんちの猫のように支えたまま、よく見る制服姿でお母さんはそう言った。
「それはちょっと寒いんじゃないかな」
 実際にはかなり寒いと思うけど、そこは伏せて、わたし。
「っていうか、いきなりどうしたの?」
 その奇抜すぎる登場に、思わず三十秒ほど硬直してしまっていた。そんなもんだからちょっと凝ってしまった肩をほぐしていると、お母さんは、
「ええと、その……」
 そう言いながら持っていたカボチャの上半分を丁寧にした半分に合わせてからちゃぶ台の真向かいに座り、
「その、皆さん次の夏まで暇でして」
「――皆さん?」
 思わず首を傾げてしまう。
「霊園の、皆さんです」
「……ああ、うん。それで?」
 多分、夏というのは肝試しのことなんだろう。試される側でなく、試す側として。
「それで、どうにかハロウィンにしおちゃん達を霊園に連れてこられるように……」
「いや、無理だからそれ」
 はっきりきっぱりと、わたし。
「え……駄目ですか?」
 ちょっとショックを受けた様子で、お母さん。
「あのねお母さん。ハロウィンっていうのは肝試しじゃないんだから」
「そ、そうなんですかっ?」
 今度はショックどころでなく、ものすごく驚いた様子でお母さん。
「知りませんでした……」
「お母さんが子供の時はやらなかったの? ハロウィン」
 わたしがそう訊くと、お母さんは首をちょっと傾げて、
「そうですね……時々お父さんとお母さんがハロウィン用のクッキーを焼くくらいでした。わたしの世代ではやっている人が少ししか居なかったと思います」
「そうなんだ」
 わたしの場合、既に年中行事のひとつになってしまっている。そういえば、日本でハロウィンが盛んになったのはつい最近だって、ことみちゃんが言っていたっけ。
「まぁ簡単に説明すると、お化けの仮装をした子供達が、町中の家々を歩くのよ。『お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!』ってね」
「あ、だから『トリック・オア・トリート』なんですね」
「そういうこと」
 実際には必ずお菓子をあげる必要はないし、もらえなかったからって悪戯をすることもない。もっとも、お菓子をあげられない場合、玄関先に『お菓子はありません。ごめんなさい』といったプラカードとかを見えやすい位置に置くのが半ば常識になりつつあったりする。
「しおちゃんのおかげで大体はわかりました。でもそうなると、ちょっとわたし達の出る幕がなさそうです」
 少し寂しそうに、お母さん。
「そんなことないんじゃない? 要は子供達に紛れちゃえばいいのよ」
「どうやって、ですか?」
「それはもちろん、本物として」
 人差し指をぴっと立てて、わたし。
「なるほど、それは素敵です」
 と、手を胸の前で合わせながらお母さん。けれどすぐさま眉根が寄って、
「でもそのまま出たら、ただの百鬼夜行です」
 ……ああ、うん。それは確かに。たしかお母さん以外の人は皆お年寄りだったって言うし。
「そうだね……とすると、やるなら仮装して、町中の子供達に混じるくらいかなぁ」
「なるほど……」
「もちろんお母さんもそのままじゃ駄目だよ。小学生ぐらいの子供達に混じって高校生ぐらいの人が居たら普通に痛いから」
「い、痛いですか……」
 実際には、時折おとーさんと同い年の幼馴染みがはしゃいでいることがあるけど、それは無視しておく。あれはふぅさんだから出来る訳で……あ、名前言っちゃった。
 ――閑話休題。
「手っとり早くやるなら、被りものかなぁ」
「被りものというと――デパートの屋上や遊園地で観る着ぐるみとかですか?」
「そ。それなら中の人が幾つだろうがわからないし」
「ではだんごで――」
「言うと思ったけど、こういうときぐらいだんごはやめようよ」
 わたしも好きだけど、だんご。
「では、カボチャとかでしょうか」
「無難に行けばね」
「でも皆さんが同じカボチャというのも……」
「そういえば、お母さん達何人くらい居るの?」
「ええと――ごめんなさい、数えたことないです」
「結構多いってことね……」
 なるほど、それじゃ全員ジャック・オー・ランタンという訳には行かないだろう。
「とりあえずお母さんは、魔女役かなぁ」
「箒に跨ってイーヒッヒッヒですか?」
「そうそう、二回目はイ『イ』ーヒッヒッヒで――ってそこまで古い魔女でなくて良いと思うよ。端的に言うと、魔女の格好をするだけで良いと思う」
 ささっと、ノートの端にイラストを描いてみる。黒とオレンジのエプロンドレスを基調として、肩はふんわりとしたパフスリーブにして、スカートはちょっと短めで、後は黒い三角帽子を被って――あ、そうだ髪はエクステンションで伸ばしてみよう。
「でも、それだと正体がわかってしまいます」
 困った貌で、お母さん。
「そんなことないわよ。ほら所謂魔女っ娘って、服だけ替わっているのにみんな気付かないでしょ?」
 お母さんがぎりぎり大人にならない魔女っ娘(を観ている)世代で良かった。でないと説明がややこしくなる。
「後はそうだなぁ……あ。お母さんもそうだけど、他の人って歳を誤魔化すことって出来るの?」
「ええと、やったことがないのでよくわからないです」
 ちょっと困った様子で、お母さんはそう言う。
「なるほど。でも、子供の頃だと駄目だろうしね」
「どうしてですか?」
「本当に子供だと思われるよ」
「あ……確かにそうです」
「だから全員被りものにする必要があるけど――そうだ」
 わたしは立ち上がって、勉強机の上にある小さな本棚から一冊を探す。
「ええとね……あった。はいこれ」
 そう言いながらわたしが渡したのは、西洋の妖怪辞典だった。
「わぁっ――しおちゃん、すごいです」
 載っている絵を始めてみるのだろう。感激した様子で、お母さん。
「演劇の参考になるかなって、前に買ったものなの。これなら、お母さんの役に立つでしょ?」
「はい。すごく助かります」
 嬉しそうに、ページを繰るお母さん。
「これなら、大丈夫です……」
 お母さんがそう言うなら、これで多分、そちら側の問題は大丈夫だろう。
 後は――あ、そうだ。
「ところでお母さん、わたしも相談事があるんだけど、後でいい?」
 わたしはそう言ってみる。すると、お母さんは本から顔を上げて、
「今でいいですよ、しおちゃん。だってしおちゃんのことの方が、ずっとずっと大事なんですから」
 あ……。そう言ってくれると、とても嬉しい。
「ありがとう、お母さん。――あの、ね?」
 だからわたしは、大事なことをそっと口に出したのだった。



■ ■ ■



 もちろんいつかの夏の時のように、それらはすべて夢で、気がつけばわたしはちゃぶ台にもたれ掛かって眠っていた。でも、ただの夢ではないと思う。だって、ちゃぶ台の上に西洋妖怪辞典が丁寧に側に置かれていたし、ノートには可愛らしい魔女のイラストが描かれていたのだから。
 それから、数日後のこと――。
「一応聞いておくんだが」
 夕方、仕事から帰ってきたおとーさんが、すごく複雑な貌でそう言った。
「どうしたの?」
 夕飯を用意していた手を止めて、わたし。
「いやお前、昨日の夕方、商店街を仮装して練り歩いていたりしてないよな?」
 ……はい?
「さすがにその時間は、それほど暇じゃないけど……それに昨日なら今日と同じで夕飯作っていたでしょ?」
「だよな。やっぱお前じゃないんだな」
「何が?」
「いや、会社から帰るとき変な話を聞いてな」
 変な話。それがわたしとどういう関係があるんだろう。
「どんな話?」
 わたしがそう訊くと、おとーさんは狐に化かされままのような貌で、
「いや、夕方限定のパレードにお前が居たって言うんだ」
 はっきりと、そう言った。
「夕方限定の、パレード?」
「ああ。めっちゃプリッティなオレンジと黒の服を着た魔女を先頭に、やたら凝った仮装のパレードらしい」
「随分持ち上げるのね、その魔女」
 思わず両手に腰を当てて、わたし。なんだかんだ言っておとーさんがお母さん以外の女性をべた褒めしていると、ちょっとだけむっと来てしまう。
「いやだってな、帽子を深く被っているんで顔はわからないそうなんだが、姿形がお前にそっくりなんだと」
「はい!?」
 え、あれ!? それじゃ、そのパレードっていうのは……。
「結構本格的らしい。なんせジャック・オー・ランタンとか本当に浮いているようにしか見えないし、ウィル・オー・ウィスプに至っては本物の人魂に見えたそうだ」
「へ、へぇ……」
「そこまで凝っているなら、お前達演劇部が何かしたのかなと思ったんだが、無届けでそんなことしないもんなぁ」
「む、無届け?」
「ああ、そのパレードっぽいのは、商店街をはじめとして、街のどこへも許可を貰っていないんだ。しかも役場の担当職員が出向くと、どうやっても見つからないんだと」
「ふ、ふぅん……」
 それはもう、何処の誰がやっているのか確定だ。
「案外、本物なんじゃない?」
 まさか直接アドバイスしました、しかも夢の中で。とも言えず、わたしはそう誤魔化していた。
「ははっ、渚が遊びに来ているってことか。そいつはいいな」
「そ、そうだね。あははー……」
 なんというかその、あれだ。
 お母さん、やりすぎです。
「それはそうとな」
 そこで、おとーさんの口調がちょっと変わった。
「うん?」
「最近、何かあったのか?」
「え、なんで?」
 覚えがないので、そう聞き返す。するとおとーさんは何だか難し気な貌で、
「いや、ここ数日悩んでいるように見えたのに、ちょっと前から随分とすっきりとしているからさ」
 ――! なるほど。それはうん、大当たりだ。
「ちょっと、ある人に相談に乗って貰ったの」
 だからわたしは、そう言ってにっと笑ってみせた。



Fin.




あとがきはこちら









































「ヒトデ・オア・トリート!」
「あ、それは言うと思った」
「実際にはお菓子を貰わなくても、風子はヒトデをあげる気満々ですが」
「……だよねー」









































あとがき



 ○十七歳外伝、ハロウィン編でした。
 思いついてから書き出すまでに時間がかかってしまって、少し時期的に遅れてしまいました。まぁ、十二月にまで伸びなくて良かったです。
 それにしても、最近ハロウィンのプッシュが目立ちますね。もしかすると、クリスマスのように本当に定着するのかもしれません。
 さて次回は……コメディか、シリアスで。


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