超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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ガンガンスクロールさせてください。







































「いらっしゃい――ああ、パン屋の大将じゃないか。珍しいね」
「挨拶は後だ、親父。注文良いか? 女の子が好きそうなアニメの、お勧めを全部だ」
「ぜ、全部?」
「ああ、全部だ」
「……ああ、お孫さんだね」
「リトルドーター! リッスントゥーミー! リトルドーター!」
「はいはいリトルドーターね、リトルドーター。大量になるけど、いいかい?」
「大漁でも不漁でも構いやしねぇ、こっちゃ恥ずかしいんだ、早くしやがれっ」












































































  

  


『「『……私には、時間はいくらでもあるからね』」』
 その劇は、主演の汐の台詞で幕を閉じた。
 ほぼ同時に、聴衆から拍手が上がり、さらにほぼ同時に、画面の外で俺と春原が拍手をする。
 土曜の昼下がり、いつものアパートのいつもの一室。 
 ひとつだけいつもと違うのは、テレビにビデオカメラが接続されていることだろうか。
「いやー、演劇ってホントいいものだねっ」
「学生時代の最初の頃は、観るのも演(や)るのも嫌がっていたけどな、お前」
「それを言ったら、岡崎だってそうだろ?」
「そりゃま、そうなんだけどな」
 春原は仕事の都合で演劇部の公演が見られない場合、こうやってビデオカメラに収められたものを見に来ることがある。かく言う俺も、仕事の都合でどうしても観に行くことが出来ない場合はこのビデオを頼ることになっていた。
 本当に、撮影主――オッサン――には頭が上がらない。
「そういや、汐ちゃんの初舞台っていつさ?」
 鑑賞中はずっと正座だった脚を崩して、春原がそう訊いた。
「高校のは知らないな。一年間訊かなかったから」
 同じく脚を伸ばしながら、俺。
「……それはそれで興味深い話だけど、高校のはって、どういうこと?」
「ああ、それはだな」
 流石にビデオには収められていないので、俺は戸棚のアルバムを取るべく立ち上がった。
 同時に、遠い記憶を掘り返す。



『Little 1st Stage』



 それは、いつも通り幼稚園に居る汐を迎えに行ったときのことだった。
 園庭を横切って、園舎の入り口にある下駄箱に向かいながら、俺は首を傾げた。いつもは担任の杏と一緒に下駄箱の前で待っている汐が、その日に限っては居なかったからだ。
「ハイ、朋也」
 俺に気付いた杏が、片腕を上げる。
「杏、汐は?」
「もうすぐ来るわよ」
 にんまり笑って、杏はそう言った。
「――そうか」
 しかし幾ら待っても汐が来る気配はない。
「……来ないわけだが」
 少しばかり目をつり上げてそう訊く。すると杏は思案気に、
「……やっぱ照れちゃったかな」
「照れ?」
 俺が聞き返すよりも早く、杏は両手でメガホンを作ると、教室に向かって、
「汐ちゃーん! 朋也来てるわよーっ!」
 途端、奥の方からどたどたと足音が響いてきた。それは一直線にこちらに向かっている――音ではなく、文字通り右往左往しているように聞こえる。
 ややあって、
「パパ?」
 汐がひょっこりと顔を出した。
「……なんでまたそんな格好をしているんだ、お前は」
「えっと……」
 返事に困る汐。
 それはそうだろう。今、汐はバスタオルで全身をすっぽりと覆い、目だけを出している状態だったのだ。
 隣では、杏が目を丸くしていた。おそらく、杏自身にとっても予想外のことだったのだろう。
「忍者ごっこか?」
「ううん、ちがう」
「じゃあ、てるてる坊主?」
「ううん、それもちがう」
「わかった。セーラームーンだな」
「ううん」
「じゃああれか。赤ずきんチャチャ」
「うーん……」
「他に変身ものというと――カレイドスター?」
「カレイドスターは違うわよっ!」
 なぜかむきになって杏が反論した。
「っていうか朋也、汐ちゃんに通じる訳がないでしょ」
「残念だが、杏。古河パンにはビデオが全部揃っているんだ……」
「あ、そう……」
 そして汐はオッサンと(俺を巻き込み)そのほとんどを視聴済みであったりするのだが、そこは察してくれたのだろう、杏は大人しく引いてくれたのであった。
「で、汐はいつまで月光仮面やっているんだ?」
「それ!」
「……渋いわね、汐ちゃん」
 っていうか何で知ってる、我が娘。あれは確か、古河パンにもなかったはずだが……。
「大体それ、暑くないか?」
「…………」
 随分と困った様子の、沈黙。
「……あつい」
「だろ?」
 隣でくくく……と、杏が笑っている。
「じゃあ、取ったらどうだ?」
「ううん、このままがいい」
「駄目よ、汐ちゃん」
 そこで珍しく、杏から注意が飛んだ。
「折角お遊戯会の衣装を着けたんだから、朋也に見せてあげないと」
「お遊戯会?」
 聞き慣れない言葉に、横から俺。すると杏は、
「ええ、そうよ。各クラスでいろんな催し物を見せあいっこするの」
 あっけらかんと、そう言った。
「衣装って?」
「あたしのクラスはね――演劇なのよ」
 ああ、なるほど。演劇だから衣装……演劇!?
「汐が、演劇!?」
 思わず月光仮面状態の汐と、杏を見比べながら上擦った声を上げてしまう俺。
「そうだってば。言っておくけど汐ちゃんとあんただけを狙ってやった訳じゃないからね。クラスのみんなで多数決を取った結果なんだから」
「そりゃ、お前のことだから疑いはしないが……」
 それでも俺にとっては、まさに青天の霹靂であったわけだ。
「でね、朋也を驚かせようって話になって衣装を着て貰ったわけ」
「で、着たのはいいけど恥ずかしくなって月光仮面な訳か」
「まぁ、そんなところね」
「……うー」
 妙な唸り声を上げる、汐。
 どうも大人ふたりに看破されてしまって、不服そうな様子だった。
「ほーら汐ちゃん、ここまで来たら覚悟決めなきゃ。でないと朋也、夜も眠れないってよ?」
「そこまでは思ってないぞ」
 思ってはいなかったが、汐はそれを深刻に受け止めたらしい。一瞬さらに迷った目になったが、その後は真っ直ぐに俺達を見ると、
「わかった」
 そう言って全身を覆っていたバスタオルを取った。

 にゃーん。

「な、なな、なー!?」
 俺が奇声を上げた訳を説明しよう。
 それを杏は衣装と言ったが、実際には小道具に近いものだった。
 汐はいつも通りの園服を着ていたが、それに加えて頭には猫耳のカチューシャ、そしてスカートの裾からは尻尾がぴょこんと飛び出していたのだ。
 ちなみに毛色は黒。微妙に汐の髪の色と違っていたが、それが却って目立った効果を醸し出していた。
「し、尻尾はどうしているんだ、それ」
「下着の上からベルト状にして着けてあるの。スカートに直接付けるとずれやすいし、穴を開けるわけにも行かないでしょ?」
 にまにまと笑いながら、杏。どうも、今の俺の貌が想像通りのものであるらしい。俺が担任であったのなら、小悪魔の役を勧めているところだ。
「それじゃ汐ちゃん、今ここで演技見せてあげたら?」
「「えっ」」
 俺達父娘の声が、期せずして重なった。
「……はずかしい」
 反射的に被ろうとしたのだろう。脱いだバスタオルを両手に持って、汐。けれど汐より(そして俺よりも)一枚も二枚も上手な杏は余裕いっぱいの貌で、
「今ここでなら、見ているのはあたしと朋也だけよ? 練習だと思ってやっちゃいましょ」
 そう言われて気付いたらしい。汐はちょっと目を丸くしていたが、すぐに真剣な貌になると、
「……やってみる」
 はっきりと、そう言った。
「ん。それでこそあたしの教え子だわ」
「俺の娘だしな」
「その両方だからよ」
「違いない」
 それに加えて、あの渚の娘でもあるのだから、間違いない。
「それじゃ、いくね」
「おう」
「頑張って、汐ちゃん」
 俺達ふたりに声援を受けて、汐は力強く頷くと、いきなり片足立ちになった。そして両手を猫の前足のように顔の側で丸めて、
「にゃんにゃん、にゃんにゃんっ」
 こ、こ、これは!
 猫々しい! 実に!
 具体的に猫々しいというのが何かと問われたら困るのだが、それでもこう表現するしかない。猫々しい! と。
「に゛ゃー!」
 思わず上げてしまった俺の雄叫びに、汐がびくっと身を引いた。
「ちょっとあんた。汐ちゃん、ひいてるわよ」
 心底呆れた様子で、杏。
「すまん、つい……」
「感動した?」
「ああ……いろんな意味で、な」
「ほんとう?」
 驚いた様子で、汐が俺を見上げながら、そう訊く。
「ああ。だから本番、頑張れよ」
「うんっ」
 むぅ、ただでさえ可愛いのに、猫耳つけたままだとさらに可愛い。
 そんな、我が娘であった。



■ ■ ■



「まぁそんなこんなで、これがお遊戯会本番時の写真な」
 汐がにゃんにゃん踊っている写真を、春原に見せてやる。
「で、デカルニャー!」
「訳わかんないからな、それ」
 この頃の汐にはまだ演技に照れが入っていたが、それがまた可愛らしい。
「いいねぇ、これ! ビデオが無いのが悔やまれるよ」
「ああ、一緒に観ていたオッサンもそう思ったらしくてな。以降汐が何かするときはビデオに収めるようにしたんだ」
 最初は少し無粋かなと思っていた俺であったが、今となっては思い出語りの貴重な資料として、本当に感謝している。
「ただいまー」
 そこへ、学校から汐が帰ってきた。そして、ちゃぶ台の上に広げられたものに気が付くと、
「何それ? あ、懐かしいな」
 そう呟きながら、アルバムを取り上げる。
「ちょうど今春原とお前の初舞台の話をしていてさ。確か、これだったよな」
「そうだね……確か、中華飯店の猫さんだったっけ」
「よく覚えているな、お前」
 俺だって、にゃんにゃんは覚えていたが、具体的な役割は忘れていたというのに。
「わたしもアルバム見て思い出したところだけどね。――そっか、初舞台は猫耳だったんだね……ん、そういえばクリスマス公演の時のが確か……」
「? クリスマスがどうかしたか?」
「――っ! ううん、なんでもないの。着替えてくるねっ」
 そう言うと汐は急に慌てた様子でいつもより長めに箪笥を漁ると、すぐさま風呂場の脱衣所に飛び込んだ。
「? どしたの、汐ちゃん」
「さぁ……?」
 春原と俺が首を傾げていると、
「うふふふふ……」
 怪しげな笑い声が、風呂場の方から響いてくる。
「なに、本当にどうしたの?」
「いやだから、俺にもわからないって」
 さらにふたりで首を傾げていると、突然脱衣所の蛇腹が派手に開いて、
「おまたせにゃー!」
 ノースリーブのワンピースに、
「「ね、猫耳ーっ!」」
 という出で立ちの汐が飛び出し、
 俺と春原は、ほぼ同時にひっくり返ったのだった。



Fin.




あとがきはこちら











































「良く見りゃ肉球に尻尾と――至り尽くせりだな」
「ん、やるからには徹底的にね」
「で、なんで猫耳の衣装がまるまる家にあるんだ?」
「いやまぁ、ちょっと……(おとーさんが帰ってきたときに着て驚かそうと思っていたんだけど。ま、いいか)」





































あとがき



○十七歳外伝、猫耳編でした。
ただひたすら、猫耳の○が書きたくなってやっちゃいました^^。まぁ、たまにはいいんじゃないかな、と。
次回は……渚に着けて貰いましょうかw。




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