『中庭にて』(2002.01.06)



「どうしてここまで放って置いたんですか!?」
「いや、気付かなかっただけだ」
 いつもの中庭、いつもの昼休み。折原浩平は横になっていた。里村茜は耳かきを持っている。
 先程からどうも聞こえにくいとか言って、耳かきを繰っていた浩平を見かねて、茜が掃除役を買って出たのだが……。
「聞こえにくくなるまで放って置いてどうするんです」
「いや、いつもこんな感じなんだが」
「これからは定期的に掃除してください」
「わかった。その時は頼むわ」
「……はい」
 藪をつついて浩平を出したような顔で、茜は渋々頷いた。


「♪ん〜」
 茜の膝を枕に丸くなっている浩平。さながら昼寝をしている犬か猫のようである。
「そんなに気持ちいいですか?」
 耳掃除の手を休めることなく茜が訊く。
「うむ。まさしく至福ってやつだぞ」
「耳掃除でそんなに嬉しそうにしているのは、多分浩平だけです」
「いや、耳掃除だけじゃないからな。造りが見事な耳かきと、それを上手に操る茜と、膝 枕 が あ る か ら だ 」
「――最後の要素が大きいような気がするのは私の気のせいですか?」
「膝枕だけじゃないからな。茜 の 太 股 だ か ら だ」
 耳掃除の手がピタリと止まる。すぐに再開したが、その間に茜の頬にぱっと朱が散ったのを、浩平は気配で感じ取った。
「……ここに七瀬さんがいたら、サンドバックですね……」
「だから七瀬には言わんでください」
 冷や汗をかいて、浩平が懇願する。
「わかりました……後、長森さんにも?」
「里村さんにお任せします」
 何故かさらに冷や汗を流しながら、浩平。そんな彼に思わずくすりと茜は笑ってしまった。


「はい、終わりです」
 浩平の耳の中を耳かきが丁寧に上下していた感覚が、その言葉と共になくなった。
「ん。サンキュー、茜」
 いささか残念そうに浩平がもぞもぞと動こうとする。
「あ、待ってください。仕上げが……」
 そう言って浩平を制止すると茜は――、
「うっひゃおうわ!?」
「……訳の分からない悲鳴ですね」
「いや、だって……今何をした?」
「息を吹きかけました」
「俺に耳にだよな?」
「そうです」
 寝耳に吐息をはまさにこのこと。
「掃除の後で、よくそうして貰いませんでしたか?」
「いや、まあ、確かにな」
 子供の頃にはな。その言葉をぐっと飲み込む。
「はい。これで本当に終わりです。……浩平?」
 微動だにしない浩平に、少し心配になって声をかけたのだが……。むくりと起きあがると彼は開口一発、
「茜、次は俺が茜の耳掃除をしたい」
「嫌です」
「何故?」
「眼が、血走ってます」
「気のせいだ」
「どっちみち、先週自分で掃除しましたから」
「なら、そろそろ見てもいいだろう?お礼も兼ねて、な?」
「……わかりました」
 浩平があまりにも目を輝かせるので、仕方なく彼に膝に頭を預ける茜。


 ――で。数分後、かわいらしい悲鳴が上がって。
 以降しばらくの間、茜は浩平に自分の耳を触らせなかったとか。



Fin




あとがき
 今年最初のSSは、去年最後のSSと同じく、ONEでした。
 今度は茜支援で、某所に送り込んだSSです。にしても私も耳掃除されたい(笑) 

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