超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「ぷち演劇シリーズその5、昔懐かしの赤ずきんなんとか! 今回はアニメ版準拠ってことで、わたしはマジカルプリンセス!」
「……変身前は?」
「毎度毎度のオチ担当に飽きた風子です」
「変わりすぎにも程があるだろ、常識的に考えて」
「そしてかとり――狼男の彼氏は春原のおじさま!」
「え? 僕?」
「で、変身後はボタン!」
「狼じゃないだろ、それ……(もしかして俺が人形抱いた先生役じゃないだろうな……)」








































































  

  


 今朝の新聞では、今日は一日中晴れとあった。
 念のため点けてみたテレビでも、今日は一日中晴れでしょうとあった。
 だからって、折りたたみ傘の一本も持たないで下校したのが失敗した。
「あーもうっ!」



『雨中忙有』



 今わたしは全力で町を走っている。
 下校途中で降り出した雨が、商店街に差し掛かった辺りで豪雨と化したのだ。
 行くも戻るも中途半端な距離、ならば前のめりにと言うことで家へ急いだのけど、真っ向から叩きつけてくる雨粒のせいで、スピードは普段の半分も出ていなかった。
 それにしても、制服はともかく下着まで水に濡れると、なんというかその――ものすごく気持ち悪い。
 水着ってすごい、流石下着より高いだけあるなぁ等と思いながら前髪から滴る水を拭い払ったとき――、
「岡崎さん!」
 聞き慣れた声が横から響いて、わたしは急ブレーキをかけた。
 声をかけたのは、カフェ『ゆきね』の店長、宮沢有紀寧さん。そう、気が付いたらわたしは、『ゆきね』の前に居たのだ。
「こちらへどうぞ。雨が止むまで雨宿りしていって下さい」
 お店のドアを開けたままでそう言う店長。
 それは、ものすごく嬉しい申し出に違いない。けれど――、
「お気持ちは嬉しいですけど、お店が水浸しになってしまいますから……」
 おでこに張り付いた前髪を払いながらわたしはそう言った。すると店長は珍しく強めの口調で、
「遠慮はいりません。それにそのままだと風邪を引いてしまいますし」
 ……そうだった。うちでは風邪は御法度、うっかり熱を出した日には、色々な人を心配させてしまう。
 だから、わたしは素直に頭を垂れた。
「ご厄介になります……」
「そんなに頭を下げる必要はありませんよ。さ、こちらへ」
 店長に導かれるまま、わたしは通い慣れた店内に足を踏み入れる。一歩歩く毎に、小さな水たまりが出来てしまうのが、申し訳無かった。
「そのまま奥へどうぞ。まずは――シャワーですね」
 初めて入るお店の奥は、古河パンと同じく居住スペースとなっていた。というより、
「お店とお住まい、一緒だったんですね」
「ええ。開店当初はアパートを借りて通っていたんですけど、改装の際に一緒にしてしまおうと思いまして」
 事務所用の空きスペースを改造してしまったんです、と店長はにこやかに続けてくれた。
「はい、ここがお風呂場です。脱いだものはそちらの籠に入れておいて下さい。私は今のうちに代わりの服を探しておきますね」
「わかりました」
 それではごゆっくり――と言って別室に移動する店長に一礼して、わたしは雨水で身体に張り付いたしまった制服をどうにか脱いで、お風呂場に足を踏みいれた。
 早速シャワーの栓を捻って、湯気が出てきたらさっと身体に――、
「熱っ」
 慌てて設定温度を見る。うん、40度で間違いない。
 そこではじめて、身体が冷えきっていることに気付いた。
 店長に声をかけてもらわなければ、本当に風邪を引いていたのかもしれない。しみじみとそう思っているとこんこんと浴室のドアを叩く音がして、
「替えのお洋服、此処に置いておきますね」
 店長がそう言った。
「あ。ありがとうございます」
「では私は表に戻っていますので、何かありましたらそちらの方にお願いします」
「わかりました」
 熱いお湯で体温を取り戻してから、手早く身体を洗い、お風呂場を後にする。
 脱衣場でバスタオルを駆使して余計な水分が残らないよう徹底的に身体を拭いてから、綺麗に畳んであった服を取り上げて――わたしは首を傾げた。
 これって、もしかして?



「あの……」
 奥に上がるときに脱いだ靴は丸めた新聞紙が丁寧に詰められていて、代わりにサンダルが置いてあった。それを履いて、わたしはおずおずと店長に話しかける。
「早かったですね、岡崎さん。体は暖まりました?」
「ええ、お陰様で助かりました。それより、用意していただいたのを着てみたんですけど……」
 そう言いながらカウンターの方に進むと、店長は嬉しそうに目を細めて、
「私のだと一回り小さそうでしたからそれにしたんですけど、良く似合いますよ」
 そう誉めてくれた。
「ど、どうも……」
 少し照れてしまう、わたし。
 店長が用意してくれたのは、ウェイトレスの制服だった。
 お母さんが働いていたファミリーレストランのそれは、背中や胸元が大きく開いた大胆なデザインだったけど、こちらは白のブラウスに黒いタイトスカート、そして同じく黒いエプロンと、シックなデザインに落ち着いている。しかも店長と細かいデザインが一緒で、違いと言えば店長の方がスラックスであることぐらいだった。
「でも……いいんですか?」
「ええ。元々夏休みなどの繁忙期に臨時でお願いするアルバイト用のものですから」
「なるほど……」
 元々レンタル用だったとなると、少し気が軽くなる。
「それにしても、すごい雨ですね」
 店長にそう言われて、改めて外を見てみる。
「うわ……」
 窓からの景色を見てみると、豪雨はさらに激しさを増していたようで、まるで白い霧に包まれているようだった。風も強くなっているのか、時折雨がカーテンのようにうねっているのも見て取れる。
「この雨で、良くわたしだってわかりましたね」
「最初は学校の生徒さんとしかわからなかったんですよ。でもそのままでは忍びないのでドアを開けたら、あ、岡崎さんだな――と」
「そうだったんですか」
 おそらく、店長は見ず知らずの生徒でも助けたのだろう。そう思う。
「最近は、本当に多くなりましたね」
 ぽつりとそう呟く、店長。
「この雨……ですか?」
「ええ。昔はこんな豪雨、そう滅多にありませんでしたから」
「そうなんですか……」
 店長とふたりで、白く染まった外を眺める。
「……これじゃ、流石にお客さんは来ないですね」
「いえ、来ますよ」
「え?」
「もうそろそろです」
 時計を指さして、店長。その長針は、間もなく12を指そうとしていて――、
「ゆきねぇ、お邪魔しますぜ」
 12ジャストになった途端、常連のお客さんがどっと入ってきた。何故常連だとわかるのかと言えば、わたしが来ているときにはほぼ確実にいることと、その屈強な外見からだった。
「いらっしゃいませー」
 それにしてもすごい。皆、この豪雨をものとせずやってくる。
「外の具合はいかがですか?」
「あー、そろそろ道が川になりつつあるな」
 恐らくお店に対する配慮だろう。懐からハンドタオルを持ち出して体のあちこちを拭きながら、カウンター席に座る常連の皆さん。
「そうですか……そろそろ入り口から雨水が入ってこないように、土嚢の準備が要るかもしれませんね」
「いや、ここら辺はまだ大丈夫だろう。川沿いの方はそろそろ不味いかもしれねぇが……」
「そうでしたか」
「ああ、決壊までは行かないと思うけどな」
「そう聞くと、いつかの河川敷の乱闘を思い出すのう」
「おう、雨ん中やっとったら敵味方まとめて鉄砲水に流されたやつな、あれは危なかったわい」
「オレなんざ、海まで流されたからな!」
 そこでがはははは! と笑いあっているが、とても笑い事には聞こえない話だった。
「それはさておき、アイスコーヒー!」
「わしホット」
「オレはカフェオレで」
「畏まりました」
「――あの」
 コーヒーメーカーに向かおうとする店長を、わたしは慌てて呼び止める。
「? 岡崎さんもご注文ですか?」
「いえその……わたし、手伝いましょうか?」
 少し意外そうに、店長が首を傾げた。
「いいんですか?」
「はい。雨宿りのお礼です」
「わかりました。よろしくお願いします」
「はいっ!」
 エプロンを締め直して、わたしは気合いを入れ直した。
「では、私はコーヒーを淹れることに専念しますので、配膳の方は岡崎さんにお願いします」
「任せて下さい」
「これから他のお客さんも来ます。少し、忙しくなりますよ?」
「頑張ります」
 どんと胸を張ってそう答えると、店長は助かりますと言って笑顔を浮かべてくれた。
 そして――、
「コーヒーのおかわり貰えるかしら?」
「カフェモカ、ヘイゼルナッツシロップ付きで」
「済みません、塩下さい……」
 忙しくなると言うのは本当だった。いつかのファミレスほどではないけれど、結構忙しい。
 店長はコーヒーをほぼノンストップで淹れ続け、わたしは次々と注文を伝え、飲み物を運ぶことに集中した。
 そんな中、雨は勢いを緩めたものの、一向に降り止む気配を見せない。
 常連客のみなさんはというと、「次は何がアニメ化するかのう」「『カブのイサキ』!」「『異国迷路のクロワーゼ!』」「マニアックだなオイ」と密かに盛り上がっている。
 そしてそれでも出入りが止まらない他のお客さん達はと言うと、皆一様に外を見ているのが印象的だった。
「雨、止みませんね」
 ひと段落した店長が、外を眺めながらそう言う。
「そうですね……」
 同じく一息ついて、そう答えるわたし。
「おとーさん……大丈夫かな」
「お仕事の方ですか?」
「それもあるんですけど、急な修理でない限りは、こういう天気の時は早く帰ってくるんです。だから、私が居ないと心配しないかなって」
「そうですか……では、お呼びしましょうか」
「はい?」
 携帯? でも店長おとーさんの番号知っていたっけ――ってまさか。
「……あるんですか、そんなおまじない」
「はい、あるんです」
 カウンターの下から、古い古いおまじないの本を取りだして、にこやかに答える店長。
「やってみますか?」
「ええ、是非とも」
 過去数回、そのおまじないの威力を目の当たりにしているわたしにとって、拒否するという選択肢はありえない。
「では――ええとですね、此処に来て欲しい方のことを強く頭に思い浮かべて下さい」
「はい……」
「そうしたら、『オトメザウマレハせんちめんたる』と三回唱えて下さい」
「お、オトメザウマレハせんちめんたる、オトメザウマレハせんちめんたる、オトメザウマレハせんちめんたる!」
「最後に一言、『モハヤアイ!』と唱えれば完了です」
 それってもしかして、本来は好きな人を呼び寄せるおまじないなんじゃないだろうか。そう思いながらも、わたしは深く息を吸って、
「モハヤアイ!」
 多少恥ずかしかったが、はっきりとそう言い切る。
 その途端、見慣れたバンが道の脇に止まった。
「いらっしゃいませ――あら、岡崎さん、芳野さん」
 ……来た。本当に来た。
「済まない宮沢、ちょっと雨宿りも兼ねてコーヒーをふたつ――って汐? なんでお前此処にいるんだ? っていうか、なんでまた制服着ているんだ?」
「ええと……」
 嬉しさ半分、困惑半分がないまぜになったまま、そう答えるわたし。
 説明するのが、ちょっと長くなりそうだった。



Fin.




あとがきはこちら











































「……下まで濡れていたんだよな」
「うん、まぁ」
「替え、用意してもらったんだよな」
「うん、まぁ」
「……宮沢には悪いが、下着の下はともかく、上の方はサイズが合わなかっただろう。一体どうしたんだ?」
「それはもちろんノーブラ」
「なん……だと」
「一応言っておくけど、服の下にちゃんとTシャツ着てたからね」
「――そ、そうだよな。ははは……」
「なにを想像していたのかなー?(返答次第によってはだんごスペシャルです)」
「……ははははは(勘弁してください)」





































あとがき



 ○十七歳外伝、梅雨編でした。
 最近本当にしとしと降ると言うより、がーっと降ってさっと止むパターンが増えてきたように思えます。その内、しとしと降る方が珍しくなる――なんて事にならないと良いんですが。
 さて次回は、海の話で。



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