超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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ガンガンスクロールさせてください。







































「ぷち演劇シリーズ4。マクロスなんとか〜。っていうわけでわたしがヒロインその2の『銀河の妖精』。これって、大胆な配役なんだからねっ!」
「中の人的にいつかやると思っていたが案の定俺が主人公か……で、もう片方は?」
「わ、わたしがヒロインその1の『超時空シンデレラ』らしいです、朋也くん。……でも、超時空って何なのでしょうか」
「いや、俺に訊かれてもな」
「そんなことより、おとーさんは誰とキスのするのかな?」
「…………」
「朋也くん?」
「……汐、渚、お前達は――俺の翼だっ!」









































































  

  


 汐が無事に幼稚園を卒園した。
 秋口に入ってから冬の最中迄高熱に苛まれていたこともあって、卒園式では『俺が』人はばからず泣いてしまったこともあったが、今は特に問題もなく、こうして普通に休日の朝を過ごしている。
 あと一週間足らずで、汐は小学生になる。
 かつて、汐が生まれる前がそうであったように、部屋には今後必要なもの――ランドセル、教科書、ノート、エトセトラエトセトラ――が積み上げられており、微笑ましくもあり、少し残念でもある。
 そう。汐が小学生になれば、今までよりも父娘として一緒に居られる時間も減るだろう。
 だから――、
「なぁ汐、どこか行きたい処ないか?」
 俺は、そう訊いていた。



『思い出のあの場所へ』



 俺のそんな提案に、寝そべって絵本を読んでいた汐は顔を上げると、行儀よくちゃぶ台に座って、
「どこか?」
 そう訊いてきた。
「そう」
「どこでもいい?」
「ああ、汐が好きなところなら」
 外は天気も良いし、春とあって寒くもなく暑くもない、いわゆる行楽日和だった。
 だからすぐさま、汐は希望の場所を言うと思っていたのだが――、
「うーん……」
 そのまま、悩みだした。
「どうした? 行きたい処無いのか?」
「あるけど……」
 上目遣いに汐はこちらを見上げると、
「でも、とおい……」
 そう言って、視線を逸らしてしまう。
「何処なんだ?」
 決して問いたださないよう注意しながら訊くと、汐は再び上目遣いでこちらを見上げ、
「……おはなばたけ」
 ぽつりとそう言った。
 多分、近場のそれとは違うだろう。汐の言うその場所は、ずっと遠くのあの場所のことに違いなかった。
「――確かに、ちょっと遠いな」
「うん……」
 そこは流石に、日帰りでは無理がある。
「他に何処か無いのか?」
 多少離れた場所の遊園地あたりでも、今日一日いっぱいを使えば十分遊べるだろう。そう考えながら俺が訊くと、汐は再び悩む素振りを見せてから、
「パパは?」
 逆に、そう訊いてきた。
「俺か? 俺は……」
 そう言いながら、窓の外を見る。
 もう少しで四月。まもなく、桜が満開になるだろう。
 ……桜。
 即座に浮かんだのは、あの明るい光に包まれた、桜の花びらが舞う長い長い坂の光景。
「……渚と――ママと初めて逢った場所、かな」
 俺がぽつりとそう言った刹那――、
「そこがいいっ!」
 ちゃぶ台を叩きつけんばかりに両手をついて立ち上がり、汐はそう言った。
「パパ、そこがいいっ」
「え、でもいいのか?」
 思いつきで言っただけで、実際はすぐ近所であること、そして汐が思いもしなかったほど食いついてきてくれたことに驚きながら、俺はそう尋ね返す。
「うんっ」
 対する汐の返事は曇りひとつ無い肯定だった。
「よし、じゃあいこうか」
「おー!」
 久しぶりに、張り切る汐の声を聞いた気がする。



 汐を連れて外に出ると、春特有の暖かな風が俺達の身を包んだ。
 それだけで、何故か新鮮な気分になる。
 まずは小道を抜けて、通学路へ。
 そこでまた、初めてのものに触れたとき特有の身が引き締まる感じを覚えたのだが、考えてみればこのアパートから学校へ通っていたのは、俺ではなくて渚であったのだから、当然といえば当然の話だった。
 ふたりで手を繋ぎながら、通学路を歩く。
 高校も今の季節は春休みなのだろう。学生とは一人もすれ違わなかった。
 此処まで来ると、通いなれた感覚を思い出す。その分余裕も出て、手の繋がった先――汐を見てみると、当の本人は、いつになく真剣な顔でしっかりと前を向いていた。まるで此処までの、これからの道のりを目に焼き付けんばかりに。
 空は変わらず晴れていて、風は暖かく、そして暑くも寒くもない。
 そして辿り着いたその場所は、あの頃と全く変わっていなかった。
 いや、よくよく見てみれば、細かい所は変わっている。
 アスファルトは当然のことながら敷き直されているし、歩道も若干ながらその幅を広げている。そして、この坂を特徴づけていた桜並木には、新たに若木が植えられていた。おそらく汐がもう少し大きくなれば――あのときの俺達くらいになれば、立派に成長しているだろう。
 そう、それだけ変わっていれば、あの時と変わっていないとは言えないはずだ。けれども、この坂を包んでいる空気は、あの時と全く変わっておらず、まるで今まで時を止めていたかのように、俺には感じられたのだった。
 汐と手を繋いだまま、あの坂を見上げる。坂の上の方は、アスファルトが日の光を反射してよく見えなかった。
 俺は立ち止まって、長く長く息をつく。
「ここ?」
 俺に会わせて足を止めた汐が、そう訊いてきた。
「ああ、ここだ」
 端から見れば奇妙な光景に見えただろう。いい年をした男と小さな子供が、手を繋いで通学路の坂を見上げているのだから。
「なんてことない場所だろ?」
「ううん」
 汐は首を横に振る。
「あかるくて、あったかい」
「そうか……」
 そう言って貰えると、嬉しかった。
「パパ」
「なんだ?」
「ママはどこにいたの?」
「ん? んー……」
 俺は記憶を頼りに微妙に前後に動く。そして、汐もそれを真似するようについていってくれた。
「――と、ここかな。汐、俺から三歩――いやお前の場合五歩か。ちょっと坂を下りながら離れてくれ」
 俺が歩数を修正した意味を察したのだろう。まるで幅跳びのように大股で汐は三歩下がると、
「ここ?」
 振り返りながら、そう訊いてきた。
「ああ、その位置だな。そこでママ――渚は……」
 その時、春特有の強い風が坂の上から吹いてきた。
 俺は汐を庇うよう風上に立ち、次いで顔を庇おうと手をかざして――、
 その視線の先、光に包まれた桜吹雪の中。
 坂の上からこちらを振り返る、あの制服を着た渚の姿が見えた。
「パパ?」 
 汐に袖を引かれて、我に返る。
 無論、坂の上には誰もいない。
「どうしたの?」
「――いや、何でもないよ。お前こそ、大丈夫だったか?」
「うん」
 風で多少乱れた汐の髪を、手櫛で直してやる。
「それで、ここでママが『あんパン』?」
「そう、今お前が立っているところであんパン、だ。そして初めて話をして、ふたりでこの坂を上っていったんだよ」
 もう一度、ふたりで坂の上を見上げる。
 俺はあの頃を思い出しながら、そして汐は――おそらく今の風景を忘れないように。
「なぁ汐。そろそろお昼を食べに行かないか?」
「うん」
 日は中天に差し掛かっていた。ここから商店街あたりにまで行けば、丁度良いお昼時となるだろう。
「パパ」
「ん?」
「また、ここにきたい」
「そうか、ならまた連れていってやるな」
「うんっ」
 後に俺は、『またここにきたい』の別の意味を知ることになる。それは、汐が高校の進路を選んだ時の話になるのだが――それはまた、別の話だ。
 再び手を繋ぎ、俺達は坂を後にする。
 俺はまだ、渚の居る場所には行けない。汐に至ってはなおさらのことだろう。
 でもあの一瞬、坂の上から振り返っていた渚は笑顔を浮かべていた。これだけ長い時が経っていても。
 ならば俺も汐も、笑顔でいよう。……そう、思う。



Fin.




あとがきはこちら











































「それじゃわたし達母娘で『トライアングラー』唄いまーす!」
「内容的に割と洒落にならないからな、それ」
「それじゃ、『ライオン』の方がいい?」
「もっと洒落にならないだろ、歌詞的に考えて……」





































あとがき



○十七歳外伝、朋也の回想編でした。
前回で坂を舞台に持ってきたときから、朋也の視点で此処の話を書きたくなり、ちょっと時期を外しましたがこのようになりました。
さて次回は……雨の話か、海の話で。


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