超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「ぷち演劇シリーズその3。各所からのご要望にお応えし薔薇乙女。というわけで、わたしが五女の赤い人――なのだわ」
「そのチョイス作者の趣味よね……。で、あたしが前回と一緒で三女の翠な子――ですぅ」
「四女の蒼い人になってしまいました……確かに双子で髪型も似てますけど――キャラ付けが難しいなぁ」
「私が長女の黒か。正直、これだけ背中の開いている服は恥ずかしいんだが……何? 台詞? ひ、ひ、ひ――『跪きなさぁい』って恥ずかしくて言えるかっ」
「そして風子が知性溢れる次女役ですか。納得です――かしら!」
「「「「「ああ、うん。ある意味納得」」」」」



「おい汐、ピンクの六女は誰なんだ?」
「わたしです、朋也くん――なのよー……」
「無理するな無理するな」









































































  

  


 中間試験の終わった五月末、私は手早く荷物をまとめると、級友との挨拶もそこそこに帰路へと向かった。
 試験が午前中に終わった関係で、まだ日は高い。
 そんな真昼の中、校門から市街へと至る長い長い坂をゆっくりと下りながら、私は今期の中間試験のことを考える。試験に対する予習は十分とったし、事実手応えはあった。高校生活で初めての中間試験だったが、手前味噌ながらうまく言ったと思う。
 そんなことを考えながら坂を下りきったところで、ふと足を止めた。
 見上げてみると、若葉が生い茂る桜の枝から、木漏れ日が差し込んでいて――私は目を細める。
 ……この坂のこの場所で、私はある先輩と出会った。
 その先輩のおかげで、今私はこうして普通に登下校出来ていると言っても過言ではない。
 そう言う意味では、この場所は私にとって特別な場所であった。同時に、かの先輩にとっても此処は大事な場所であるそうだが――、
「なーにしてるのかな〜?」
 突如背後から聞こえたその声は先輩――岡崎汐演劇部部長――のもので、次いで有無を言わせない力強い抱擁により、
「ひゃああああ!?」
 私は、情けない悲鳴を上げてしまっていた。




『人の集う坂』



「ごめん、そんなに驚くとは思わなかったから――びっくりした?」
「ええ……」
 呼吸を整えながら、私はそう答えた。
「大丈夫? どこかぶつかってない?」
「いえ……」
 強いて言うなら、私のとは比べ物にならない胸が当たっていたが、口に出すことではない。
「そう、よかった」
 そう言って微笑む岡崎部長。そこまではいつも通りの頼れる先輩だったのだが、急に貌が緩んだかと思うと、再び私に抱きついて、
「で、こんなところでどうしたのかな〜?」
 妙に気が高ぶった様子で、そう訊いてくる。
「す、少し考え事をしていたもので」
「考え事?」
 岡崎部長の長い髪が、傾げた首に併せてさらりと流れ、私の肩に触れた。
「はい。この場所に何かあるのかなと……」
「何かって?」
 さらにそう訪ねる岡崎部長に、私は考えをまとめながらゆっくりと、
「その……この坂で私と岡崎部長は出会って、私はこうして演劇部員になりました。あの出会いがなければ、今の私は無かったのではないかと。それで、この坂には何かあるのではないかと思いまして……」
 我ながら奇妙なことを言っている。けれども岡崎部長は、
「なるほどね――」
 静かにそう頷いて、私からそっと離れた。そして先ほどの私がやったように上を見上げる。私も併せて再び見上げてみると、先程と同じ木漏れ日が変わりなくそこにあった。
「確かにね、」
 見上げたまま、岡崎部長はそう言う。
「確かにわたしも、わたしのおとーさんも此処で『出会い』があった。それはおとーさんにも、わたしにも、とても大きな出来事だったと思う。でもね、」
 視線を私に向けて、岡崎部長はさらに続けた。
「大切なのは、この場所で何があったかということ。ただそれだけだと、わたしは思うの。場所じゃなくて出来事――その思い出、をね」
「出来事……ですか?」
「うん、そう。わたし個人の考え方だけどね。だって、その場所が無くなっちゃっても、その思い出が消える訳じゃないでしょ?」
 そう言って、岡崎部長は鞄を持ち直して振り返ると、坂の上を見上げた。
「だから、この場所には何かあるわけではないと思うよ。個人個人――わたし達にとって、特別な場所ではあるかもしれないけどね」
「なるほど……」
 私は、頷くしかなかった。正直に言ってしまえば、それほど深くは考えていなかったのだ。
 けれども岡崎部長は、まるでずっと昔からそのことを想っていたかのように考えを述べていた。それはつまり、それだけこの場所に――岡崎部長の言葉を借りると、この場所で起こった『出来事』に――想い入れがあるということなのだろう。
「まぁ、あのときに出会ったのも何かの縁、そして今こうしているのも何かの縁ってことなのかもね」
 そう締めくくった岡崎部長は、やにわに私の肩に腕を回すと、
「そういうわけで、この後暇なら、わたしにつきあってくれる?」
 悪戯っぽい貌で、そう訊いてきた。
「それは構いませんが……あの、岡崎部長」
「うん、何?」
「何故今日はそんなに……ハイテンションなんですか?」
 きょとんとされてしまった。どうも私は見当違いの質問をしてしまったらしい。
「だって、試験が終わったじゃない」
「試験が終わったから――って部活動は明日からですよ」
「そうよ。明日からまた忙しくなるからそのつもりでね。でも今は――」
 私から離れてくるりと綺麗に一回転し、岡崎部長は笑顔を浮かべる。
「思いっきり遊ばないとね。時間は有効に使わなくちゃ」
「は、はぁ……」
 思わず生返事をしてしまった私を、岡崎部長はまるで抱き抱えるようにして引っ張っていく。
「さ、まずはあっきーのところで少年野球の助っ人。続いて一回家に戻ったら演劇部有志のカラオケ大会! そしてラストは早苗塾の特別講師の三本立て! 精一杯、楽しみましょ」
「た、楽しみましょというより……」
 重労働のような気がする。けれども私は結局をそれを口に出さず、朗らかな貌をした岡崎部長にずるずると引きずられたまま、午後を過ごすことしたのだった。
 今まで体験したのことのない、試験明けに期待を寄せつつ……。



Fin.




あとがきはこちら











































「ただいまー。あー、疲れた……」
「お疲れ。試験大変だったか」
「んーん、その後の遊び疲れ」
「……そうか。何にせよ、程々にな」





































あとがき



○十七歳外伝、試験明け編でした。
なんだかんだ言って、最後に定期試験を受けたのが十年前で、今の中間期末がいったいどう言った物なのかさっぱりわかりませんが、それでもあの試験明けの解放感、今も覚えている自由な空気は変わらないと思います。やっぱり何事にも、息抜きは必要ですよね。

さて次回は、回想編で。

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