超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「ぷち演劇シリーズその1、坂を大いに盛り上げるしおちゃんの団。――なんちゃって」
「ひょっとしてつっこみ役、俺か?」
「なんとなく、配役が想像出来てしまったの……」
「風子が知性的な解説役ですね。わかります」
「「「いや、それはないから」」」








































































  

  


 俺達を乗せた会社のバンは、ある坂の上りにさしかかっていた。
「どうした岡崎、外ばかりを見て」
 坂に入ってから外を眺め続けていた助手席の俺に、運転席から芳野さんがそう声をかける。
「いや、なんか不思議な気分なんですよ。あの坂を車でのぼる日が来るなんて」
「なるほどな……そう言われてみれば、そうだ」
 そう。この坂は、俺達が登下校するたびに通った坂だった。恐らくあと一時間早ければ、登校する生徒達を抜き去りながら、あの学校へと目指すことになっただろう。
 だが、今は人ひとりっこ居ない。落ちこぼれの男子生徒と長期休学を余儀なくされた女子生徒は、今の世代には居ないようだった。
「あ……」
 あの景色を、一瞬で通り過ぎる。
「――岡崎?」
「いや……なんでもないです」
 他の人ならありふれた光景、何処にでもある場所としてしか認識されないのかもしれない。
 でも今過ぎ去ったそこは――少なくとも、俺にとっては――、渚と出会えた大切な大切な場所だった。




『ふたりと、学校の風景』



■ ■ ■



「うっしー、置いてくよー」
「あ、ごめん。今行く」
 クラスメイトのひとりにそう急かされて、わたし岡崎汐は慌てて書き込みだらけのノートを閉じると、移動教室に向かう友人達に合流した。
「演劇の台本?」
「うん、そう」
 最初にそう声をかけたクラスメイトがそう訊いたので、わたしは素直に肯定する。二年、三年と一緒のクラスな上に、同じ演劇部員なのだ。特に取り繕う必要なんて無い。それに――、
「何が『うん、そう』なのかしら、岡崎汐?」
 多少低い声でそう言ったのは、やっぱり二年生からずっと一緒にいる、
「委員長……」
「誰が委員長よ」
 たまには名前で呼びなさい、と委員長。
「良いじゃない、今年も委員長なんだし。それに前から思っていたけど、昔からそう呼ばれていない?」
「そりゃ小学校から委員長ってあだ名だったけど。後はデコメガネとか」
「……デコメガネ?」
 と、わたし。
「そうよ。中学までの話だけど」
「え、じゃあ昔は眼鏡だったんだ」
 というクラスメイトの質問に、
「ええ。高校からコンタクトに代えたの」
 簡潔に応える、委員長。しかし、それは――。
「うーん、勿体無い……」
「勿体無いよねー」
「ちょっと、なんでそうなるのよ……」
 頭が痛そうにこめかみをほぐす委員長。
 でも、わたしと並ぶくらいの長さで、わたしより黒くて艶やかな髪を持っていて、しかも前髪はシックなカチューシャで留めたオールバック。そこに眼鏡が加われば……。
「完璧に委員長だったのに」
「だよね〜」
「……何を想像しているのか、きっぱりはっきりわかったわ」
 これ以上突っ込みは入れないわよ、と委員長。
「まぁ委員長は、委員長ってことよ」
「その通りかもしれないけれどね……。って誤魔化さないで頂戴。前の授業中、貴方ずっとその台本を書いていたでしょう」
 ……う。
「残念、ばれていないと思っていたのに」
「お生憎様。貴方のやることは大体想像がつくわ」
 わたしより前の席なのによく気付いたものだと思う。
「言っておくけど、さっきの授業のノートは見せるつもりはないわよ」
「あ、それは大丈夫。平行して要点だけはメモに取っておいたから」
「どういう脳をしているのよ、貴方……」
 呆れたかのように、そう言われてしまうわたしだった。
「まぁうっしーが少しぐらい授業さぼっても心配はしないけど……台本、上手く行ってないの?」
 とクラスメイトが心配そうに訊く。
「ううん、それほどじゃないの。ちょっと細かいところをいじくっているだけだから」
「ならいいけど……」
 と、なおも心配そうにクラスメイト。それほど疑っているわけじゃないと思うけど、まぁそれも無理はないと思う。
 なにせ彼女は演劇部副部長。部長であるわたしにとって、お互いなくてはならない存在なのだ。
「でもごめんね、私台本の手直しとかそういうの苦手だから……」
 そう言う副部長が、わたし以上に部員のみんなをまとめられることを、わたしは知っている。
 こういうのをきっと、適材適所と言うのだろう。
「いいのいいの。もう修正は終わっているし、後は放課後の練習で細かくチェックするから」
「うん、わかった。無理しないでね、うっしー?」
「大丈夫大丈夫。無理だけはしないようにしているから。とりあえず台本の回し読みは予定通り、部室でね」
「うん、みんなに伝えておくね」
「あ、部室で思い出したけど――」
 そこへ、本当に思いだしたかのように、委員長がそう言う。
「今日の午前から、旧校舎の整備に業者の方が来るそうよ」
 わたし達の演劇部に限らず、文化部運動部問わず部室は皆旧校舎にある。だから委員長はそれに気付いたのだろう。けれど――、
「じゃあ旧校舎使えないの?」
 それはちょっと、困ることだった。
「電源だけだから、大丈夫でしょう。何でも利用している部活から照明がなんか変だって言う連絡を生徒から受けたそうだけど――」
 ?……あー。
「それ、提言したのわたしだわ。蛍光灯が旧いのも新しいのもみんな妙に点滅していたから、多分電源かなって」
「点滅、してたっけ?」
 と首を傾げるクラスメイトだが、委員長は首を縦に振って、
「朝現場を見てきたから間違いないわ。ただじっと見ていないとわからないけど……よく気付いたわね、岡崎汐」
「最初わたしの目がおかしくなったと思っちゃった。みんな気付かないんだもん」
「貴方の目が良すぎるのよ」
「そうかな?」
「そうそう」
「だねー。うっしー、時々屋上とかですごく遠くを見ているもんね」
「……そうかな」
 あまり意識していないことを指摘されると、なんともこそばゆい。



■ ■ ■



「良く気付いたものだな……」
 現場の照明を見上げ、芳野さんがそう言う。
「普通、気付きませんよね」
 と、相槌を打つ俺。
「ああ、身内に電機の関係者がいるか、よっぽどの観察眼があるんだろう」
 感心したかのように、芳野さんはそう言った。
「よし、昼休みまでには終わらせよう。折角食堂を使用して良いと言ってもらえたんだ、娘さんと食べたいだろう?」
「いや、俺は……」
 一応否定するが、実際にはなんとか汐とコンタクトを取れないか考えている俺だった。
「素直になれ、岡崎。滅多にない機会なんだからな」
 そんな俺を見透かすように、芳野さんは口の端を上げてそう言う。
 面子上、黙りを決め込む俺だった。



■ ■ ■



 移動教室の授業が終わって、お昼休み。
今日は全員お弁当じゃないので、そのまま食堂に行こうかと話し合っていると――。
「お、みつけた。おーい岡崎」
 生徒会の役員に、わたしは声をかけられていた。
「どうしたの?」
「演劇部の顧問が職員室に来いってさ。何か頼んでいたものが届いていないって言っていたぞ」
 ……あ゛。
「いっけない! 今日の午前中に提出する書類があったんだ!」
「ちょっと――」
 呆れたかのように額に手を当てる委員長に割り込むように、
「行ってきなよ。私達は教室で待ってるから」
 こういうときは冷静なクラスメイトがそう言う。
「うん、そうする」
 ふたりに頭を下げてから、わたしは廊下を駆け出す。まずは、自分のクラスに戻らなければならない。



■ ■ ■



 とりあえず、汐のクラスに向けて足を向けた時のことだった。
 何処からか、小気味良い足音が響いてくる。
 軽やかで、それでいて力強い駆け足だった。
「懐かしいな。俺も此処の生徒だったときはあんな感じで駆け回っていたものだ」
 と、芳野さん。
「ちょっと想像できないですよ」
 苦笑しながら俺がそう言うと、
「それだけ、若かったということさ」
 同じく苦笑いを浮かべて、芳野さんはそう言った。
 そうしている間にも、足音はどんどん大きくなっていく。
「少しだけ楽しみだな、男子か女子か――」
 そんなことを言っていた芳野さんが、突如足を止めた。見れば、目を丸くして廊下の向こうを見ている。
「どうしました、芳野さん」
「いや、あの書類を抱えて爆走しているのは……」
 俺も芳野さんの視線が向かう先を見て――、
「――どうみてもうちの娘です」
 本当にありがとうございました。



■ ■ ■



 教室の机の中に、目的の書類はあった。
 わたしはそれを小脇に抱えると再ダッシュを開始する。
 何せ、友人達を待たせてしまっているのだ。急いで職員室に届けなければならない。
 都合が悪いことに食堂や裏庭に向かう生徒が廊下に溢れていたので、わたしは春原のおじさま直伝のステップで、次々と避けながらただひたすら突っ走る。この角を曲がればしばらくストレート。同時に生徒も少なくなったので、わたしは体勢を低くしてスピードアップを――、
「廊下を全力疾走するな。スカートの中身見えそうだぞ」
 その聞き覚えのある声に急ブレーキ。余りにも急だったので、上履きのゴムが少しばかり削れて廊下に跡を残してしまった。
「おとーさん?」
「おう」
 片手を上げて、おとーさん。傍らには、芳野さんもいる。
「もしかして、旧校舎の電源を直しにきた業者の人って……」
「多分、俺達のことだな」
 修理箇所おとーさん達の専門である電機関係なのだから、間違いない。
「暴れるのも程々にな」
「ん。気をつけるね」
「っていうか最初に訊くべきだったんだが、何を急いでいるんだ?」
「職員室に届けなきゃいけない書類を忘れていたのよ。もうお昼休みだから友達待たせたくなくて」
「そうか……それじゃ、行ってこい」
 止めずに行けと言ってくれる、おとーさんだった。
「うん――あ、お昼まだ?」
「あ、ああ。そうだが」
「じゃあ一緒に食べようよ。教室の前におとーさんも知っているわたしのクラスメイトが待っているから、先に合流してて。すぐに戻るから」
「了解だ」
「それじゃ、行ってきます!」
「転ぶなよ!」
 父娘で敬礼を交わした後、わたしは今日三度目のダッシュを開始した。



■ ■ ■



「良かったな。こっちが何か言う前に決まって」
 再び突っ走る我が娘を見送りながら、芳野さんはそう言った。
「まぁ顔を合わせればこうなることはわかっていましたから」
 と、俺。
「それにしても嬉しそうですね」
「いや、嬉しいと言うより羨ましい、だな」
 と、芳野さん。
「ああいう光景を見ていると、俺も子供が欲しくなる……」
「なら、作ればいいじゃないですか」
 肩をすくめて俺がそう言うと、芳野さんは予想通り少し顔を赤くして、
「そう簡単に決めることじゃないだろう……」
 と、言った。
「良いんじゃないんですか? そろそろ作ったって良いと俺は思いますよ。公子さんだって反対しないと思いますし」
「あのなぁ――」
「とりあえず、先に汐のクラスメイトと合流していましょうか」
「……そうだな」
 憮然としたまま、仕事道具を持ち直す芳野さんだった。



■ ■ ■



 職員室から折り返しダッシュで戻ってみると、教室の前でみんなが待っていた。
「お、おまたせ……」
 流石に四回も全力疾走をしたので、ちょっと息が上がってしまう、わたし。
「ねぇうっしー、あのイケメンとお知り合い?」
 即座にクラスメイトがわたしに抱きつき、おとーさんに視線を向けながら、わたしだけに聞こえるようにそっと囁く。
「イケメンって……まぁ知り合いと言えば知り合いだけど」
 生まれてからずっとつきあいがあるんだから、知り合いでも間違いはないと思う。
「え、誰だれー? 雰囲気的に親戚でしょ。いとこ? はとこ?」
「父です」
「……義父?」
「実父」
「ZIP?」
「うん、実父」
「毎度思うことだけれど、カップルと間違われないの?」
 と、横合いから委員長。こちらはおとーさんと顔を合わせたことがあるので誤解しなかったのだろう。
「いやもうほぼ毎回そうだから」
 そう、もういい加減慣れてきている。流石に最初の頃は恥ずかしかったけど。
「うーん、残念。あ、でも待って。もう片方の人もえっと、あの人にそっくり……ほら、芸能人の棗恭介!」
「あー、似て無くもないかな……」
「そうかな、声なんてそっくりだよ。こっちの方が渋いけど」
「それはそうでしょう。棗恭介は鯖を読んでいるとは思うけど確か21だもの。そちらの人は岡崎汐のお父さんと一緒にいたんだから同年代と見た方が良いわ」
「え、じゃあ40代?」
「うん。たぶん、それくらいじゃないかな……」
 そういえば、芳野さんの年齢を良く知らないわたしだった。おとーさんより年上なのは確実なんだろうけど……。
「うわっ、ますます好み……」
「……えーと」
「モラルハザードね……」
 目に星が降っている我がクラスメイト殿だった。
「あのね、今更言って悪いと思うんだけど」
「なに? うっしー」
「芳野さん、既婚者」
 その一言で、微妙にふわふわしていたクラスメイトの動きがぴたりと止まる。
「不倫は……まずいよね」
「まずいまずい」
「まずいわね。常識的に考えて」
 そもそもそういった隙が、芳野さんにはまったくないと思う。おとーさんと、同じように。



■ ■ ■



「岡崎、何か背筋が寒いんだが」
 ラグビー部か何かのように、肩を組み合う女子三人を眺めながら、芳野さんがそう言った。
「だいたい想像ついているので、俺はノーコメントです」
 何度か経験があるので、黙っている俺。大方、父親じゃなくていとこかはとこと勘違いされた上、芳野さんも
それくらいの年と勘違いされたのだろう。
「しかしこんなに暢気でいいのか? 俺達の頃は取るか取られるかといった感じだったが」
「食堂の席のことですよね。俺の時もそうでしたけど、今はすごく改善されたらしいですよ」
 実は、そこがどうなっているのかすごく気になっているのだ。
「これで、学校の裏庭でひとり寂しく食事なんていう光景が無くなっているはず――お?」
 あった。窓から見えるだいぶ昔から見知った場所に、最近知り合った生徒が居たのだ。
「おーい汐。あの子、お前のところの新入部員じゃないか?」
 俺の一声に、全員が窓に張り付く。
「あ、本当だ。何してるんだろ、あんなところで」
 おそらくそれは、俺にしかわからないんじゃないかと思う。せめて、顔を上げてあいつみたいに手を振ってくれたら急いで降りていくのに……。いや、そうでなくても――。
「なぁ、汐……」
「既に駆けだしています」
 汐と長いつきあいらしい、委員長っぽい子がそう言った。
 見れば、さっき息切れで難儀していたはずの我が娘が、そんな素振りをこれっぽっちも見せずに爆走している。
 その姿はすぐさま消えたので、俺達は再び窓から外を見えると、まるで狙ったかのようにひとりぼっりの女子生徒が背を向けた方向から、汐がラリアットを仕掛けんばかりに飛びついていた。
「背中折れないかな、あの子」
「いくら向こう見ずになっていても手加減ぐらいするでしょ」
 天然っぽい子の心配を、委員長っぽい子が一刀両断する。
「とりあえず行きましょう。いくら何でもそろそろ時間が足りなくなるわ」
 言われてみれば、そうだった。
「俺たちも、行きますか」
「あぁ」
 先行する女子生徒の後を、荷物を担いだ俺達が続く。どうも、今日の昼食はいつもより賑やかで楽しいものになりそうだった。



Fin.




あとがきはこちら











































「一子相伝、フライィィィングだんごハントっ!」
「ひゃああ!? 一体何方――って、お、岡崎先輩?」
「何処で覚えてくるんだ、そんな技……」
「そんなことより、折角学校が舞台だったのに風子の出番がありませんでしたっ!」
「あ……そういえば」





































あとがき



○十七歳外伝、○と朋也の学校編でした。
朋也と○の学校での絡みと言うリクエストを頂いたので、今回は意図的に視点変換を多めに入れてみました。ちょっと読みづらくなったかもしれませんが、効果的になっていれば幸いです。
さて次回は――季節がはずれてしまいましたが、お花見で。


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