超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
ブラウザのバックボタンで戻ってください。

このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

それでも読む方は方はここをクリックするか、
ガンガンスクロールさせてください。







































「いえーい! アニメはあたしシナリオで〆決定!」
「どうやったって本編に挟めないもんな、お前の場合」








































































  

  


 きらきらとしていた荘厳な式の後は、自然といつも行っている飲み屋へと足が向いていた。
「何だかんだ言って、三人で飲むのは初めてだね」
 そう言ったのは一緒についてきてくれた春原陽平。あたしの腐れ縁その2になる。
「そう言えば、そうだな」
 もうひとりついてきてくれたのは腐れ縁1の岡崎朋也。え、順番が逆? 好感度順だからこれで問題なんてない。
「ま、とりあえず……」
 そんなふたりと車座に座って、あたし藤林杏は全員のお酒が揃ったところでそう言った。
「乾杯しましょ。えーと……まぁ、その、お疲れ様」
「お疲れさん」
 と、朋也。
「委員長と、旦那さんに幸あれ。ってね」
 さらに陽平が、そう付け加える。




『道が分かれて、その先は』



「しかし残念だったな。智代やことみも来られれば良かったんだが」
 泡盛の水割りが入ったグラスを傾けながら、朋也がそう言う。
「多忙だって言うのに、式に出てもらっただけでも嬉しいわよ」
 と、同じようにお酒を飲みながら、あたし。そう、ことみはその足で学会に行かなくちゃと言うことで新幹線、智代に至っては出張だとかで海外へ向かうべく飛行機に乗ってしまったのだ。
 それでまぁ自然と、こういう面子になっていたりする。
「んじゃさ岡崎、何で汐ちゃんは連れてこなかったんだよ?」
「ここの酒が旨いからだよ。大人の俺たちが旨そうに飲んでいたらあいつも飲んでみたくなるだろ」
「あー、あるある」
 思わず頷いてしまうあたし。と言っても産んでもいない子供のことでなくて、あたしの場合は幼稚園の子供達が欲しがるコーヒーのことだったりする。大抵一口飲んで『苦い……』で終わってしまうのだけど。
「まぁたまにはいいだろ。こうやって三人で顔をつきあわせるのも珍しいんだしさ」
「そういや、そうだねぇ」
 葱と一緒に炒めた素麺を頬張りながら、陽平。
 確かに、朋也の言う通りだ。あたし達三人のうち、ふたりの組み合わせなら良くあることだが、三人だけというのは、なかなか無い。
「に、してもさ」
 グラスの泡盛を一気に空けながら、陽平は目を細めて、
「委員長、綺麗だったねぇ……」
 数時間前のことだというのに、懐かしむような感じでそう言った。陽平にとって、椋はいつまでも委員長なのだろう。それはそれで良いことだと、あたしは思う。
「岡崎の時も思ったけど、なんか不思議な感じだよ。僕と一緒に学生服を着ていたのに」
「そうね……」
 いまいちぴんと来て居ない貌の朋也を余所に、あたしは頷く。

 そう。
 今日はあたしの双子の妹、椋の結婚式だった。

「なんで六月なんだっけ」
「ジューンブライドを狙ったのよ」
「……ああ。そういやそういうものもあるんだっけねぇ」
 もう梅雨に入っているから他の日にした方が良いとあたしは言ったのだが、椋とその旦那さんはこの月の吉日である今日を選んだのだった。
 昨日までは雨で、朝方は降っていなかったものの曇っていて、このままだと……と不安だったあたし達だったけど、式が始める頃にはここ数週間見られなかった雲ひとつ無い青空が式場としてお借りした教会の上に広がっていて、思いっきりほっとしたのと一緒に、嬉しくなったものだ。
「きっとさ、渚ちゃんが晴れにしてくれたんだよ」
 と、笑顔を浮かべて陽平。
「ああ、間違いないな。汐もそう言っていたし」
 朋也もきっぱりとそう言う。
 あたしも、それについて異存はなかった。
「本当に綺麗だったな。お前の妹」
「そりゃそうよ。自慢の妹だもん」
 ウェディングドレスに身を包んだ椋は、あたしが本当に姉でいいのかと思うくらい、綺麗で、輝いていた。
「正直言ってちょっと羨ましかった。俺と渚も式を挙げとけば良かったなって……すまん、愚痴になったな」
「いや――」
「いいのよ。朋也はそう言う権利があるんだから」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。春原、杏」
 本当に嬉しそうに、朋也はそう言う。
「そういえば、旦那さんの柊さん――だっけ? 僕ら以上に童顔でびっくりしたよ。最初女性同士で結婚!? って思っちゃったし」
「……あのな春原、いくらなんでもそれはないだろ」
 呆れたように、朋也はそう言う。
「でも式のお色直しでお互いの服を交換ってアイデアはあったわよ?」
 とあたし。すると案の定、朋也と陽平はお酒を噴いたのだった。おそらく、想像してみたのだろう。
「まぁ、会場が教会って時点でそれは廃案になったけどね」
「……そうして正解だ」
「うん。まじ洒落になってないから、それ」
 真面目な貌して頷く男ふたり。そんなに克明に想像できたのなら、それはそれでたいしたものだと思う。
「しかしこれで、柊椋か」
「ううん、藤林のままよ」
「え、何で!?」
 もう一度お酒を噴かんばかりに驚く陽平に対し、
「夫婦別姓か」
 朋也は冷静にそう言う。
「正解」
 杯を掲げて、あたし。
「え、それじゃ別居?」
「ううん、しばらくはあたし達の家で居候状態。そこは今まで変わらないわね」
 どうも陽平は、夫婦別姓というものを良くわかっていないように感じる。
「でもやっぱりこれからは今までと同じようにはいかないでしょうね。昔はどんなことだって話し合えたのに、最近はお互い秘密にしていることもあるし。あーあ、学生時代は好きな人の名前まで一緒に言いあえたのになぁ……」
「それは興味深いな」
 そう身を乗り出す朋也に、
「岡崎は聞かない方がいいよ」
 陽平がすかさずそう言った。
「どういう意味だよ」
「言葉通りさ。女の子には意地でも言いたくないことがひとつやふたつあるんだ。それは僕ら男もそうでしょ?」
「……まぁ、そうだな」
「そうなんだよ」
 珍しく、良いフォローをしてくれる陽平だった。
「でもさ杏。姓も別で、一緒に暮らしているなら、本当はそれほど変わらないんじゃないの?」
「そうでもないわ。椋が旦那さんと同棲し始めてから、雰囲気が変わったもの。今日から夫婦なんだから、もっと変わるに違いないわ。後はあたしの心境の変化」
「どんなさ?」
「なんか、置いていかれちゃった感じかなぁ……。いままで、ずっとふたりで居たのに、気が付いたら置いて行かれちゃった感じ。わかる?」
「うーん、僕にはちょっと――」
「俺は、わかるな」
 朋也が静かに、そう言った。
「……それってさ、渚ちゃんのこと?」
 と、陽平。
「そうだな。結婚後も渚と一緒に古河パンによく行ったけど、何処かちょっとだけ違うんだよな。雰囲気がさ」
「そりゃそうよ。『古河夫妻の娘』から『朋也の嫁』になったんだから」
「……そういうもんなの?」
 よくわかっていない様子の陽平だった。
 まぁあたしと同じく結婚していないんだから仕方がないと思う。あたし自身だって、椋が結婚しなければ気付かなかったんだろうし。
「結局結婚って、出逢いでもあるけど、別れでもあるのよね」
 グラスの中身を一気に空にして、あたしはそう言った。
「で、四十前の売れ残りが此処にふたりもいるっていう寸法よ」
「じゃあ結婚しちゃえよ、お前等」
「それはないわよ」
「それはないよ岡崎」
 ほぼ同時に、あたしと陽平はそう答える。
「……なんでまた。知らない仲じゃないだろ?」
「お互い知りすぎると逆に結婚できないっていうのがあるのよ」
「そういうものなのか?」
「そういうもんさ。直感ってやつ? 理屈とかそういうもの抜きで、そう思うんだよ」
 陽平があたしの後を継いでそう言った。特にあたしが言おうとしたことと違っていなかったのであたしは何も言わない。
「そうなのか……」
 そこら辺よくわからない様子の朋也だった。ここら辺の鈍さは学生時代から変わっていないと思う。
「それよりあたしが言いたいのは――」
 陽平に注いでもらったお酒をまたすっからかんにして、あたし。
「おいおい杏、いつかみたいにまた足許がおぼつかなくなるぞ?」
 心配した様子で、朋也がそう言う。
「なんか今日は全然酔えないのよ」
「でもお前顔真っ赤だからな」
 つまりは、酔っているということらしい。
 仕方ないので、グラスはとりあえず脇に置いておくことにする。
「それで、言いたいことって?」
 と、陽平。
 そうだ。これだけは言っておきたかったのだ。
「なんで、ブーケを受け取ったのが汐ちゃんなのよ〜」
 途端、朋也と陽平は同時に身体を傾けさせた。
「あれはお前と智代の自爆だろうが……」
「僕もそこは否定できないね……」
 そう、確かにそれはあたしと智代の失策だった。
 あたし達はそれぞれの方向からブーケと手にしようと全力でジャンプした結果、空中衝突。その結果あたし達の手が掠ったブーケはそのまま汐ちゃんの手に収まってしまったのだ。
「んで僕が落ちてきたふたりの下敷きになるんだからね、堪らなかったよ、本当」
「う……悪かったわ」
 年頃の女性ふたりなんだから、痛いってことは……無かったと、思う。
「ま、何にせよ次は汐ちゃんってことだね」
 と、少しにやにやして陽平。
「全力で否定させていただきたいけどな」
 すかさず、憮然とした貌で朋也がそう言う。
「あたしもそう思いたいわよ……順番的に次はあたし達のはずだもん。っていうか智代やことみと違って、あたしはこれからしばらく新婚生活をみながらの毎日なのよ?」
 思わず、卓にうつ伏せになってそう言ってしまう。
「……あー、杏」
「なに? 朋也」
 うつ伏せのままそう訊くと、朋也は少し間を置いて、
「古河パンに泊まるか? こっちから事情話しておくから」
 そんな提案をしてくれた。
 ……うん。確かに、それはちょっと魅力的だ。
 だけど。
「何言ってるのよ、家に帰るわよ。あたし」
 勢いをつけて起きあがりながら、そう言ってやる。すると朋也は、
「いやでもお前、何か帰りづらそうだったからさ……」
 隣では陽平も頷いていた。ふたりとも、気遣ってくれているのだ。
 ――でもね。
「あたしは椋の姉よ? 妹が結婚した日に家でお祝いをしないでどうするのよ?」
 はっきりと、そう言ってやる。
 すると朋也はちょっときょとんとした後、
「そうだな。お前は姉だもんな」
 柔らかい笑顔を浮かべてそう言ってくれた。
「んじゃ、ここ出たらしばらく散歩でもしないとね」
 と、陽平。
「なんで?」
「なんでだ?」
 あたしと朋也が立て続けにそう訊くと、陽平はちょっと呆れた貌で、
「あのね。お祝いする側が酔っぱらっててどうするのさ?」
 思いっきりやけ酒に見えるでしょ、と言う。
 それは確かにそう見えるかも――いや、そうとしか見えない。
 なら……うん、そうだ。
「それじゃ、この後はこの町一周で良い?」
 コップの中の氷を鳴らして、あたしはそう訊く。するとふたりは、
「仰せのままに」
「地獄でも何処でも付いていくよ。こうなったらね」
 そう応えて、それぞれのグラスを空にしてくれた。



Fin.




あとがきはこちら











































「お早うございます勝平さん。――あ。貴方、の方が良いですか?」
「ううん、今まで通りで良いよ、椋さん」
「勝平さん……」
「椋さん……」
「(やっぱきついわ、これ……)」




































あとがき



○十七歳外伝、結婚編でした。
リクエストをいただいていざ書き始めたわけですが、私自身が結婚式に一度も参加したことが無いため頭を抱えているうちに――自然と今回の話が出来上がりました。主人公ほとんど杏になってしまいましたが……。
さて、次回はリクエストの、○学園編で。

Back

Top