超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「アニメ番外編の最後の留め絵、すごかったね」
「何かすごく恥ずかしいです……」
「っていうか春原以下のアホの子認定しちゃったな俺……」
「ってうか渚ちゃんにカナダライしかけちゃったよ僕!」


「……一年多くリードしていたんだな、藤林」
「ちょっとずるいの……」
「べ、別に良いじゃないの……逆に言えばそれで脱落しているわけだし」
「――済まん」
「ごめんなさいなの」
「ちょ、素直に謝らないでよ。余計悲しくなるでしょ!?」

「本っ当に悲しくなっているのは……この僕だーっ!」
「勝平さん……っ」



































































  

  


 高校二年の三学期、期末試験も卒業式も終わったとなると、やることは部活動ぐらいになる。
 だから、わたし岡崎汐はその日の放課後さっさと荷物をまとめて部室に一番乗りを果たしていた。
 実は本日、部長としての初仕事だったりする。先代部長よりの指名、さらに部員による満場一致の可決でお役目を預かることになったわたしは――早速三年生が抜けて少なくなった部員一同をつれてある場所で練習することにした。
 色々理由はあるが、ちょっとだけ奇をてらってみたくなったのだ。
 それに、ここなら誰にも邪魔されないし――そんなことを考えながら練習を続けていると……。
「ああ、こんな処にいた」
 聞き慣れた声が、背後から響いてきた。
 思わず振り返ると、そこにはわたしのクラスの委員長が、両腕を組んでわたしを見つめている。
「どうしたの? こんなところに」
 副部長に後を任せ、ひとり練習から抜けてそう聞くと、委員長は呆れたように溜息をついて、
「勿論貴方に用があったのよ、岡崎汐。っていうか何やってるのよ、屋上で」
 そう、わたしたち演劇部一同と委員長は今、新校舎の屋上に居た。無論、生徒会にはちゃんと許可を取ってある。
「勿論練習よ。今度やる劇はね、屋上が舞台なのよ。だから一回現場でやろうと思って。ここで練習したら演技に臨場感出るでしょ?」
「……就任早々妙なこと考えるわね」
「誉め言葉だと思っておくわ」
「まぁいいけど……屋上好きなの?」
「うん、遠くを見晴らすのが好きなのよ。小さい時から」
「ふぅん……」
 是とも非とも言わず、委員長は納得したかのように腕を組み直す。
「それで、一体どうしたの?」
「先生が呼んでいたのよ。部活動終了後、至急職員室に来るようにって」
 ……はて?



『これが、わたしの進む道』



「絶望した! 進学か就職か未だに決めない岡崎に絶望した!」
 開口一発、担任の先生はそう叫んだ。
 職員室の先生の席。部活後に出頭すると先生はわたしに空いた椅子を勧めた直後にそう言ったのだった。
「糸色先生の物まね上手ですね、先生」
 思わずそう合いの手を打つと、先生はけろっとした貌で、
「学生時代からの愛読書ですので。あの頃はコータローを越える長寿連載になるとは思いもしませんでしたが」
 ちなみに連載は今も続いている。
「ってそんなことはどうでもいいんです! 良いですか、進路調査票の提出期限は一週間前に切れているんですよっ、いったいどーするつもりなんですか!」
 わたしの目の前には、確かに白紙の進路調査票がある。おそらく、わたしが前にもらっているものを無くしている場合を考えて用意したのだろうけど、現物はしっかりとわたしの鞄の中に収められていたりする。もっとも、そちらも白紙なのだけれど。
「済みません、まだ決めかねてます……」
「そんなことだろうと思っていましたよ……」
 溜息をつかれてしまった。そのリアクションに困っていると、先生は机の上に置いてあった手帳をぱらぱらと開いて、
「何はともあれ、先生は進学を勧めますよ。貴方の成績なら割と上位の大学まで狙えますからね。学部だってどれも選べます。英文、国文、経済、経営、それこそ選り取りみどりです。特に成績に偏りがありませんからね」
「でも、高校で大学の学部とか学科の説明、全然しませんよね」
「それは言わない約束です」
 ぱたんと手帳を閉じて、先生。
「まったく……一年生の終わりのときも理系か文系かで最後まで揉めましたが、進路までこうなるとは」
「はぁ……すみません」
 それしか言えないわたしが頭の後ろを掻こうとしたときだった。
「話は聞かせてもらったぞ!」
 唐突に職員室のドアが開け放たれ、学年主任の先生が飛び込んでくる。
「岡崎、理転をしよう! 今なら間に合う! 理転して先生と一緒にシュレディンガー音頭を踊ろうじゃないか!」
 白衣をなびかせて、学年主任の先生は高らかに宣言した。
「ちょっと待ってください学年主任! 今っさら一年前の話を蒸し返さないでもらえませんか!」
 自分の机をばちんと叩いて、担任の先生がそう言う。けれど学年主任の先生は何処吹く風といった様子で、
「いや、駄目だね! 噂に聞いたが岡崎には『巨乳のアインシュタイン』こと一ノ瀬ことみ博士と懇意だそうじゃないか! これを機会に理転して相対性理論を突破してもらう!」
 それ、そのことみちゃん自身がとても難しいと言っていたような――って言うか巨乳のアインシュタインって何。
「誰が言ってるんです? そんなこと」
「ゴシップ雑誌」
「ああ……。それ、本人に言ったら涙目じゃ済まないですからね」
 ことみちゃんが読んだら、ショックで寝込みかねないような気がする。
「さぁ岡崎、レッツ理転!」
「だから駄目だと言ってるでしょーが!」
「ええーと……」
 再び対応に困って、もう一回頭を掻こうとしたとき――
「そうはさせんっ!」
 どうやらわたしは頭を掻いてはいけないらしい。
 それはちょっと理不尽だなぁと続けて思った直後、職員室の窓が大きく開いて、そこからカフェ『ゆきね』の常連客に負けずとも劣らない暑苦しさ――いやいや、逞しい筋肉の、体育担当の先生が飛び込んできていた。
「岡崎君! スポォツをしよう! スポォツ!」
 むさくる――いやいや、頼もしい笑顔で体育の先生はそう言った直後わたしの二の腕をむにっと摘むと、
「うむ! 岡崎君のはボッリュームがいまいちだが、身の締まった良い筋肉だ! しかもその出力はけた違いと来ている! さぁ、その力を誇示してみようとは思わないか!?」
「先生それセクハラです」
 意図的じゃないことはわかっているけど、一応そう言っておく。
「勿論目指すは、オ〜リンピィイック!」
 てんで聞いていない先生だった。
「というわけで御二方、岡崎君は体育大学に入るってことでひとぅ〜つ!」
「何を言ってるんですか! 岡崎は手堅く文系の大学に入るんです!」
「そっちこそ何言ってるんだ。岡崎には科学技術を極めて技術立国ニッポンを復活してもらう、これしかないだろう常識的に考えて! そして早く陸上自衛隊にガンダム、航空自衛隊にバルキリー、海上自衛隊に轟天号をだね――」
「絶望した! 趣味丸だしの学年主任に絶望した! っていうか海上自衛隊だけ妙に古いですよその例え!」
「だってマクロスじゃでかすぎるだろう! クォーターだって400メートルだぞ? 何処に置くんだそんなもの!」
「はっはっは。世界大会とかでもいぃ〜ぞぉう!」
 あー……。そろそろつきあってられないかなぁ。
 わたしは抜き足差し足で静々と後退し……。
「ハッ!? 岡崎は?」
「あれ?」
「……んん?」
 もう廊下に出ています。
 そう胸中で呟いて、わたしは猛然と駆けだした。



■ ■ ■



「また逃げたのね」
「うん」
 昇降口で待ってくれていた委員長と合流して、わたしは帰宅の途へとついていた。
「知らないわよ。抜き差しならない状態に追い込まれても」
「うん、それは気を付けるけど……。でも先生の都合で進路を決めるのって、何か変じゃない?」
「それは変だけど、貴方の場合遅れに遅れているせいもあると思うわよ。岡崎汐」
「う……」
 それを言われると、反論できないわたしだった。
「まぁ先生方のは、進路を決めない貴方に対する助言だと思っておきなさい。些か私情が絡んでいたように感じられたけど」
「聞いていたの?」
「聞こえたのよ。貴方達の漫才、下駄箱まで響いていたわよ」
「あらま」
 また新聞部に良い取材ネタをあげてしまったような気がする。
「それじゃあね」
「うん、また明日」
「手遅れにならないうちに、何とかするのよ?」
「はーい」
 色々言われてしまったが、友人の忠告として大事に受け止めなくてはならない。そう思いながらわたしはいつもより少し重くなってしまった足取りで、家へと辿り着いた。灯りが点いているということは、おとーさんは先に帰っているのだろう。
「ただいま」
「ああお帰り。今日は遅かったな」
「うん、部活動の後に色々あってね」
「ああ、知ってる」
 ……へ?
 思わず箪笥から私服を通りだそうとした手が、止まってしまう。
 知って、る? なんで? 
「汐、着替える前にここに座りなさい」
 そう言って、おとーさんは自分が座っているちゃぶ台の真向かいを人差し指でこつこつとつついた。
 何にせよ、反抗する理由はこれっぽっちもない。わたしは着替えを箪笥に戻しておとなしくそこに座る。
「今日、お前の学校から電話があってな」
 ……うえ。
「まだ進路調査票出していないんだって?」
 ……あうぅ。
「クラスどころか、学年で最後らしいぞ。お前」
 ……え゛。
 それはちょっと、想定外だった。
「――その様子じゃ、俺にだけはばれたくなかったようだな」
 おそらく気持ちが貌に出てしまったのだろう。多少困った貌でおとーさんはそう言う。事実、今のわたしは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「ごめんなさい、なかなか言い出せなくて」
「それはいいんだ。ちょっと位は相談して欲しかったけどな。で、今のお前はどうしようと思うんだ?」
「えーと……就職、かな」
 すう、とおとーさんの目が細まった。
「……何でまた」
「何でって、授業料とか……」
 それは家計簿をつけているからわかること。我が家の家計では結構無理をしないと大学に進むのは難しいのだ。
「国立受けりゃ、いいだろ」
「それは考えたけど、結果的にこの町を出ることになるから……」
「――そうだな」
 そう、この付近に国立の大学はない。故にそちらに進学する場合、必然的にこの町を離れることになる。
 だけどわたしはこの町を、おとーさんの側を離れたくない。それは、甘えだと思うし、本当に何かの勉強をしたいのなら町を出る位の覚悟は要るはずだとわかっているのだけれど、でも今のわたしにはその覚悟が無かった。
「じゃあこの町近辺の大学になら行けるか」
「うん、まぁ2、3あるけど……」
「じゃあ、資金さえあれば大丈夫だな?」
「そうだけど……けどそのためにおとーさんに迷惑かけられないし」
 おとーさんは、即答しなかった。ややあって、その代わりとばかりに長い長い溜息をついて、
「やっぱり俺達の娘だなぁ……」
 そんなことを言う。
「え?」
「いらないところで気を使うところは一緒だぞ? 俺もそうだったけど、渚なんか特にそうだったもんな。ま、そんなことを言うと思ってたんだ」
 用意しておいて、良かった。そうおとーさんは呟いて、ゆっくりと立ち上がり――箪笥の前に立った。そして、
「渚、今まで護ってくれてありがとうな」
 そうお母さんの写真立てに一礼すると、その側に腰を下ろして、後側の僅かな隙間に手を突っ込む。
 って確か、そこは――、
「え。そこ、えっちな本の隠し場所じゃ」
「ああ、そうだ。だけどそれ以外にも目的があったんだよ。お前のことだからエロ本隠してあったらそれ以上手を出さないと思っていたんだが、正解だったようだな……よっと」
 かこん、と小さな音がした。
 おとーさんはそのまま手をごそごそと動かして、そこから厚みのある封筒と取り出すと、珍しく悪戯っぽい貌で、
「汐、これを見てくれ。こいつをどう思う?」
 そう言って、中身を私に見せる。
「すごく……大金です」
 本当、冗談みたいな金額だった。
「ど、どうしたの? それ」
「積立預金、オブ箪笥だ」
 束状態になったそれをちゃぶ台の上に造作もなく置いて、おとーさんは続ける。
「学校にもよると思うが、普通の大学なら入学金と授業料四年分は賄えるはずだ。使ってくれ」
 つ、使ってくれも何も……。
「一体いつから……」
「お前が、俺達が通っていた学校に行きたいって言ったときからかな」
 それは確か中学三年生になるかならないかといった時期だったはず。
「あそこは進学校だ。俺や春原みたいにだらけるならともかく、人並みに勉強したらどうしたって進学の話が出てくる」
 そういえば、そのころのわたしは進路がはっきりしていたことを思い出した。おとーさんと、お母さんの通っていた学校に行きたいって。
「なら今から少しずつ貯めておこうと思ってな。あ、大学から先の学校は自分で何とかしろよ? 卒業する頃にはお前大人になっているんだからさ」
 わたしは、何も言えなかった。
 やっぱりわたしはまだまだ子供で、おとーさんは大人なのだ。
 今の気持ちをあえて言うなら、申し訳ない気持ちと感謝の気持ちが半々。それがうまく言葉にできなくて俯いていると、おとーさんは真面目な貌でひとこと、
「汐、可能性を潰すな」
 はっきりと、そう言った。
「確かに就職もありだ。でも今のお前は何かになろうと強く思ってはいない。違うか?」
 違わない。わたしは静かに頷いてそれに答える。
「なら、行けるところまで行ってみろ。それはいつか、お前が悩んだときの助けになってくれるはずだからな。それにお前だって心の何処かでわかっているはずだ。だから未だに進路調査票を提出しない。そうだろ?」
 言われてみて初めて気付いた。
 わたしが、今まで踏みとどまっていた理由に。
「だから汐、お前の可能性を見せてくれ」
 そう言うおとーさんの目は、どこまでもわたしを信じてくれているものだった。
 なら、わたしはそれに応えなければならない。
 いや、応えたい。すごく応えたい。
 でも言葉で表現できないときはどうすればいいのだろう?
 そんなの決まっている。態度で表せばいいのだ。
「おとーさーん!」
 だから、わたしは全力でおとーさんに抱きついていた。
「おわっ!」
 そのまま全身を使って力の限りおとーさんを抱きしめる。
 それは、感謝の気持ち。
 そしてこれからの道のりを頑張っていく覚悟だった。
「汐、息、くるしっ、胸っ、むねが、やわらか!?」
 あ、いけない。どことは言わないけど思いっきり頭を挟んじゃってる。
 ……ま、いいか。
 そこでおとーさんに抱きついたまま、ふと顔を上げる。その視線の先にはお母さんの映った写真立てがあって、良かったとばかりに微笑んでいた。
 行けるところまで行こうと思う。おとーさんと、お母さんに応えるために。



Fin.




あとがきはこちら












































「ごめんねおとーさん、てっきり趣味で集めた本だとばかり――」
「いや、あれは趣味だが」
「…………」
「朋也くん、少しお話をしましょうか」
「……え?」




































あとがき



 ○十七歳外伝、日常編+進路編でした。
 完全に私見ですが、進路に迷っているのなら進められるだけ進学を選んだ方が良いと思っています。なんというか、学校に通うことそのものが、勉強以上に色々なものを吸収できる良い機会なのではないかと思いますので。
 故に、○には進学の道を選んでもらいましたが、その先どうなるのか、想像するのも楽しいですね。
 あ、教師陣がノリで妙に濃ゆくなってしまいました。ちょっとアレすぎた気もしますが――まぁいいかな?
 さて次回は……未定で;

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