超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「さて、汐が無くしたロボットの代わりを買いに来たわけだが……汐、これなんてどうだ? 1/144『サキガケ』」
「いらない」
「じゃあこれはどうだ? 1/100『マスラオ』すごいぞー、偽トランザムできるぞー」
「いらない」
「それならこれでどうだ、1/60『オーバーフラッグ』!」
「だからいらない」































































  

  


 長い髪をポニーテールでまとめた今年十八の汐が、ずんずんと先を進んでいく。
 夏、その盛り。
 俺達父娘は炎天下の中、あの懐かしい道――親父の実家へ至る道であり、俺と汐が父娘としてやっていけるきっかけを得た場所でもある――をひたすらまっすぐに進んでいた。
「おとーさーん! 早く早く!」
 空いた右手をぶんぶんと振りながら、汐。
 その出で立ちはTシャツにジーンズ地のホットパンツという実にアウトドアな格好だったが、さらに背には自分の荷物が入ったリュックを背負い、左手には俺の荷物が入った鞄を持っているという、重装備になっている。だというのに――だというのに、俺は血気盛んな汐に追いつくのに必死だった。
「手、引こうか?」
「いらんいらん」
 既に荷物を持って貰っているし、そもそも流石にそこまで衰えたつもりはない。
 ……にしても、あのときは汐の手を引いて歩いていたのに、今は逆に手を差し伸べられてしまう。
 なんというか、月日が過ぎていたことと、俺と汐の体力差、年齢差を思い知ってしまう一瞬だった。



『思い出を、目指して』



 さて、俺の娘がはりきっているのには、もちろん訳がある。
「見つかったんですか!?」
 数日前の夕方、電話口で素っ頓狂な声を出したのは、汐だった。
 お互いの夏休みを利用して親父のところにいこうという話が持ち上がり、普段は俺がそれを電話で親父に伝えているのだが、今回は珍しく汐が伝えたいと言うので任せてみたのだが……。
「わかりました。明日の朝にでも伺います」
 いやちょっと待て。
「え、無理じゃないか? 大丈夫ですよ。最悪飛行機を使ってでも行きますから」
 無茶言うな。
「……はい、もちろん冗談です。でも、急ぎたいのは本当ですから。はい、おとーさんにも伝えておきます。それでは……」
 相手が親父だからか、締めはマイルドな我が娘だった(俺や春原辺りでは、こうはいかなかっただろう)。
 けれども、汐が急いでいるのは本当らしい。電話を置いた途端、すごい勢いで箪笥に飛びつき、中身をひっくり返し始めたからだ。
「何を慌てているんだ、お前は」
 ハンカチやら服やら薄い色合いの意外と大人っぽい清楚なパンツやら(凝視するつもりはなかったんだが、視界に飛び込んできたんだから仕方ない)が飛び交う中、いつも通りにお茶をすすりながら、俺。
「えっとね。直幸さん、近所の人達に誘われて、一緒に花畑の整備を手伝ったんだけど――」
「へぇ……」
 軽く受け流すように答えたが、内心は嬉しい俺。あの借家に居たときは近所づきあいなんて全くしていなかったのに、今では逆に誘われるほどの繋がりがあるという。そういえば、前に自給自足のため始めた家庭菜園の野菜を、近所にお裾分けしていると親父から聞いたことがあったが、そう言った親父の行動が、少しずつ実を結んでいるようで、俺は思わず口の端に笑みを浮かべてしまうのであった。
「そこで、見つけたんだって」
「何を」
 汐はひと呼吸間をおいて、
「あのときわたしが無くしたロボット」
「……なぬ?」
 一瞬、ありとあらゆる思考が止まった。
「だから――おとーさん、避けて!」
 その直後、飛んできた同じく薄い色合いの意外と大人っぽい瀟洒なブラが、ぽてんと良い具合に頭にかかる。いつもなら軽々とよけれたんだが、まぁ仕方がない。というか、
「……汐の匂いがする」
「嗅ぐなぁーっ!」



 そんなわけで、汐は快進撃を続けているのだった。
 親父の居るあの場所までは特急を使っても相当時間がかかるし、それに伴って体力も結構削られるのだが、汐はむしろそこへ近づく毎にスピードアップしているように感じられてならない。現に、ふたりの距離が徐々にだが開きつつある。
 その気持ち、わからないでもないが……。
 そんな中ふたりで汗を拭い拭い先を急いでいると、汐の足がふと止まった。
「……どうした?」
 声をかけてから追いついた俺が、汐の肩越しに目の前の光景を見――全てに納得がいった。
 そこは、あの花畑だったのだ。
「――懐かしいな」
 と、黙ったままの娘に、俺。
「うん……」
 静かに頷く汐。
「ちょっと感無量、かな。あの時はおとーさんの肩車で見られた光景なのに、今は自分自身の目線で観られるから」
「なるほど……な」
 当たり前のことだが、あの時と比べて汐は随分と大きくなった。
 流石に俺の背を越すことはないと思うが、記憶の中で未だ鮮明に残っている渚の身長を、僅かながらとはいえ越えているのだから。
「さぁ、あとひと踏ん張り!」
「ああ……でも女の子が踏ん張り言うな」
 そこはもうひと息とかもうひと頑張りとかにして欲しいと思う俺であったりする。



「やぁ、いらっしゃい」
「お、お待たせしました……」
 やはり自分に無理をさせていたらしい。汐はどっと疲れたかのように、玄関口で腰を下ろした。
「いや、待ち惚けるほどではなかったよ。むしろこんなに早く来るとは思っていなかったくらいだ。頑張ったね」
 と、親父。
「すみません、どうしても気になって……」
「そうか……そうかもしれないね。わかった、今持ってこよう」
 そう言って、親父は一旦奥に引っ込むと、程なくして新聞紙に包まれたものを持ってきた。
「ほら、これなんだが……」
 溜まっている筈の疲れを振り切って、汐は立ち上がった。そして礼儀正しく、それを親父から受け取る。そしてそのまま丁寧に、それでいて素早く包装された新聞紙を取り除き――、
 新聞紙の中には、錆で真っ赤になった玩具のロボットがちょこんと座っていた。
 なるほど、これは確かに……『よく似ている』。
「これじゃ――ない」
 ぽつりと汐がそう呟いた。
 そう、これではない。頭の飾りに、汐が持っていたものとは違うものが付いていたのだ。
「そうか……残念だね」
 と、本当に残念そうに親父。
「――いや。そうでもないだろう」
 意外そうな貌で、汐と親父が同時に俺を見た。
「あの玩具が無くなったから、俺は先に進もうと思った。そしてその結果――今こうして此処にいられるようになった。もしあいつが居なくなっていなかったら……俺は、俺達はそのまま引き返していたと思う。だから、だからあの玩具は無くなって良かったんじゃないか、な……」
 『あいつが居なくなっていなかったら』。それには、もうひとつあてはまる事柄がある。それを思い起こしたからこそ、俺は語尾を少し濁らせたのだ。
「――そんなことはなかったと思う」
 今度は俺と親父が同時に汐を見る。
「あの子はそれを早めてくれただけ。そんな気がするの」
 何が、とは言わずに、汐は手元のロボットをそっと撫でた。
 俺は再び、錆びたロボットを見る。
 その、全身に浮き出た赤錆が固まった血のように見え、あまり気持ちの良いものには見えない。だというのに汐は手が汚れるのにも関わらず、それをずっと撫で続けている。
「……直幸さん。この子、連れて帰って良いですか?」
「ああ、構わないよ」
 俺じゃ何も出来ないし、他に行き場はないからね。と、親父。
「ありがとうございます。出来れば、綺麗にしてあげたくて」
「でも直せるのか? これ」
 思わず横から俺。仕事的に言って、ここまで錆びている場合は――通常丸ごと取り替えることになる。
「大丈夫。全体的に錆びているけど、地金にそれなりの厚さがあるから、錆を落として磨いて塗装すれば元通りになると思う」
 と、自信満々に――いや、自分を奮い立たせるように、汐。そう、こいつはどんなに難しいことでもいつだって努力し続けてて、実現してきた。
 ならば、このロボットも元通りになるのだろう。
 ……それにしても。
「その、なんだ。残念だったな、あのロボットじゃなくて」
「いいよ。あの子はきっと……何処かに居る。誰かが拾ってくれたかもしれないし、今もあそこに居るのかもしれないけど、それでも何処かには必ず居る。そんな気がするから」
「……そうかもしれないね」
 そう言って少し寂しげに笑う汐に対し、ぽつりと親父がそう答えた。
「さぁふたりとも、そろそろに中に上がりなさい。冷たい麦茶を用意して置いたからね。それと汐さん、まず手を洗っておいで」
「――あ!」
 そこではじめて自分の手が汚れてしまったことに気付いたらしい。汐は急に真っ赤になると困った貌で俺と親父を交互に見る。
「……ほら汐、ちゃんと包み直しておくから、新聞紙毎それを俺にくれ。後これティッシュな。水道の蛇口捻るときにかぶせて使えば他のものが汚れなくて済むだろ。くれぐれも、金属部分に錆を付けるなよ。錆は伝染するからな」
「あ……うん。おとーさん、ありがとう」
 よっぽど恥ずかしかったらしい。妙にしおらしいまま、汐はロボットと交換する形でティッシュを受け取ると、お手洗いへと歩いていった。
 そして、その一部始終を見ていた親父はというと、ひとつ頷いて、
「立派な父親になったな、朋也」
 そう俺を、褒めてくれた。
「まだまださ」
 肩を竦めて、俺はそう答える。そう、この歳でも俺はまだまだだと思う。もしかしたら、最後までまだまだなのかもしれない。
 それでも、汐が胸を張って自慢出来る父親になれれば。手の中のロボットの重みを感じながら、そう思う。
 それがわかっているのか、親父は何も言わずただ頷くのみだった。



Fin.




あとがきはこちら












































「これでどうだ、超合金『VF-25 メサイア』! いやー、正直言ってパパこの主人公の優柔不断っぷりはどうかと思うんだが機体に罪は無――」
「いらない。……これがいい」
「……前のと同じのでいいのか?」
「うん。これがいい」




































あとがき



 ○十七歳外伝、アニメで活躍中記念編でした。
リクエストを戴いてふむと頭の中で考え続け――結果としてちょっと方向性が変わってしまったような気もしますが、まぁこれはこれで。
 あとどうでも良いんですが、麦わら帽子とポニーテールで随分と迷いました。麦わら帽子はどっちかというと渚向けかなぁ……。
 さて次回は――早苗さん? で。



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