超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「どうでもいいが、俺の周りには妹キャラ多いな……ま、別にいいんだが」
「そう意味でもアンタ贅沢ですよねぇ!?」




























































  

  


 あれは、汐がひとりで留守番出来るようになった頃だから、小学生、それも十歳になるかならないかという時だったと思う。
 その日もいつも通りだった、会社からの帰りのこと。
 普段は学校の宿題を片付けて居るはずの我が娘が、何故か待ち構えて居るかのように座っていた。それも普通の格好じゃない。
 そう。ダブダブのセーターに、スパッツという何とも感想が言いにくい格好だった。しかもそのセーターがきわどい着こなしで、裾が余り過ぎて下に何もはいていないように見えたりする(俺も最初そう誤解した)。
「ただいま。どうした汐、その格好――」
「お、お帰りなさいパ……あ」
 俺の突っ込みを避けるように、あわててそう言う汐。しかも途中でまるでいつも通りの対応ではいけないと誰かに言われたように口をつぐむと、わざわざぺたんとお姉さん座りになった上、こちらをちょこんと見上げてあどけなく笑い、
「お帰りなさい、おにいちゃん」
 俺はでんぐり返るようにこけた。



『強襲、お兄ちゃん旋風(センセーション)』



「大丈夫? おにいちゃん」
 大の字になった俺を、心配そうに汐が覗き込む。
「ぐ……」
 片方の肘を突いて起き上がろうとする俺だが、
「ケガはない? おにいちゃん」
「ぐふっ」
 再び大の字になってしまう。どちらかというと満身創痍になりそうな俺だった。
「おにいちゃん……?」
 まずい、ふるふると髪を揺らすその様が、電動ドライバーの如き勢いで俺の理性のネジを一気に緩ませる。
「おにいちゃんっ、本当に大丈夫?」
「ぐ……おおおぉっ!」
 俺は渾身の力で立ち上がり、押し入れの襖を一気に空けた。
 襖のうち一枚が微かに震えているのに気が付いたからだ。
「あ」
 明らかに聞き耳を立てていましたという体勢で、押し入れに隠れていたひとりの女性が俺を見上げる。
「芽衣ちゃん!」
「……あはは。思ったより早くばれちゃいましたか。お久しぶりです、岡崎さん。驚きました?」
「ああ、ある意味十分驚いたよ」
 思わず膨れっ面になってしまう俺。要はそれだけ、汐の妹アタック(仮称)の威力が高かったからなのだが、それは黙っておく。



 春原、芽衣。
 言うまでもなく(そして認め難いものなのだが)春原の妹で、汐とは初対面なはずだ。
 無論汐が見知らぬ人を家に上げる訳は無い。理由を聞いてみれば、汐が幼稚園を卒業した頃からまた頻繁に来るようになった春原と、一緒に来たらしい。
「で、何で当の本人がいないんだ?」
 普段着に着替え終わってから、お茶を入れつつ俺。
「コンビニで、何かつまめる物買ってくるって言って出掛けちゃいました」
「適当に冷蔵庫とか漁って良いのに。そういうところは、妙に律義なのな、あいつ」
「まぁ、私の兄ですから」
 真っすぐにした髪を少し自慢気に揺らし、そう言う芽衣ちゃんだった。
「でも出掛けてから結構経つんです。道に迷っている訳じゃ無いと思うんですけど……」
「いや、コンビニ探して彷徨い歩いている可能性はあるぞ。この町もだいぶ変わったからな」
「なるほど」
 感慨深げに頷く芽衣ちゃん。その、もう芽衣ちゃんというのも少し憚れる齢だが、俺は引き続き芽衣ちゃんと呼ぶことにしていた。
「そういえば、今何やっているんだ?」
「OLですよ、普通の。といっても最近は新人の教育中心ですけど」
「え、それってテンガロンハット被って泣いたり笑ったり出来なくさせてやるとか?」
「しません!」
「それじゃ実戦教育だって言っていきなり吹っ飛ばしたり――」
「だからしませんって、そんなこと。っていうか実戦って何ですか実戦って」
「いや、まぁ……」
 始めてあったころのあの頃の幼さはほとんど無くて、今は綺麗な大人の女性といった感じだったが、少しむくれたその表情はやっぱり芽衣ちゃんのものだった。にしても何というか、汐が成人した時も同じような感想を持つような気がする。
 ……成人した、汐。
「岡崎さん?」
 ううむ、見たいような見たくないような。
「パパ?」
 そもそも、どちらの遺伝情報を引くのだろう。渚のDNAならスレンダー系だが、俺のだと未知数だし。いや待てよ、隔世遺伝で早苗さんのを受け継いだらなんというかむちむち、
「「……おにいちゃぁん!?」」
「ふおっ!?」
 風速40メートルの衝撃だった。ダブル妹アタック(仮称)の威力は半端無い。
「どうしちゃったんです? 急に呆けちゃって」
「いやちょっと色々、な」
 脳内で娘の成長をシミュレートしていましたなんて、言える訳が無い。
「そうですか。私てっきり汐ちゃんが大っきくなったらどんなスタイルになるのか妄想しているんじゃないかと思ってしまいました」
 いやいやいやいや。
「確かに想像してしまったがな」
「パパ、考えていること言葉になってる」
 汐に突っ込まれた!? っていうかばれた!?
 狼狽する俺に対し、芽衣ちゃんはそっと擦り寄って上目使いで俺を見ると、
「お兄ちゃん……芽衣はもう、大人の女性なんだよ?」
「ぐふっ――い、いや、事実だし」
「だよ?」
「お前は違うし」
 小学生だろうが、まだ。
 そう突っ込まれた汐はというと、少しだけ残念そうな貌をしている。
 ……最近の汐は時々、こんな悪戯っぽい貌をするようになった。
 おとなしいだけと思われていた幼稚園の時にも一本気はあったが、それが日に日に逞しくなっている様子が見て取れる。最近腕立てとか妙に運動するようになったし(そのトレーニング方法に誰かしらの陰を感じるが、汐が何も言わないので俺はそっとしておいている)、なんというか頼もしい限りであった。
 でもなぁ、アーミー系に育つのはなぁ。何か言う前にサーイエッサーとかイエスマイロードとか付けられると流石にちょっと――、
「「おにいちゃん!」」
 ……ぐふっ。
「ステレオは、やめてくれ……」
 二倍どころか、二乗で頭に響く。
「また、パパ上の空だから」
「そうですよ。しっかりしていれば私達にお兄ちゃんって言われることもないんです」
 と、人差し指を天井に向けて、芽衣ちゃん。
「……じゃあ、根本的な話を聞くぞ。なんで汐で『お兄ちゃん』なんだ?」
「それはまぁ、岡崎さんの弱点的にこれしかないかと」
 身も蓋も無かった。
「後は、汐ちゃんがおねだりとかしやすいようにって」
「……あのな」
 うっしっしと笑う芽衣ちゃんと、(多分意味が分からないまま)同じように笑う汐に、俺はこめかみを揉みほぐした。
「そういうのは心配しなくて良い。ちゃんと汐が欲しいものは、必要であれば買ったりしているからな」
「たまには、必要の無いものも買ってます?」
「う……」
「うん」
 意外な助け舟は、汐からのものだった。そう言ってちゃぶ台から立ち上がると、寝室へと飛び込んで、
「これ」
 程無くして、胸に抱いていたものを芽衣ちゃんに見せた。
「前に無くした時、パパに買ってもらったの」
 両手を後ろに回して、照れ笑いする汐。
 それは、ブリキのロボットだった。
 汐の言う通り、最初に買ってやり、それを無くした時に買い直したものだ。
「――ああ良かった、男手ひとつだと娘を厳しく育てる傾向にあるって言うから、心配していたんです」
「何処の統計だよ、それ……」
 少なくとも家では当てはまらない話だ。
「だからもう、お兄ちゃんはやめてくれ。見ろ、渚の写真立て倒れっぱなしじゃないか……」
 もちろんお兄ちゃんアタック(仮称)で倒れたものではない。多分それは、俺がでんぐり返りながらこけた時に、揺れて倒れたものだろう。
 俺は立ち上がり、タンスの上に倒れっぱなしになっていた渚の写真立てを元に戻してやった。
「――芽衣ちゃん?」
 どうも、様子がおかしい。
「あ……」
 芽衣ちゃんは、何かを避けていたのが察せられてしまったような貌をしていた。
「ごめんなさい岡崎さん、その写真立て、取ってもらえませんか?」
「……あぁ、わかった」
 全身が微かに震えているためか、立ち上がれない様子の芽衣ちゃんに、俺は渚の写真立てを手渡してやる。
「お久しぶりです、渚さん……」
 写真立てを抱き締めるように抱えて、芽衣ちゃんはそう言った。
「ごめんなさい。色々あって、此処へ来るのに遅れちゃいました……」
 それだけ言って、そっと写真立てをちゃぶ台の上に置く。
「芽衣ちゃん……」
 なんというか、かけるべき言葉が見つからない。俺と汐が乗り越えた壁を越えられていない人がいたこと、そしてあれから何年も経っても、ずっと思われ続けられていたこと。その両方に気付かされ、俺は言葉を失っていた。
「えへへ、変ですよね。写真立てにそんなことしたって――」
 芽衣ちゃんは最後まで言えなかった。
 汐がそっと抱き着いたからだ。
「……ありがとう、汐ちゃん」
 汐は何も言わず、ただ芽衣ちゃんを抱き締めていた。
 芽衣ちゃんはしばし肩を震わせて汐を抱き……、
「かわいーですっ!」
 何処ぞの風子のように悶えていた。
「お持ち帰りしちゃっていいですか岡崎さんっ?」
「却下」
 その目が少し赤かったことを意図的に無視して、いつも通りに俺。
「みぃ……お持ち帰りしたいよ、お兄ちゃん」
「駄目ったら駄目」
「おにいちゃん、お姉ちゃんをいじめないでっ!」
「はぅっ」
 汐の援護射撃が、今とても痛い。
「……それでも、駄目」
「――失敗しちゃった」
 残念そうに口の先を尖らせる汐だが、芽衣ちゃんはそんな我が娘を感嘆したかのようにじっと見つめ、
「演技力抜群ですねー」
「お陰で俺はズタボロだ……」
「でも、これだけの演技力なら将来演劇部のエース――いえ、部長になるかも!」
「それは、汐次第だよ」
「?」
 当の本人は、きょとんとしていた。まだ学年的にクラブ活動も始まっていないのだから、仕方ない。
「でも、私は信じます。汐ちゃんは将来絶対何かのエースになるって」
「エースねぇ」
 笑う俺だったが、芽衣ちゃんの予言は後年的中することとなる。もっとも、それになりより驚いていたのが当の芽衣ちゃんであったが。
 何とは無しに、ちゃぶ台を囲んで三人で笑う。そこへ、聞いただけでわかる調子の良い足音が響いて来た。
「あれは……」
「兄ですね」
 俺よりも付き合いが長いせいか、断言する芽衣ちゃん。と、ポケットからゴム輪を取り出して、昔のようにふたつに分けて結う。
「岡崎さん、汐ちゃんお借りして良いですか?」
「どーぞどーぞ」
「ありがとうございます。それじゃ汐ちゃん、準備は良い?」
 汐がこくんと頷く。
 どうも、事前に打ち合わせをしていたらしい。ふたりは音も無く立ち上がると、そっと玄関の前に正座で待機した。
 ややあって、のんきな足音と同じく緊張感のかけらも無い調子でドアが開き、
「ただいま〜。いやー参ったよ岡崎、昔あったコンビニが駐車場になっててさ――」
「「お帰りなさい、お兄ちゃん!」」
「ぶべっ!」
 バクテンの要領で、春原はこけたのだった。



Fin.




あとがきはこちら












































「お、おかえりなさい、お兄ちゃん」
「はっはっは。残念ながら渚だとどうということも無いぞ?」
「う゛……」
「落ち込まないで下さい渚さん、渚さんには渚さんで立派な武器があるんです。例えば(ごーにょごにょごにょ魚の子……)」
「……な、なるほど。――お帰りなさい、あ・な・たっ」
「はうあ!?」
「おぉー、見事なまでに効いてますね……」




































あとがき



 ○十七歳外伝、芽衣大暴れ編でした。
 アニメ第二期での活躍と、掲示板でのリクエストにて今回の話は生まれました。どうも朋也は『お兄ちゃん!』に弱いようですがそれがダブルならどうなるか……と書いていたら結構良いペースで進んだりw。

 さて、次回ですが――未定です;(早苗さんで一本やりたいなぁ)

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