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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「筋肉が通りまーす! 白線の内側までお下がりくださーい!」















































  

  


 日曜日、朝。
 いつもより早めに、僕は目を覚ました。
 いつも通りの、いつもの日曜日。そう思ったんだけど……。
「ん?」
 ひとつだけ、いつもと違う処があった。
 僕と真人のクローゼットに、『女子更衣室』と書かれた紙テープが張ってある。
 開ける。
 開けない。
 一瞬頭の中でそんな選択肢が浮かぶ。
「そんな、ゲームじゃないんだからさ」
 誰ともなしにそう呟いて、僕はクローゼットを開けようとし――その手前に落ちていたロール状の紙テープと、一枚の付箋紙を見つけた。
 付箋紙には、こう書かれている。
『このテープに名前を書いて、
 対象に貼りつけると、
 書かれた名前そのものになります』
 ……まさか、そんな。
 僕はもう一度、『女子更衣室』と書かれたテープを貼られたクローゼットを見る。
 それでも開ける。
 開けない。
 もう一度、頭の中でそんな選択肢が浮かんだ。
「でも、開けないと着替えられないし」
 誰に言い訳をするわけでもなしにもう一度呟いて、僕は今度こそクローゼットを開けた。
「ほ、ほわぁっ!!」
「ええーっ!」



『魔法のテープ』



 端的に説明してみる。
 本当に小毬さんが着替えていた!
 うわぁ、あまりにも端的すぎるっ。
「ごごごごご、ごめんっ!」
「うわーん、みられたーっ! 下のみならず上まで見〜ら〜れ〜た〜!」
 お互い大きな声でそんなことを言うものだから、まだ寝ていた真人を始め、バスターズのメンバー全員がすぐさま僕らの部屋に集結してしまう。
「なるほどな……」
 付箋紙と紙テープを交互にいじくりつつ僕の話を聞いていた恭介が、ひとつ頷いて顔を上げた。
「理樹の話を聞く限りじゃ、これに用途を書いて張り付けるとその通りになるんだろう」
「そんな無茶苦茶な!」
「現に小毬が着替えていたんだ。間違いないさ」
 と、恭介。そこまで自信たっぷりに言われると、僕としては反論出来なくなる。出来なくなるけど……。
「で、こまりんは何処まで見られちゃったんデスか?」
 既に普段着に着替えている小毬さんに、葉留佳さんがそう訊いていた。
「だから、上から下まで」
 顔を真っ赤にして、それでも正直に小毬さんがそう答える。
「もしかして、全裸?」
「なぁにぃ!」
 誰よりも早く、来ヶ谷さんが反応していた!
「違うよー、下着までー!」
 それより下だったら、もうお嫁に行けない……。そんなことをさらに真っ赤になって小毬さんは言う。
「命拾いをしたな、少年」
 僕の肩を叩きながら、来ヶ谷さんがそう言った。
「何で来ヶ谷さんがそう言うのさ」
 一応、反論しておく。
「まぁ、とりあえずだ――」
 そこで話を本来の流れに戻したのは、珍しいことに真人だった。
「名前を書いたものになるってことはだな、謙吾にヤカンって書いたのを貼り付けるとヤカンになるわけだよな?」
「多分な」
 一同を代表して、恭介がそう答える。
「よしじゃあ早速」
 と、紙テープに手を伸ばす真人。けれどもそれより早く――、
「お前がやれ」
 いつのまにかテープに何かをしたためてた謙吾が、それを素早く真人の額に貼り付ける!
「う……が……『だよもん動画が、午前10時をお知らせします』筋肉筋肉ぅ!」
 『柱時計』と書かれたテープを貼られた真人が、そう言った。そのまま、振り子よろしく両腕を揃えてふりふりし始める。
「微妙に本人のアレンジが入るんだなぁ」
 と恭助。
「問題はそこじゃ無いと思うんだけど」
 申し訳ないとは思いつつも、真人から一歩分離れて僕。見れば、恭介と小毬さん以外、皆退いていた。
「ねぇ、謙吾……」
「……あぁ。このままにしておきたい気もするが、時報が筋肉筋肉では鬱陶しい。戻すか」
 そう言って、謙吾が剥がす。すると一瞬真人は瞳の光を明滅させてから、
「やべぇ……私は時計って感じだったぜ……」
「どういう感じかわからないよ、真人」
「訊くだけ無駄だぞ、理樹」
 と謙吾。
「次はてめぇだっ!」
「う……お……『私は、魔物を狩るものだから』っ!」
 真人と同じく額に貼られたテープには、ギリギリ判読出来る字で『女剣士』と書かれてあった。
「け、謙吾?」
「はちみつくまさんっ」
 ……うわぁ。
「真人、この謙吾怖いよっ」
「あぁ、オレも背筋が凍っちまったぜ。っていうかどこらへんが女剣士なのかわからねぇ……」
「ぽんぽこたぬきさん!」
 なんか嬉々として言っているところがなおさら怖い。
「なら剥がせよ……」
 恭助の言う通りだった。
 僕は慌てて、謙吾に貼り付いたテープを剥がす。
「……不覚。不屈を誓って鍛えたこの心が、こうも簡単に乗っ取られるとは……うおおおお!」
「まぁ、そういうのは一切効かないみたいだから――落ち込まない方が良いと思うよ?」
 僕がフォローに回るけど、あまり説得力がないのは明白で、謙吾はしばらく懊悩し続けた。
「――次は、あたしだな」
 そこへ、今までずっと黙っていた鈴が、そう呟いてテープを手に取る。
「ちょっと鈴、それは玩具じゃないんだから」
「いいだろ、別に。馬鹿ふたりも使ったんだ。あたしが使っちゃいけない訳じゃない」
「そりゃそうだけど、誰に貼るのさ。鈴自身?」
 僕がそう訊くと、鈴は困ったように眉根を寄せて、
「あたし自身じゃ効果がわからない。だけど、理樹やこまりちゃん達に貼り付けたくもない」
 そこらへんの分別はきちっとつけてくれたことに、僕はほっと安堵する。
「それじゃ止めようよ。どうせ効果は真人や謙吾が見せてくれたんだし」
「ううん……それはそうだが……」
 うまく話がまとまる、そう思った時だった。
「ちょっと! 宮沢様の悲鳴が聞こえてきましたけれど、何事ですの!?」
 タイミングの悪いことに、笹瀬川さんが僕達の部屋に顔を出していた。
「謙吾のことなら男子寮にまで来るのか」
「当たり前ですわっ、棗鈴! ……まさか、宮沢様に何かしたのではないでしょうねっ」
「きしょいことを言うなーっ!」
 確かに僕でも理解しがたい。けれども、隣では西園さんがはたと膝を叩いていた。……何か、心の琴線に触れるものがあったのかもしれない。
「さぁ、その口でちゃんと喋ってもらいますわよ!」
「……バトルも悪くないが、ちょうどいい。ためしてみよう」
「! いきなりなんですのっ」
 鈴の挙動に怪しいものを感じ取ったのか、笹瀬川さんは突如中段回し蹴りを仕掛けて来た。
 けれど鈴はそれをかいくぐり、笹瀬川さんの胸元に何かが書かれたテープを貼り付ける。
 そこには、『かわいい猫』と書かれてあった。
「にゃんにゃんにゃんっ」
「うわっ! こわ! くちゃくちゃこわ!」
「いきなりくちゃくちゃ怖いんだ!」
 ある意味可哀想な笹瀬川さんだった。
「うにゃ〜!」
「きしょい! 寄るなーっ!」
「だめだよ鈴。自分で試したんだから」
 傍から見るととても微笑ましかったので、すぐさまテープを剥がそうとした鈴を僕は止めた。
「うぅ〜……」
 笹瀬川さんに背中から抱き着かれた状態の鈴が、くちゃくちゃ後悔したような貌で、渋々頷く。そこへ――、
「では、次は私ですねっ」
 嬉々として立ち上がったのは、クドだった。
「クドは誰に貼るの?」
 誰かを狙ってそういうことをしないのはよくわかっていたけれど、そう訊いてみる。するとクドは溌剌としたまま、
「私自身ですっ!」
 はっきりと、そう言った。
「……なんでまた、わざわざ」
「それはですねリキ、これを見てください」
 そう言って、既に内容を書き込んでいたクドが僕にテープを見せてくれる。そこには、達筆で『いんぐりっしゅの、ねいてぃぶすぴーかー』と書かれていた。
「これで私も、和風外国人から無印外国人にぱわーあっぷですっ」
「な、なれるのかなぁ〜?」
「無理だろう」
「無理ですヨ」
「――可能性としては、あるいは」
「まぁ、試してみるのも悪くないとおねーさんは思うぞ」
「そうかぁ?」
「百聞は一見に如かずだ。やってみてもいいだろう」
「あぁ、俺もそう思うぜ?」
 バスターズメンバー全員の意見が真っ二つに分かれる。
「とにかく、試してみないことには始まりません。リキ、お願いします」
「あ、うん……」
 そっと目を瞑るクドのおでこに、僕はそっとテープを貼りつけてあげた。
「……クド?」
「オオゥ、フジヤマテンプラニンジャオニギリ!」
 ――いやまぁ。
「なんだよ、胡散臭いだけじゃねぇか」
 苦笑しながら、真人。
「ドゥーユーピザに、タバスコかけるターイプ?」
「……そだね」
 僕も苦笑しながら、クドのテープを剥がしてあげる。
「どうでしたかっ」
「残念だけど、これだけじゃどうにもならないね」
 期待に満ちているクドには悪いけれど、事実だけを伝える。
「そうですか……やはり弛まぬ努力は必要なのですね」
「そういうものだろう」
 しゅんとなるクドを慰めるように、謙吾が注釈を入れた。
「そうだぜ、筋トレだって休みながらじゃできないしよ!」
 そう言いながら、エアダンベル――ダンベルを上げ下げするふり――を始めた真人が、にかっと笑う。
「……はい。おふたりとも、ありがとうございましたっ!」
 そう言って頭を下げるクドの表情は、残念さ一割、安心九割の笑顔だった。
「では、次は私だな」
 そう言って不適に笑ったのは、来ヶ谷さんだ。
「く、来ヶ谷さんも自分に?」
 恐る恐る、訊いてみる。
「残念だが少年、私には自己犠牲の精神などない。小毬君」
「うーん?」
 呼ばれて振り向いた小毬さんに、テープを持った来ヶ谷さんの手が一閃する。被弾した胸元には、『理樹君の娘(5歳)』と書かれていた。
 ――ってちょっと待ってよ!
「ママーッ!」
「ちょ、小毬さん!?」
「あそんであそんで〜」
「う、うわあああ!? っていうかなんでママー!?」
 たちまちさっきの鈴と笹瀬川さんみたいになる僕。しかも鈴の時と同じく、誰も止めたりしない。
「ウラヤマシイデスネ」
 と、僕らを見つめつつ葉留佳さん。
「そんなことないよっ!」
 確かに何か色々なところに色々なものが当たっているけどっ、って何言ってるんだ僕は!
「いや、理樹くんじゃなくてこまりんがですよ?」
「……え? なんで?」
「それを、訊きますか……」
「まぁ、少年らしいな」
「理樹はにぶい」
 西園さん、来ヶ谷さん、さらには笹瀬川さんを背負った(ように見える)鈴にまでそう言われる僕。
「ご、ごめんなさい……」
「なぁに、少年が謝ることじゃない。それは君の持ち味でもあるのだからな。それにしても……」
 と、僕から視線を離し、僕の背中をよじ登り始めた小毬さんを見つめる来ヶ谷さん。
「うん、かわいいなぁ……」
 その瞳の向こうには、お花畑が広がっていた。
「そちらのご趣味もおありでしたとは、懐が広いですね……」
 西園さんが、ぽつりと言う。
「この時期の子供は皆、可愛いものなのだよ。西園女史」
 外見は僕らと同じだけどね、という突っ込みは流石に言わなかった。
「そう言うものでしょうか……」
 いまいち納得できなさそうな貌で、西園さんは僕――と、僕の膝の上に収まった小毬さん、鈴――と、同じく膝の上で丸くなっている笹瀬川さんを交互に見て、
「まぁ、微笑ましいものはあります」
「うむ、そうだろう」
 眼福眼福とばかりに、来ヶ谷さんが頷く。
「はいはいはーい、次私ー!」
 そんな和みムードを切り崩し挙手したのは、葉留佳さんだった。
 次の一瞬には素早くテープを手に取って、何かを書き込み始めている。
「ん、何で皆離れるのかな?」
「御自分の、胸に手を当ててみればわかるかと」
 実に的確に、西園さんがそう言った。
「大丈夫、皆には貼ろうと思ってないデスよ。私の今回のターゲットは――」
 言い終わる前に、すごい足音が響き渡ると、誰かが僕らの部屋のドアを引きちぎるように開けて――、
「三枝葉留佳っ! 女子寮共用洗濯機に生きたガマガエルを入れたのは貴方ね!?」
 風紀委員の二木さんだった。それにしてもガマガエルって……何も知らずに洗濯物をいれて、スイッチを押した日には大惨事になっていたと思う。
「……へ? あー、いや。ちょっとど根性Tシャツ作ってみようと思って用意していたら小毬ちゃんの叫び声でなんだろーと思ってここに来ちゃってまぁ要するに今の今まで忘れていたんだけど、ちょうどいいや。飛んで日にいる夏の虫! ほわちゃーっ!」
 そんな奇声を上げて、葉留佳さんが二木さんの胸元にテープを貼り付ける。
 テープには、『妹思いの姉』とあった。
「……なによ?」
 貼られた胸元すら見ずに、二木さん。
「あれ?」
「それで、どうかしたというの?」
「あれ!? なんら変わっていないですヨ!?」
「何を言ってるの? 三枝葉留佳――」
 そこではじめて胸元を見る二木さん。
「……? なによこれ。くだらない」
「な、なんで効かないんだーっ!」
 私だけ除け者デスかーと続ける葉留佳さんに、来ヶ谷さんが優しくその肩を叩く。
「効いているのだよ、葉留佳君。ただそれは、普段の彼女となんら変わりがないだけさ」
「う、嘘っ! それだけは無いデスヨ!」
「そう、嘘よ」
 ものすごく不機嫌そうに、二木さんは呟いてテープを剥がすと、あっさりと握り潰す。
「さぁ、一緒に来なさい三枝葉留佳。今日という今日は委員会室で校内風紀というものをたっぷりと教えてあげる」
「せっかく面白くなって来たのに、これで終わりかーっ!」
 そんな台詞とともに、葉留佳さんは二木さんに襟首を掴まれて、部屋から引きずり出されて行った。
「……原作版ナウシカをお読みだったとは、侮れませんね」
「今の葉留佳君の台詞で、すぐにそれが出て来る君もな。西園女史」
 それがすぐにわかる来ヶ谷さんも、相当なものだと思う。
「それで、君は遊んで――いやいや、試してみないのかね?」
「――よろしいのですか?」
 ふと顔を上げて来ヶ谷さんにそう訊く、西園さん。その表情は心なしか、嬉しそうに見えた。
「さっき鈴君が言った通りだと思うが」
 と、答える来ケ谷さん。
「では、お言葉に甘えまして」
 そう言って、西園さんは来ケ谷さんからテープを預かると、鮮やかな手つきで何かをしたためる。そしてそれを――なぜか僕に提示すると、
「直枝さん、いかがですか?」
「……え?」
 一瞬、思考が停止した。テープには簡素な文字で『魔法少女』と書かれていたからだ。
「……リリカルリッキーか」
 と、静かに謙吾。
「リリカルリッキーだな」
 真人も静かに頷く。
「ああ、リリカルリッキーだ。だって魔法少女だぜ?」
 最後に恭介が、前髪を払いつつそう言った。って冷静になっている場合じゃないっ。
「謙吾、真人、それに恭介っ! 何でそこで意見が一致するのさっ」
「それはもちろん、魔法少女な少年を一目見てみたいからだ」
 腕を組んで、来ヶ谷さんがそんなことを言う。
「無論、この私もな」
「鈴っ」
 僕は最後の砦にすがる。
「いいじゃないかマホウショウジョぐらい。きっと似合うだろう」
「いやいやいやいや!」
 似合わない、似合わないからっ。後、絶対意味をわかっていない。
 じりっと、西園さんが無言で近づいた。
 でも僕は動けない。逃げようとしたら最後、さりげなく出口を塞いでいる来ヶ谷さんに捕まってジエンドだろう。場合によっては、恭介や真人の乱入も有り得る。
 考えろ、考えるんだ僕。ここで魔法少女になったら次の日にはとんでもない魔法の杖が出来上がっていて持たされ、さらにその次の日にはとんでもない衣装を着せられるのに違いないのだから!
 ……でも、何もいい案が浮かばない。
「観念して、いただけますね?」
 獲物を追い詰めることに成功した猟犬のような貌で、西園さんがそう言った。
「それでは、おとなしく――ふ、ふあっ、くしゅん!」
 そこで、小さなくしゃみをする西園さん。だけど頭は大きく前後に動いてしまい、
「あっ――」
 盛大に自爆していた。
「に、西園さん?」
「リリカルマジカルデッドオアアライブ! 魔法少女ワールドニシゾノ、ここに参上っ!」
 ものすごくハイテンションな魔法少女が現れた!
「必殺技は何かね?」
 興味深げに来ヶ谷さんが訊く。
「時を停める魔法で相手を行動不能にした上で、魔法のステッキ『ビューティバード』でフルボッコっ。防御も回避も許さない、一方的なお仕置きよっ!」
 お仕置きというより、一方的なズルだよそれ……。
「何はともあれ、予想外すぎて大いに楽しいのだが、頭が痛くなるな。これは」
「そ、そうだねぇ……」
 もう僕には、曖昧に頷くことしかできない。
「だが、何か物足りないな」
「え?」
 そんなことを言った声の主は、なんと謙吾だった。
「……俺が知っている魔法少女は、魔法の国のお供がいたはずなんだが」
 流石はロマンティック大統領、わかっているぜ……と、恭介が意味不明な合いの手をいれる。
「お供?」
「ああ、小動物形ならなんでもいいんだがな」
 ――小動物。
「……あの、どうしてそこで皆さん一斉に私を見るんでしょう?」
 と、クド。
「やるか」
 テープを片手に、来ヶ谷さんがにやりと笑う。
「オーケイ! お供の使い方もこのワールドニシゾノにお任せ!」
 両手を腰に当てて、そんなことをいう西園さん。
「ちなみにどう使うんだ?」
 恭介がそう訊いた。
「使い方は取っても簡単。両足を手で持って後はジャイアントスイング! タイミングを見計らって手を放せば、メテお供ストライクの完成よっ」
「そんな使われ方嫌ですー!」
 当然のことだけど、クドがそう叫ぶ。
「安心して、クド」
 僕はそう言って、西園さんのおでこに張り付いたテープを剥がしてあげた。
「……随分と、予想外のことが起きたようですね」
 たちまち元の様子に戻る西園さん。
「ある意味僕よりはましだったのかもしれないけどね」
 大きく息を吐きながら、僕。
「でもこれで、みんな気が済んだ――」
「おおっと、待ちな」
 そうは問屋が降ろさなかった。
 そう、僕が意図的に避けた人物――恭介が、静かにテープを指で挟んで、抜き手の構えを取っている。
「恭介、一応僕らよりひとつ上なんだからさ。自重しようよ……」
「残念だが理樹、俺の心はいつもお前達と一緒なのさ」
 自慢できないことを、自信たっぷりな様子で恭介は言う。
「だから……遊ばせてもらうぞ、俺も!」
 そんな恭介の手にあるテープには、こう書かれている。
 ――『理想の妹』
「ねぇ、恭介……」
「ああ、何だ?」
「それ、鈴に貼り付ける気?」
「いや。そうしたいのは山々だが鈴は恐らく逃げようとするし、そもそも笹瀬川が膝の上で丸くなっているからな。簡単に貼り付けられてしまう。それじゃ、面白くないだろう?」
 いやまぁ、そうだけど。
「だから俺は敢えて最難関――来ヶ谷、お前を選ぶ!」
 と、恭介はオリンポス山登頂を宣言した。
「……ほほぅ。それは楽しそうだな」
 そして面白ければどんな挑戦でも受ける、来ヶ谷さんが静かに構える。
「よかろう、来い」
「行くぜ!」
 その言葉と共に、恭介が謙吾に勝るとも劣らない踏み込みで一気に接近する。来ヶ谷さんは小さく鼻で笑うと、僕の目で追えるぎりぎりの早さで真横に避けようと――、
「ゆいちゃ〜ん、あそんであそんで〜」
 急に僕の膝を離れて、小毬さんが来ヶ谷さんに纏わり付いていた!
「ぐああっ」
 たちまち動きが鈍る来ヶ谷さん。
 そして、その肩口に恭介のテープが難無く貼り付けられてしまった。
「――お兄ちゃんっ。いつも遊んでばっかりいちゃ、ダメダゾっ!」
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「いやいやいやいや!」
 狂喜しているのは恭介だけで、真人と謙吾は完全に凍り付いている。
「くるがやみたいな妹がいいのか、恭介は」
 遅れて、息を飲みながら鈴がそう言った。
「いや、違うと思うなぁ」
 性格的には、お似合いではありそうだけれど。
「そうなのか……ふむ、理樹クンはああいったジョセイがお好みかね? オネーサンに教えなさい」
「だから違うってば」
 っていうか、何で僕に矛先を変えるのか、今ひとつよくわからない鈴だった。
「……剥がすよ、恭介」
「ああ。俺はもう、満足さ……」
 真っ白になった恭介が頷く。
 僕はすぐさま、来ヶ谷さんに貼り付いていたテープを剥がした。
「やれやれ、私もか……まったく、謙吾氏を笑えないな」
 と、苦笑しつつ来ケ谷さん。
「まぁ、どちらかといえばありでした」
 と西園さん。
「「いや、それはない」」
 珍しく声を揃えて、真人と謙吾がそう言う。
「まぁその……」
 僕は盛大にため息を吐いて、全員を見渡した。
「みんな、気が済んだ?」
 その場に居ない葉留佳さんと、五歳になってる小毬さんと、猫になっている笹瀬川さん以外の全員が頷く。
「じゃあ、これ処分するからね」
 校内中の生徒に真人だの恭介だの来ケ谷さんだの書かれたテープを貼りまくられた日には、この学校が阿鼻叫喚の渦となるのは目に見えている。だからこそうまく処分を――って、どうすればいいんだろう。
 ごみ箱に捨てたとしても、誰かが拾ってしまったら……その場から大変なことになる。シュレッダーで切り刻んでも、破片に何か書かれて貼り付けたらそれでお仕舞いだ。
「どうすればいいんだ……これ」
 頭を抱えてしまう僕に、
「どうもこうも――」
 と、来ヶ谷さんは言う。
「紙で出来ているんだ。燃やせばいいだろう」
 ……あ。



 焼却炉に放り込むと、今回の騒動の原因となったテープはあっさりと燃え上がった。
「なんかもったいないですネ」
 と、二木さんのお説教から解放されたのか逃げて来たのか(多分後者だと思う)、いつの間にか戻っていた葉留佳さんがそう言う。
「なに、誰にも制御出来ないものなど、燃やしてしまった方が良い。言ってみれば、過ぎた玩具なのだよ」
「そうだったねー……」
 最初から最後まで、ずうっと恥ずかしいことしていたよーと、僕らの部屋を出る際にテープを剥がしてもらった小毬さん。
「まぁ、良い余興であったと言えるのではないでしょうか」
 最後に、西園さんがそう締め括った。
「しかし、腹減ったなぁ」
 と、恭介。
「わふー、確かにぺこぺこです」
 すぐさまクドがそう頷く。
「そう言えば、朝御飯食べていなかったね」
 時刻は、もう立派なお昼時になっていた。
「よっしゃ、どーんとカツで行こうぜ!」
「まったく、お前は何かあるとすぐカツだな」
「んだよ、悪ぃかよ」
「まぁまぁ」
 真人と謙吾を同時に宥める僕。と。
「うーん……」
 何故か鈴が、ひとり唸っている。
「どうしたの、鈴」
「何か、忘れている気がする」
「何かって、何さ」
「わからん。思い出せない」
「それじゃ、どうでもいいことなんじゃない? ほらもうお昼だし、食堂に行こう」
「うん、そうだな。そうしよう」
 こうして僕らは、かなり遅めの朝食兼、お昼を食べに歩きだした。



■ ■ ■



 ……そして。
 部屋に戻り、日向で丸くなって眠っている笹瀬川さんを見つけたのはそれから数時間後のことだった。



Fin.




あとがきはこちら













































「さて、ここからはおねーさんの推理タイムだ。あのテープは誰が用意したのか、皆で考えてみたまえ」
「はいっ」
「うん、クドリャフカ君」
「恭介さんではないでしょうか」
「残念ながら、答えはノーだ。恭介氏は本編中で附箋にある注意書きをよく読んでいたろう?」
「そういえば、そうですね……」
「え、違うんでデスか? 私も恭介くんだと思っていたんだけどな」
「葉留佳君もか。では、訊こう。どのような根拠があるのかね?」
「簡単デスよ。恭介くん、テープ貼り付けられてないでしょ?」
「うん、いい処を突いて来たな。だが葉留佳君。もしそうだとして、あの恭介氏がそこまで読んでいたという可能性は?」
「へ?」
「もし恭介氏がテープを用意したのなら、自ら疑われるような真似はしないということさ。さらに、貼り付けられていないことを論拠にすると、君も対象者になるんだが?」」
「あ、そうか。ナルホド」
「――ん」
「お、こんどは鈴君か。誰が用意したと思うのだね」
「あたしは――くるがや、お前だと思う」
「……ほぅ。根拠は?」
「とくにない。強いて言うなら、こまりちゃんを脱がして喜ぶのはくるがやぐらいだ」
「ふむ、鋭いな。だが私は小毬君の艶姿を拝めていないぞ?」
「そうなんだ。そこがひっかかる。だとすれば――あれ、なんかおかしいぞ?」
「どうしたの? 鈴ちゃん」
「いや、最初から考えたら何か変なんだ、こまりちゃん。でも……そうしたら……」
「ふむ、鈴君は到達したようだな。他には?」
「はい」
「うん、西園女史か。どうぞ」
「……では。あのテープの影響下で、不自然な反応を示した方がひとりだけいました。多分その人が、テープを用意したのでしょう」
「――素晴らしい。一発で到達出来たな」
「え? みおちんわかっちゃってるんですか?」
「わふー、教えてください西園さんっ」
「それは……乙女の秘密です」
「うがー! キャラ変えてまで誤魔化してますヨこの人っ!」
「知りたいですー!」
「――残念ながら、ここでタイムアップだ。さぁ、一体誰があのテープを用意したのか……君にはわかるかね?」




































あとがき



 リトバス二本目のSSは少し不思議な感じになりました。
 こういうことができるのもリトバスならではなんですが、そこからさらに皆がやりたいことを始めたら、結構な長さになってしまいました。これもやっぱり、リトバスならではなのではないかなと思います。
 さて、次回は――西園女史で。

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