まえがき
一応念のため。リトバス本編を一周以上することをお勧めしますです。
事件は唐突に起こった。
学校の体育倉庫、そこにあるあらゆる競技のボールが全て、野球のボールにすり替えられたのだ。
これでは、野球系の部活以外練習に困ることになる。
直ちに私達風紀委員は現場へと向かい、現状の検証と犯人の特定、そして備品の速やかな調達を行おうとした矢先――彼女達に襲われた。そう、犯人の特定はすぐに出来ていたのだ。
私達は直ちに応戦。この私、二木佳奈多自身も前線に出て犯人の捕縛に務めようと努力し――敗北した。
彼女らが去った後、私はどうにかして立ち上がり、かろうじて意識の残っていた委員に声をかけ状況を確認する。
「誰でも良いわ。戦闘可能な人員は?」
「ぜ、ゼロです……」
体育倉庫の中を、絶望的な空気が支配した。
そこへ、開け放たれたままの体育倉庫の入り口から五人分の影が伸び――、
「くそっ、間に合わなかったか……」
聞き覚えのある声が、悔しそうな響きを含んで私の耳に届く。
「あ、貴方達は……」
「キョウレッド!」
「ケンブルー!」
「マサブラック!」
「リンイエロー!」
「リッキーピンク! 五人揃って――ってちょっと待ってよぉ!」
『友情戦隊リトルバスターズ!』
■ ■ ■
「どうした、何か問題があるか? リッキーピンク」
恭介――キョウレッドが不思議そうに僕に訊いた。
「色々問題があるよっ! まず僕のこのスカートは何さ!」
「追加装甲だ」
「つ、追加装甲!?」
「剣道の胴着で言うところの、前たれだな」
と、重々しく謙吾もといケンブルー。
「リッキーは貧弱だからなぁ」
さらに追い打ちをかけるように真人じゃなくてマサブラック。
「似合っているぞ、理樹」
とどめにリンイエローにそう言われてしまう。
「じゃ、じゃあさ。せめてマスクでも被らない? っていうか普通戦隊ものってマスク被るものでしょ?」
「それだとお互い顔がわかりづらいだろ? それに思っていたよりアレは息苦しいからな」
「そ、そうかもしれないけどさ。これじゃなんか恥ずかしいというか」
それに、原色派手派手なスーツも今時無いと思う。
「はっはっは。リッキーは恥ずかしがり屋だなっ」
「キョウレッド! そう言う問題じゃなくて――」
「貴方達、そんなことで内輪揉めしている場合じゃないでしょう!」
二木さんの一喝で、僕達は我に返った。
「気を付けなさい、友情戦隊。敵は、すぐ近くにいるわ……悔しいけど、校内の治安維持を我々風紀委員から、貴方達友情戦隊に移行させます」
そう言って、がっくりと頭を下げる二木さん。
「了解した、風紀委員。これより校内の治安は、俺達リトルバスターズが護る!」
五人を代表して、キョウレッドが重々しく頷く。
そのときだった。
「うわあ〜はっはっはっはっは〜!」
その、語尾が上下にドリブルする笑い声は間違いない。彼女たちだ!
僕達は慌てて声のした方、グラウンドへと走り出す。
そこには果たして――、
「悪の女王、コマリマックス!」
「暗黒騎士、ユイコベイダー!」
「地獄博士、マッディーミオ……」
「戦闘魔獣、フェンリルクド!」
「戦闘員A、ダークはるちん! ――ってええ! まじっすかこれ!」
……どうやら、向こうは向こうで問題意識を抱く人が居たみたいだ。
「姉御っ! こりゃあないッスよ! なんで私だけ下っ端――」
「姉御という前にサーを付けろ戦闘員」
「い、イエッサー姉御!」
眼光鋭い暗黒騎士の一喝により、直立不動で敬礼している戦闘員A。
「それで何かね? 戦闘員」
「いや、ですからね――」
「何も問題はない」
「いや、だって」
「なにも、もんだいはない」
「……はい。何も問題はないです」
さめざめと泣く首から下が全身黒タイツの戦闘員Aに、僕は何故か親近感を感じてしまう。
「さて、……また君達か、友情戦隊」
「マックス帝国!」
キョウレッドが一歩進んで、握り拳を作りつつそう叫んだ。
「運動部のボールを全て野球のボールに替えて、一体何をするつもりだ」
続いて、ケンブルーが眼光鋭く訊く。
「なに、私達は優秀な帝国の僕となるように、彼らを鍛えてやろうとしただけだ。例えばサッカー部、ボールが小さければより的が小さくなり、正確なシュート放てるようになるだろう?」
と、黒光りをする鎧を煌めかせつつ答える暗黒騎士。
「ふざけんじゃねぇ! どっちかというと大玉転がしに使うあれを使った方が、筋肉が付くじゃねぇか!」
許さねぇとばかりに叫ぶ、マサブラック。
「パクリはいけないな」
最後に、リンイエローが重々しくそう言った。
多分、その場のノリでの発言だと思うけど。
「……どうやら話は平行線のようだな。女王陛下、彼らの殲滅の指示を」
「うん、おっけーですよ〜」
わはは〜と笑いながらマントを翻す悪の女王。その下は……随分ときわどいコスチュームだった!
あんなビキニもどきで寒くないのだろうか、悪の女王。
「お待ちを、女王」
「ん? なにかなゆいちゃん――もといユイコベイダー?」
「悪の女王が笑う時は『ひゅ〜ほほほ』と相場が決まっております」
「あ、そうなんだ〜」
そうなんだろうか。
「じゃあ、いくねっ。ひゅ〜ほほほ!」
「完璧です。女王陛下」
本当に、そうなんだろうか。
「それじゃあみんな〜、やっておしまい〜!」
「アラホラサッサー!」
言われて元気に飛び出したのは、さっきまで落ち込んでいたはずの戦闘員Aだけだった。
「女王陛下に栄光あれーっ!」
彼女はそのまま僕らの方に突っ込み――、
「バスターうまう〜ビーム!」
「バスターバンブーソード!」
「バスターマッスルパンチ!」
「バスターキティシューティングスターキック! って長いだろこれー!」
そしてそんな彼女に一切容赦をしない僕達。状況だけを見ると、悪いのは友情戦隊の方に見えなくもない。
というか見える。
「あ、あれ〜?」
ずたぼろになりながら、どうにか自陣に戻る戦闘員A。
「……む。なかなかやるな、友情戦隊」
ちなみに僕は何もしていない。
「姉御! サー姉御! 感想言う前に一緒に戦ってくださいよう! 後そこのわんこ! 戦闘魔獣の名前は伊達かぁ!」
「いえその、嬉々として戦場に飛び出たのでここはお任せしようかと……」
と、ふわふわの着ぐるみ――いやいや、毛並みの戦闘魔獣が控えめにそう答える。
「私も今そう思ったんだ」
「姉御! 姉御姉御姉御! 『今』そう思ってどうするんですかぁ!」
「どちらにしても残り四人ではこちらの不利だな。地獄博士、あれを出すんだ」
「……あれですね。わかりました」
暗黒騎士にそう言われて、左胸に『地獄』と墨書された最高にセンスの悪い白衣を翻しつつ背中からラジコンのコントローラーを取り出す地獄博士。
「……大魔絡繰『ジャイアントササミ』、発進」
「何かおつまみみたいな名前だね、それ」
『余計なお世話ですわ! ま゛ー!』
そんな声が、上空から響いてきた。
見上げれば――巨大な制服姿の女生徒がゆっくりと僕らの前に降りてくる!
「っていうかよ……」
キョウレッドがジャイアントササミを仰ぎ見る。
「黒だな……」
「ああ、黒だ……」
「思っていたよりせくしーだな」
「みんな何を見ているのさっ!? キョウレッド! リーダーなら止めようよ!」
「あ、あぁ……風紀委員長! あれは校内風紀的にアリなのかっ!?」
「そんなことは良いからさっさと戦ってきなさい!」
当然ながら、後方に下がっていた二木さんに怒られる。
「……さぁ、皆さん。友情戦隊がコントを繰り広げている間に、早く大魔絡繰に搭乗してください」
「うむ」
「コントだとぉ……」
耳聡いキョウレッドが悔しそうに呻いた。
「俺達は、真面目にやっているだけだぜ!」
「いや、それ墓穴を掘るだけだからね」
「っていうか、戦闘魔獣は? 巨大化しねぇのか?」
相手の事だというのに、何故か期待した貌でマサブラックが訊く。
「フェンリルクド君は小さいから意味があるんだ。大きくしてどうする」
おまえは何を言っているんだ、そんな感じで暗黒騎士がそう答えた。
「わ、わふーっ、今戦闘魔獣としてのプライドが傷つけられましたー!」
でも、確かにそのふわふわ具合は……魔獣と言うよりマスコットにしか見えない。
「いいんだ。胸を張れ、戦闘魔獣。君のその小さい身体でも――出来ることはある」
「……わかりましたっ暗黒騎士さんっ!」
すごい立ち直り方だった!
「あの、こちらもコントをしていては折角のアドバンテージが……」
「おっとそうだった。女王陛下、ジャイアントササミにご命令を!」
「うん、さーちゃーん! 私達を乗せてー!」
『ま゛ー!』
直後、謎の怪光線がマックス帝国ご一行に降り注ぎ、彼女たちがジャイアントササミに収容されていく!
「どーすんだよ、これ……」
流石に相手にならないと悟ったのか、マサブラックがそう呟いた。そこへ、
『ふふふ……全長16メートル、全重量550トンのこの巨体に、貴方達は勝てますか……?』
こころなしか嬉しそうな地獄博士の声がスピーカー越しに聞こえてくる。
「ちょっと待って。それ比重がものすごいことになってない?」
『…………』
またもやスピーカー越しに、絶句した気配が伝わってきた。
『……劣化ウランで出来ていることにでもしましょう』
「放射能、気を付けてね」
『お心遣い、どうも』
……で。えーと、なんだっけ。
「くそっ、相手がでか過ぎるぞ……」
一瞬思考停止してしまった僕を助けるように、キョウレッドがそう叫んだ。
「落ち着いてキョウレッド! 僕達にも何かないの?」
「あれ? ああ、そうか。ふ……俺としたことが焦っちまったぜ」
額の汗を拭いつつ、キョウレッドが腕時計型通信機に顔を近づけた。
「ドルジロボ、発進!」
すぐさま重低音と微細な地震をを伴い、地を割って巨大な猫型ロボが現れる!
『ぬ゛お゛っ゛』
いつもより大きいせいか、声が野太いドルジロボだった。
「理樹、あれ不思議なポッケで助けてくれたり、空を自由に飛べるのか?」
「いやいやいや」
興味深そうに訊くリンイエローに首を横に振って答える僕。そうこうしている間に、グラウンドを挟んで二体の巨大ロボが相対する。
「全員搭乗!」
キョウレッドの号令とともにロボの口から飛び出た縄梯子を使って、僕らは操縦席へと移動した。
「各部問題無し、出力安定。敵ロボットからの熱源反応もなし!」
早速オペレーターシートに滑り込んだ僕は、みんなへそう報告する。
「このまま戦うのか?」
ガンナーシートに座ったケンブルーが、司令席のキョウレッドに訊いた。
「いや、戦隊ロボは変形するって相場が決まっているんだ。ドルジロボ、トランスフォーム!」
『ぬ゛ぬ゛お゛お゛お゛っ゛』
今、猫型のドルジロボが……二本足で立ち上がる!
『って、直立しただけではありませんこと!?』
『さーちゃん、「ま゛ー!」忘れてる、「ま゛ー!」』
『ま、ま゛ー!』
あわててそう叫ぶジャイアントササミに、対し、キョウレッドが驚愕の叫び声を上げた。
「なんてことだ、ドルジロボ変形プロセスの秘密が割れちまったっ!」
「いや、それくらいなら良いと思うよ。っていうか一目瞭然でしょ」
「ああ、そうだな。サンキューリッキー。リンイエロー、こっちから攻めるぞ。相手の後ろに付け、回り込むんだ」
「わかった」
操縦席のリンイエローがスロットルをいっぱいに入れて、ペダルを強く踏み込む。
『ぬ゛お゛っ゛』
ドルジロボが戦闘機動に入った。
――のろのろと。
「……ちなみに訊くけど、ドルジロボってどれくらい重いの?」
「聞いて驚くなよ、なんと1200トンだ!」
……ジャイアントササミと同じぐらいの大きさなのに、体重が二倍近かった。
『ローレンシウムででもできているんですか?』
即座に地獄博士からそんな突っ込みが入る。
「……どう見たって、回り込めないね」
「どうするんだ、殴り合いか!?」
格闘戦用シートに座ったマサブラックがそう訊く。
「いや――」
しかしそれに答えたのはキョウレッドではなく、
「――ここは一気に必殺技だな」
リンイエローだった。
「ええっ、いきなり!? ってちょっと!」
僕が止める前に、彼女は必殺技のスイッチを押していた。
『ぬ゛お゛っ゛!』
野太い雄叫びを上げて、ドルジロボが空高く飛び上がる!
「こうなりゃやるしかない! 行くぞみんな!」
「ああ!」
「おう!」
「うん!」
「……いやまぁ」
良いんだろうか。こんな急ぎ足で……。そんな僕の思考を余所に、みんなの声がひとつになる。
『ドルジロボ、超時空ボディプレス!』
『それただのボディプレスでは――』
『成敗!』
『む、むきゅ〜……』
ジャイアントササミの正論も、圧倒的重量差の前には全く意味をなさなかった。
なんというか、不憫だなぁ……。
■ ■ ■
「負けちゃったねぇ」
「まぁ、悪は滅びてこそ美学があるというものだよ」
「それにしても、このレトロな五人乗りの自転車、何とかなりませんか……」
「まぁまぁ地獄博士、こうして五人無事だっただけでも――ってああっ! 戦闘員Aが乗ってません!」
「みんな待ってよ〜! はるちん泣くよっ、本格的に泣いちゃうぞー!」
■ ■ ■
「悪は、滅びた……」
変身を解いた恭介が、夕陽を眺めつつそう言った。
「いや、生き残っているでしょ」
ジャイアントササミですらマックス帝国の皆さんが脱出した後、起き上がって歩いて帰っていったし。
「正義の味方は、追撃なんてしないものさ」
「それ、話題がずれてるからね」
「どちらにしても、戦いは続くだろう」
と、こちらも既に袴姿の謙吾がそう言う。
「構わねぇさ。また叩けば良いだけのことなんだからよ」
変身を解いたら何故か柔道着の真人もそう言う。
「いやまぁ、そうだけどさ……」
頭を抱えつつ、僕は何か言おうとした。すると、
「理樹、お腹が空いた。帰ろう」
唯一まともな格好の鈴がそう言って、僕の袖を引っ張った。
「うん、そうだね」
その涼しげな貌で落ち着きを取り戻し、僕は頷いて答える。
「マックス帝国か……」
また、逢えるかな。
そこまで考えて、僕は頭を大きく横に振った。
「理樹、置いていくぞー!」
既に遠くに居る鈴がそう叫ぶ。
「待って、今行くからっ」
そう言って、僕はスカートを翻し皆の元に戻っていった。
「……って何で私服も女の子ものなのさー!」
Fin.
〜男子更衣室〜
「お疲れ。良い汗かいたな」
「ちょっと待ってよ恭介。どうして僕だけ徹頭徹尾女の子役なのさっ」
「何でってお前……ちょっと前から戦隊ものは男3、女2って相場が決まっているんだ」
「決まってるって――向こう全員女の子だったじゃない」
「まぁそう言うこともあるさ。お前らも不都合なかったろ?」
「ああ」
「おう」
「うん」
「いやいや、僕にはあるからね」
「って何で鈴が男子更衣室にいるのさっ」
「あたしだって嫌じゃぼけー!」
〜女子更衣室〜
「皆さん、お疲れさまです〜」
「クドちゃんもお疲れさまっ」
「ふむ、久々に良い運動だったな」
「なんか私が一方的にボコられただけだったような気がしますヨ」
「まだ良い方でしょう。私達なんて最初から貴方達に叩きのめされたことになっていたのよ」
「それより、わたくしが巨大ロボになっているシーン、一体どのように撮りましたの?」
「ああ、あれか……所謂特撮だ」
「なにか勝手に下から覗かれていたようですけれど……しかも宮沢様にまで――」
「うむ。最近の特撮技術はすごいなぁ」
「そ、それでいいのかなぁ……」
「それより、神北さん」
「ん? 何かなみおちゃん」
「衣装から中身がはみ出てます」
「ほわぁっ!」
「わふーっ! せくしーだいなまいつです!」
「う、うええええええん! い、一体いつからぁ!?」
「撮影が終わった後のようですが」
「うむ、絶景かな絶景かな……」
「姉御姉御、鼻血出てますヨ」
「……わたくし、何でこんな撮影の出演にOKしてしまったのかしら」
「私も、頭が痛くなってきたわ……」
今度こそFin.
あとがき
リトルバスターズ初SSでした。
何としてでもメインキャラ達を全員出そうと奮闘したところ、何だか劇中劇みたいなノリで始まりました。きっとこれからも魔法少女、ファンタジー、SFなどなどな展開に……なるかもしれません。ならないかもしれませんけど。
そんなこんなですが、これからもよろしくお願いします。
次回は……小毬?