超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。
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「お前、この前愚痴っていた割にはアニメで出番ありまくりな」
「これも風子の人徳です。人徳と言うより大徳かもしれません」
「大徳ねぇ……」
久々にまとまった雪が降った。
それは当然のように降り積もり、辺り一面に雪化粧を施して俺の眼前に広がり、少しだけ憂鬱にさせる。
そう。正直なところ、雪は苦手な部類に入る。それは渚が去っていった原因のひとつであったし、まだ幼い汐が高熱に苦しんだあの日も雪が降っていたからだ。
もっとも、当の本人はまんざらでもなく――、
「いやっほーぅ!」
むしろ嬉々として雪かきをしている。
『炬燵の中の丸い面々』
「何で汐ちゃん、あんなに元気なのでしょうか。風子には理解出来ません……」
炬燵に両腕毎入った姿勢で、風子がそう呟いた。日曜をいいことに今朝方遊びに来て汐と一緒に雪かきをしていたのだが、つい先ほど、
「寒すぎですっ!」
と叫んでひとり戻って来たのであった。
「今回ばかりは、同意だ……」
同じような姿勢になりつつ、俺。ちょっと前まで暖かい日が続いていたので、こういう急な冷え込みは身体に堪える。
「岡崎さんの方は理由がはっきりしています。すばり、齢です」
と、随分と失礼なことを言う風子。
「お前だってそうだろう」
「そんなことありません。風子は昔から寒がりです」
「いーや。十年くらい前はお前も汐と一緒にはしゃいでいただろうが」
「岡崎さん失礼です。それではまるで、風子が年を取ったせいで寒がりになったように聞こえます!」
いや、だからそう言っているんだが。
「間違ってないだろ」
「そんなことないです。風子はこうみえてもうら若いさんじゅ――」
そこで、風子の表情がぴしりと固まった。
「……間違っていませんでした!」
素直に認めるあたり、少しは成長しているようだった。
「おとーさん!」
と、そこへ窓越しに汐の声が飛んでくる。
「どうした」
炬燵から出た後窓を開けて、答える俺。すると汐は持っていたシャベルを杖のように両手で突き立て、
「玄関前まで全部かき終わったけど、後どうする?」
「そこまでやれば十分だ。寒いだろ、そろそろ上がれって」
「ん、もーちょっとだけやってみたいんだけど。せめて道路まで、駄目かな?」
頬が紅潮している。寒いには寒いのだが、身体を良く動かしているため、それほど辛くは感じていないのだろう。
「わかった。無理するなよ」
「うんっ」
元気いっぱいに頷き、汐は作業を再開した。
俺は窓をゆっくりと閉め――そこで部屋の温度が一気に下がったことに気付いた。
「寒っ」
慌てて、炬燵に戻る。
「窓を開け過ぎですっ! 風子、まもなく雪女になるところでしたっ!」
炬燵の布団を顎まで引っ張った体勢になって、風子がそう抗議をする。もちろんそんな格好になっても背中ががら空きなので、語尾は若干ながら震えていた。というか――、
「風子、布団引っ張り過ぎだ。炬燵にすきま風が入る」
「はっ、気付きませんでした!」
慌てて元の姿勢に戻る風子。
「それにしても寒いです。どうにかなりませんか、岡崎さん」
「どうにもこうにも、暖房はこれだけだからな」
正確には石油ストーブが一台あるのだが、こちらには火を入れていない。石油が学生時代に比べて格段に上がったのも確かだが、数日前までは暖かかったので充填に手を抜いていたというのもある。
「乾布摩擦なんかどうだ? 暖まるらしいぞ」
「謹まずに遠慮します。あれはするまでが非常に寒いうえに恥ずかしいので」
やろうとはしたのか。勧めたのは公子さんか芳野さんか――、案外両方かもしれない。
「こうなっては仕方ありません。風子は……風子は炬燵のヤドカリになります!」
突如そう宣言して、風子は炬燵の中にもぐりこんだ。
ややあって、うつ伏せの状態で首だけがぴょこんと飛び出る。
「これで、完璧です」
と、海亀状態のまま『んーっ』とくつろぐ風子。
「きつくないか、それ」
自慢にもならないが、うちにある炬燵は結構小さい。
それは、俺と汐ふたり分で十分だからなのだが、それ故全身を入れようとすると俺や汐では無理がある。背丈が一回り小さい――そう、風子程であればそれは可能であるが、ひとりだけの時に限る。
つまり何が言いたいのかというと、俺は風子の両脚に挟まれていた。言ってみれば、風子は今俺から見て逆Yの字になっている訳だ。
「言われてみればかなりきついです。ですが、岡崎さんが出てくれれば万事解決です」
……ほほぅ。
「そういう訳で岡崎さん、炬燵から出てください」
「出るかっ!」
「では、強制排除です。風子直伝、四十八の殺人技のひとつ、ヒトデシザー!」
自分で直伝している上に、ヒトデなのかカニなのかはっきりしない技名だった。
「さぁ岡崎さん。苦しむ前に降参して炬燵から退去ですっ」
「え。あー、いや……」
要は風子が両脚で俺を挟み付けている訳だが、あまり効果は無い。
というかまったくない。
「んーっ! これでも降伏しませんか岡崎さん!」
返事の代わりに、俺は両脇にある風子の足の裏を同時にくすぐってやった。
「わっ、わー! や、やめてください岡崎さん、く、く、くすぐったいです!」
というか、そのまま俺側の布団をめくれば、スカートの中が丸見えのような気がする。
やれば一撃必殺で飛び出るに違いないから、やるか。そう思った時――、
「なにじゃれあってるの?」
雪かきから戻っていた汐が呆れた目でそう言った。
「汐ちゃん良く訊いてくれましたっ! 風子のヒトデシザーが岡崎さんに効かないんですっ!」
「――いや、その前にヒトデかカニかはっきりしようよ」
流石は我が娘、思考回路が全く一緒だ。
「あー……、おとーさん?」
「見ればわかる通り、風子が俺を炬燵から追い出そうとしているので迎撃しているんだ」
「いや、そういうふうには見えないから」
そう言いながら、手袋を取る汐。
「それじゃどういう風に――」
「見えますかっ!」
俺と風子の声が重なる。すると汐は耳当てを外しながら少し考える素振りを見せ、
「そうね。こうやって見てると……」
「夫婦ってのだけは無しだぞ」
先に予防線を張ってやる。すると汐は増々呆れた貌になって、
「いや、それはないから」
と、斬って捨てた。
「では、どう思ったのでしょう」
改めて風子が訊くと、汐は間髪置かず、
「父娘みたい」
……なるほど。
あながち否定できない構図に、俺は頷くしかなかった。
「……岡崎さん」
そこへ、すごくショックですと言いたげな雰囲気で風子が言う。
「なんだ?」
汐と同じくらいに見られたのが気に障ったのだろう、俺は多少余裕をみせて答えてやる。すると風子は器用にも首だけでこちらを見て、
「お母さんと呼ぶのは勘弁してください」
「呼ぶかっ!」
母親の記憶は無いが風子のようではない。断じて!
「はいはい、いま暖かいお茶入れるからね」
そんな俺の心中が見えているのかのように微笑んで、汐がそう言う。
それは非常に魅力的であったので、俺と風子は大人しく待つことにしたのであった。
Fin.
あとがきはこちら
「こんにちはー、朋也居るー? って、何してんのよあんたっ!」
「は? 何って……」
「――あー、横から見ると特殊な体勢に見えなくも無いですね」
「んなわけあるかっ!」
「なんだか良くわかりませんがえっちですっ!」
あとがき
○十七歳外伝、朋也と風子編でした。
先週の雪、今週の冷え込みにほとほと困っていたらこんな話ができあがりました。なんというか、極端に暑いのも寒いのも、困りものですよね。
さて次回は……ことみ、かなぁ?