超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「気になるところで今年の分終わっちゃったね、アニメの方」
「まぁ、里帰りとかで見られなく人もいるからな。仕方ないだろ」













































  

  


 夜道をひとり、彼女は歩く。
 辺りは街灯以外に明かりは無く、物音ひとつしない。
 高級住宅街の一角である。
 夕方であればまだ、帰宅途中の学生やサラリーマンでそこそこ賑わうだろう。だが深夜ともなると話は別で、彼女以外には人ひとり居なかった。
 風はかなり冷たく、寒い。
 まだ、近所の明かりでも見れば気が紛れたかもしれないが、今年は久々に海外旅行のブームが押し寄せていて、彼女のご近所一帯が、悉くこの町を離れていた。下手をすれば、ゴーストタウンと間違われてもおかしくない光景である。
 そんな中、彼女は自宅の前にたどり着いた。
 コートのポケットから鍵を取り出し玄関を開け、居間に入り明かりを点ける。
 明るすぎる必要はない。広い家だが、住んでいるのはひとりだけなのだから照明は必要最低限あればよく、そのポリシー故居間にはフロアスタンドをひとつだけぽつんと突っ立たせている。
 いま、そのフロアスタンドは頼りない明かりで室内を照らしていた。部屋の隅まで光が届かないため、その広い居間は球形の部屋に見える。
 ――もしくは、弱いスポットライトを当てた舞台のようにも。
 そんな居間の何処へと無しに、彼女はひとり呟いた。
「ただいま」
 当然のことながら、返事はない。



『明かりを、灯して』



■ ■ ■



 12月25日というと、わたし達岡崎家では結構忙しい日だったりする。
「そっちの準備はどうだ?」
「ん、飲み物食べ物参加費用、すべておっけー」
「ならば良し」
 何でかというと、25日は皆でわいわいと騒ぐ日。これはずっと変わっていない、他の家とはちょっと違うわたし達の年中行事なのだ。
 あ、前日は話は別。いつの頃からか忘れてしまったけど、12月24日はお母さんの誕生日をふたりだけで祝うことにしている。
「これ、参加者リストな」
「ありがと。チェックしておくね」
 さっと目録を見る。
 ……ん?
 誰か、ひとり足らないような。
「どうした、汐」
「うん、ちょっと――」
 喉元に引っ掛かった違和感を説明しようとした時、誰かが玄関のドアを叩いた。
「岡崎居る? もちろん汐ちゃんも」
 続いて、聞き覚えのある声が響いてくる。
「揃ってますけど――珍しいですね、春原のおじさま」
 玄関のドアを開けつつ、わたしはそう言った。
 何を売っているのは知らないけど、春原のおじさまは営業をもう随分と長く続けて来ているらしい。
 だからクリスマスはかきいれ時だということで、春原のおじさまは参加出来なかったり、出来たとしても夜遅くの二次会、三次会のみ出席というのがざらだったからだ。
 なのに、今は午後の昼下がり。ここまで早かったのは、ここ数年無いことだった。
「お休み、取れたんですか?」
「取れたんじゃないよ。取ったのさ」
 と、コートを脱ぎながら春原のおじさま。
「大事なことに気付いてね、夜行乗り継いでここまで来たんだ。まったく、これじゃ友達失格だよ」
 ……え?
 誰の、と訊こうとしたところで、わたしは気付いた。
 おじさまの言う友達とは、誰か。
 誰が、参加者リストに居ないのか。
「あ、そうか」
「そう。そうなんだよ」
 思わず手の平を打つわたしに、春原のおじさまが頷いて答える。
 以前、春原のおじさまはとてつもない偶然を経てある人とお見合いをしたことがある。
 もちろん――という言い方は失礼だけど――その話は流れたのだけど(でないと今頃その人の名字が春原になっている)、友達にはなったのであった。
 なんでそんなことをわたしが知っているのかというと、出歯亀していたからなのだけれど。
「なぁ、何がそうなんだ?」
 まだ気付いていないのだろう。怪訝な貌をして、おとーさんがそう訊いた。
「……岡崎ってさ、肝心な時に鈍いよね」
「あー、娘のわたしでもそう思います」
「悪かったな……、で、何だって言うんだよ」
 だから……と言いかける春原のおじさまを遮って、わたしは後を強引に引き継いだ。
「おとーさんには、わたしが居るよね」
「お、おう」
 いきなりだったので少しびっくりしてしまったようだが、おとーさんはちゃんと頷いてくれる。
「ふぅさんには、公子さんや芳野さん。
 藤林先生には、ボタンや椋さん。
 その椋さんには柊のおじさま。
 坂上師匠には弟の鷹文さん。
 カフェ『ゆきねぇ』の店長さんには常連客のみんな。
 古河夫妻は言わずもがな。
 そして、春原のおじさまには芽衣さん。
 他にもわたし達の周りに居る人は、みんな誰かを支えて、支えられているよね。
 でもね、おとーさん。ひとりだけ、側に居てくれる人が居ないの。
 それが誰だか、わかる?」
 コートを持ったまま、春原のおじさまが腕組みをした。おとーさんはというと、今言われた人達の顔を順繰りに思い浮かべて居たのか、少しだけ間を取った後、
「――それって……あいつのことか」
 良かった。気付いてくれた。わたしと春原のおじさまは同時に頷く。
「……参ったな。今から連絡して、間に合うか?」
「間に合うか、じゃなくて間に合わせなきゃ。そのために春原のおじさまも急いでここに来てくれたんだから」
「ああ、そうだな。それにしても――汐、よく気が付いた」
 そう言って、おとーさんはその大きな手でわたしの頭を撫でてくれた。
「早速だが、いますぐあいつと連絡をとってくれ。春原は関係者各位に連絡。今年はちょっと趣向を変えるってな」
「うん」
「了解。で、岡崎は?」
「俺はちょっと、色々と用意してくる。……上手く、いくようにな」
 わたしとおじさまは、頷いてそれに答える。
「それじゃあ、始めよう」
 三人の拳が、がっちりと打ち合わさった。



■ ■ ■



 クリスマスに講義というのは、あまり受けがよろしくないようだ。と、彼女は思った。
 今の彼女は、客員教授という身分である。
 もっとも、公的な場では所有している学位のため博士と呼ばれることが多く、そしてそれ故本来居た海の向こうの研究室より招聘され、こうして教壇に立つことになったのであった。
 それがたまたま自宅に近かったため、彼女には非常に好ましい選択ではあった。
 ではあったが、若手ながら物理学の権威だのなんだの余計な二つ名が聞いているせいか、客員教授という制約――ゼミは持てず、研究室だって名前通りのものではなく講義の資料置き場と言った感じ――が結構窮屈に感じるのも事実である。
 それに輪をかけて、今日の講義は本当に不味かった。
 学校側が気を利かせ過ぎたのか、必修扱いにしてしまったのである。
 それ故真面目に聞いているのはほんの一握りで、後は今夜の予定がどうのと話し合う――のはまだ良い方で、最初から最後まで携帯と睨めっこしている者や完全に寝ている者もいた。
 ……必修なんて程のものじゃないのに。彼女はそう思う。自分が両親から継承し、そこから新しい理論を打ち立て、培って来たものは万人向けのものではない。それは良くわかっているのだ。
 だから、できれば少数の生徒、それも彼女の研究内容を学びたい者と彼女は語り合いたかった。それそのものが、新たな論理の飛躍に進んで行くのだと知っているためである。
 年が明けたら、そう言った講義形態にしてもらおう。彼女はそう思いながら帰途を歩んでいった。



■ ■ ■



「へ? 既に帰宅された?」
 大学からそんな返事を聞いて、わたしの目が点になった。
「わかりました。ありがとうございます……」
 慌てて電話を切って、会社から重そうに大きな段ボールを抱えて戻って来たおとーさんに声をかける。
「どうしよう、もう帰っちゃったって。携帯持っていなかったはずだから連絡取れないけど……」
「帰宅したのはついさっきなんだろ」
 と、おとーさん。
「行こう、皆で。作戦は道中考えよう。春原、そっちはどうだ?」
「集合かけ終わったよ。皆ここに集まるってさ。――へへっ、何か昔を思い出すねぇ」
 携帯電話を畳みながら、すごく楽しそうに春原のおじさまがそう言う。



■ ■ ■



 今日も、辺りに人はいなかった。
 昨日よりかは、若干早目の帰宅である。
 けれども今日はクリスマスで、それ故――なのだろう。たぶん――人の気配はちっとも無かった。
 真っ暗な中、玄関のドアを開ける。


■ ■ ■



「何か学生時代に戻ったみたいね」
 皆でぞろぞろと歩く中、うきうきとした感じで藤林先生がそう言った。
「そうだな。皆で何かをするというのは――久方ぶりだ」
 と、師匠が答える。
「で、朋也。これはなんだ?」
「ああ、俺達が学生だった頃、この時期イルミネーション流行っただろ」
 すぐさま頷く、藤林先生と、師匠。わたしは少し、蚊帳の外気味だ。
「古いやつが廃棄直前でこっちに転がり込んでな、勿体ないからそれをちょっといじってみたんだ。ばらばらにして、一個ずつ電池で光るようにな」
「なるほど、だからひとり一個なんだな」
 納得したように、師匠が頷く。
「作ったはいいんだが、使い道に困っていたんだ。でもこれなら行けるだろうと思ってな」
「クリスマスに百鬼夜行ですか。なかなか趣があります」
 と、横からふぅさん。
「その例えはどうかと思うんだけど、ふぅちゃん……」
 少し頭が痛そうに、公子さんがそう言う。



■ ■ ■



 部屋に入り、明かりを点ける。
 いつ頃からだろうか。ひとりで居ると妙に寒さに敏感になった。
 昔から――そう、本当に昔からひとりで居ることには慣れているはずなのに、ここ最近妙に辛いときがある。
 それは……あの子に出会い、彼と再会してからだ。
 その後加速的に彼女の周りには知り合いが出来て――そしてひとりで居ることに苦痛を感じ始めた。
 それがどうしてか、彼女にはわからない。



■ ■ ■



「しまった、先に着いていたか……」
 家に灯る微かな明かりを見て、困った様子でおとーさんが呟く。
「どうする?」
 すぐ隣にいたわたしがそう訊くと、おとーさんは少しだけ考えて、
「庭に入ろう。――おっと、その前にオッサンは戻ってきたか」
「呼んだか? 小僧」
 わたしたちから離れていた、あっきーが待ったましたとばかりにこちらに戻ってきた。
「どうだった?」
「俺らにとって好都合な状態だ。ざっと調べてきたが、この近辺に人はいねぇ」
「あぁ、やっぱりそうか」
 あっきーの報告に、芳野さんがそう答え、おとーさんもわかっていたかのように頷く。
「なんだよ、最初から知ってやがったのか」
「こちとら町そのものが仕事場だからな。此処一帯の仕事が無くなればそういうことなんじゃないかと想像が付く。でも、裏は取っておきたかったんだ。これで心おきなく――やりたいこと、できるだろ?」
「なるほどな――ふはは」
「……ふふ」
「――へへっ」
 男性陣が一斉に、にやりと笑った。
「いいけど……これ不法侵入にならない?」
 藤林先生がわたしにそう訊く。
「大丈夫ですよ。わたしもおとーさんも、入るときはここからって決めて居るんです」
 と、わたし。そこへおとーさんの声が響く。
「みんな聞いてくれ。周辺の人家に影響は無し。作戦決行!」



■ ■ ■



 荷物を適当において、そっと呟いてみる。
「……ただいま」
 当たり前のことだが、今夜も返事は無い。
 当たり前のことなのに、ため息が出てしまう。
 けれど、それに答えるように、庭で何かが光った。
 隣家の明かりだろうか。そう思った時、その明かりが、次々と増えていく。
 光っているのは、庭からだ。
 そう判断したとき、彼女は反射的に庭へのガラス戸を開けていた。
 ……まさか。
「今晩は、ことみ」
 彼女は――、一ノ瀬ことみは、息を飲んだ。その、まさかだったのだ。
 目の前に、明かりを手にした岡崎朋也が立っている。
「朋也……くん。汐ちゃんに春原さん。それに……みんなも」
 そして朋也の右には彼の娘である汐、そして左には春原陽平が居る。奥には、既にことみにとって顔見知りといえる面々が揃っていた。
「アポ無しで悪かった」
「ううん、そんなこと……そんなこと、ないの」
 慌ててサンダルを履き、庭に降りる。不思議なことに、コートを既に脱いでいたのにも関わらず、寒さは感じなかった。
「メリー・クリスマス」
 朋也が、そう言う。
「メリー・クリスマス」
 ことみが、そう答えた。
 まるでふたりのその声を待っていたように、大歓声が巻き起こる。
 そんな中、クラッカーを片っ端から鳴らしつつ辺りを駆け回っていた風子がふと足を止めた。
「ふぅちゃん?」
 止めようと追っかけていた公子が、その表情に気付いて声をかける。
「今、誰かが屋根の上に居ました」
「屋根?」
 公子が見上げるが、誰も居るようには見えない。
「誰も居ないみたいだけど……」
「風子の気のせいかもしれません。もしくは、風子にしか見えなかったのかもしれないです」
 星形のイルミネーションを胸に抱きつつ、風子はそう言った。



□ □ □



 風子の気のせいでは無かった。
 一ノ瀬邸の屋根には、制服姿の少女が確かに居たのである。
 彼女は庭を包む明かりにほっとしたように息を吐くと、静かに星空を見上げたて、こう呟いたのであった。
「メリー・クリスマス、です。皆さん」



Fin.




あとがきはこちら













































「では、新しい芸を披露します『がちょーん』」
「ぎゃ、逆行しているぞお前……」




































あとがき



 ○十七歳外伝、クリスマス編でした。
 四日遅れです; 既に街には門松が立ってます; それでもまぁ、どうにか滑り込みで今年には間に合いました。流石に新年まで遅れていたら……気不味いでは済まなかったです。
 それでは、良いお年を〜。

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