超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「テレビ版のOPで杏があれだけ揺れているんだ、渚のあの格好にも期待したっていいよなっ」
「それは恥ずかし過ぎですっ!」













































  

  


「あれ?」
 冬も本格的になった十一月、わたし岡崎汐は冬服の整理をしていて随分と華やかな服を見つけた。
 普段はまず着ない、そのパステルカラーの服は――本当にまず着ないものだった。
 それは、ファミリーレストランの制服だったのだ。
「おお? おーおーおー」
 わたしのすぐ側――ちゃぶ台の近く――で、お茶を飲んでいたおとーさんが懐かしいものを見たというように歓声を上げる。
「渚のだな」
「やっぱり」
 話には聞いている。お母さんはおとーさんと一緒になってから、わたしを身籠もるまでファミリーレストランで働いていたことがあったのだ。
「返却しなきゃね」
「え……」
 すごく嫌そうに、おとーさん。
「とっといても、別に罰は当たらんだろう」
「駄目よ。こういうのは所謂支給品だもん」
 演劇部で色々な衣装を着ているからよくわかるのだが、この制服の布地は、かなり良い。買えば相当なお値段になるはずだった。
「でもこの服は――」
 うん、わかる。お母さんが働いていた時の唯一の服だって――。
「渚が着ていた唯一の、公然と胸の谷間が拝める服だったんだ……」
 返してー。わたしの感傷返してー。
「じゃあ、返却ね」
 もう、迷う理由は無い。
「む」
「返却・ね」
「う」
「返・却・ね」
「ぐ」
「へ・ん・きゃ・く・ね?」
「……はい」
 目尻に涙を浮かべて頷くおとーさんだった。
「なぁ、せめて一辺着てみないか?」
「着ーまーせーん」
「ちぇっ!」
 あ、かなり本気にで残念がってる。



『ウェイトレス服を着たいと思ったあの日の夏イントーキョー』



 昔はただの山道だったんだと、おとーさんは言っていた。
 そして渚が働くちょっと前に開発されたんだ、とも言っていた。
 それが今、ちょっとしたアーケードみたいになっていた。
 反対側にも左右隣りも色々なお店が並び立ち、小さな町の駅前ぐらいの規模になっている。
 もっとも、わたしが知っている風景はそこからだったので、この辺りの変化に対する感慨は無く、ただただ昔の風景を想像して胸を膨らませているだけだった。
 お母さんの働いていたレストランは、盛況のようであった。入り口に寄って見ると、結構人が出入りしている。
「さてと……」
 裏口を探し、そこから入る。表から入って制服を渡したら、店内のお客さんが一体何事かと思うからだ。
「済みません、何方か――」
 全部言い切る前に、奥から女の人が姿を現した。わたし程ではないけど長めの黒髪に、フレームのない眼鏡が知的な印象を持たせている。
 ただ、今わたしが抱えている紙袋の中身と同じ此処の制服を見に包んでいるせいか、少しばかりちぐはぐな印象があった。
 何と言えばいいのか、役に入りきれていない感じ? 等とわたしが演劇部的思考に陥った直後、女性は口を開いて、
「岡崎さんね?」
 へ?
「いえ違います、わたしは――岡崎ではあるんですけど――」
 慌てて持っていた制服を見せて、返却の意志をアピールする。けれども、それは完全に裏目に出た。
「どっちでもいいわ、制服まで持っているなら好都合。早く着替えて!」
「え、え、え!?」
「今社員とアルバイトがひとりずつ風邪で倒れて、てんてこ舞いなのよ。だから早くっ!」
「そんな、だって!」
「問答無用! 店長権限よ!」
 そんな権限、聞いたこと無い。聞いたこと無いけど、それ以上有無を言わさせず、わたしは更衣室に放り込まれた。
「……むぅ」
 制服を抱えたまま、小さく唸る。
 けれど、状況は好転しない。
「やるしか、ないか」
 わたしは覚悟を決めて、上着のボタンに手をかけた。
 けれど、ひとつだけ問題がある。
 あまり大きな声で言えないのだが、お母さんの服は今、どれも大抵胸回りがきついのだ。
「ぴっちぴちになったらどうしよう……」
 胸の形が出やすいデザインだからきついなら借りるなり何なりしないと――と思いながら袖を通してみると、
「あれ?」
 何故か誂えたようにぴったりだった。
「んー?」
 首を傾げつつ準備を整え、外に出ると、待ち構えていた女性――恐らく店長――が開口一番、
「まずは裏方回り!」
「は、はいっ」
 即座に厨房とカウンターの間という狭いスペースに配属される、わたし。
 そしてすぐさま、店長の言っていたてんてこ舞いな目にあった。
 次々と渡されてくる下げられたお皿を洗い場に回し、厨房から回ってきた料理と次々とカウンターに並べて行く。
 それは、前にちょっとした事情で手伝った学食のお手伝いの比では無かった。
「そっちは落ち着いたわ。オーダーに回って!」
 カウンターから顔を出して店長の指示が飛ぶ。
「はいっ!」
 さっきまではひたすら体力勝負だった。今度はそれに頭脳労働が加わるのだ。つまり記憶力やらマナーやらが、一斉に試されることになる。
「お飲み物は食前になさいますか? 食後になさいますか?」
「オーダー入ります。パンプキングラタンふたつ、お子様ランチひとつ、鳥かつセットひとつです!」
「地鶏の霙煮、メキシカンピラフ、それにエビフライセット。五番のお客様へ!」
「了解、地鶏の霙煮、メキシカンピラフ、エビフライセットを五番のお客様ですね」
「山かけ焼き鳥丼、ご飯大盛りで!」
「了解。こちらネギトロ丼上がりました。十二番にお願いします!」
「ネギトロ丼十二番ですね。わたしが行きます!」
 注文に使う端末を最初はおっかなびっくりでいじっていたが、携帯電話やPDAとあまり操作が変わらないとわかると、そこからは随分とスマートに事が運び、
「済みません、八番テーブルお願いします」
「わかりましたっ」
 気か付けば、わたしを指名されて頼まれるくらいになっていた。



■ ■ ■



「お先に失礼しますー」
「お疲れさまでーす」
 そんな声が奥からかすかに響いてきた。どうやら、シフトが変わったらしい。
「貴方ももう良いわよ」
 ある時はわたしと一緒に注文を取っては料理を運び、ある時は料理の出し入れを、さらにはエプロンを着込んで厨房のサポートと明らかにわたしより忙しかったはずの店長が、けろりとした様子でわたしにそう声をかけた。
「わ、わかりましたー」
 すぐさま更衣室に向かい、それでも疲れのためすぐには着替えず備え付きのソファーに崩れ落ちるように座る。
「ふぅ……」
 正直、ウェイトレスという職業を甘く見ていた。まさか此処まで全身をフルに駆使するお仕事だとは思っていなかったのだ。
「お疲れさま」
 店長が顔を出してそう言った。手にはマグカップがあって、それをそっとわたしに差し出す。
「少し、煮詰まっちゃってるけど」
 中身は、ドリンクバーのサーバーに入っていたコーヒーだった。
「ありがとうございます」
 わたしは一礼してそっと口を付ける。少し香りが飛んでいたが、代わりに強くなった苦みが、逆に心地よい。
 そこで、当初の目的を思い出した。
「あ、制服返さないと――」
「いいわ、それはあげる。バイト代も兼ねてね」
「え、でも……」
「実はね、近々制服のリニューアルを行うの。だから返却されても廃棄に手間取るだけなのよ」
 内容は事務的であったが、優しげな声で、店長。
「だから、持って帰って頂戴」
「はい、そういうことでしたら」
 いささか不純だったおとーさんも喜ぶ話だった。
 ――正直に言えば、わたしもこの服を手元に置いておきたかった、というのもある。
「さてと、本来は先に訊くべきだったことを訊くわ」
 わたしの隣りに座って、店長がそう言った。心なしか、口調が少し変わっている。
「岡崎さんの、娘さんね?」
 はい、とわたしは頷く。見ず知らずの人に一目見られて岡崎さんと訊かれたのだ。それはすなわち、私をお母さんと見間違えたことになる。
「そっか……もうこんなに大きくなったのね。私も年を取る訳だわ」
「あの、母のことを――」
「うん、知ってる。出産・育児休暇だったのが退職扱いになった時、私もお店に居合わせていたから。同期だったのよ、私達」
「そう、ですか……」
 あれから随分と立つはずの此処で、お母さんと同期の人が居るとは思わなかった。
「本当、助かったわ。貴方も、貴方のお母さんにも」
 眼鏡をかけ直して、店長はそんなことを言う。
「……岡崎さんね、ものすごくてきぱきしてた。あの頃の私は入社したての新入社員で、岡崎さんと同じウェイトレスだったけど、岡崎さんは研修をみっちり受けている私より何倍も機敏に動けてね。それでアルバイトで入りたてって言うんだもの、吃驚しちゃったわ」
「そうだったんですか――」
 自然と、目が細まってしまう。わたし自身のことじゃ無いけれど、お母さんが褒められるということは、純粋に嬉しい。
「貴方、家事得意でしょう?」
「は、はぁ、まぁ」
 急に飛んできたその質問に、曖昧気味に答えてしまうわたし。実は、あまり意識したことが無い。すぐ側に早苗さん、ちょっと視野を広げても、藤林先生、坂上師匠、それにことみちゃんと家事に堪能な人がわんさかと居るのでどちらかというとまだまだ修行不足だと感じて居ることが多いのだ。
「私はね、家事が苦手だったの。正確には、疎ましく思っていた――かな? 生きて行く上で非効率なものだ自分でやる必要は無いはずだ、家事なんて無ければもっとずっと効率的に働けるはずだって。でもね、ある時岡崎さんにどうしてそんなに効率的に動けるのか訊いた時、予想外の答えを聞かされて目から鱗だったわ。
『普段から、家事を手伝ってますので……』
 ですって。その時思ったの。どんなことでも、どこかで何かに繋がっているんだってね。おおげさかもしれないけど、その時は本当にそう思ったのよ」
 その時を思い出しているのか、何処か遠い目で店長は続ける。
「それから、自分の視野を広くしようと注意を払ってきたわ。岡崎さんが休みを取って――そして来られなくなってからは尚更ね。そうしたら……ふと気付いた時、此処のお店を任されていたの」
 嬉しそうに、微笑みを浮かべる店長の横顔を見つめて、わたしは感嘆の息を吐く。
 恐らく、お母さんのその一言は相手にアドバイスしようとかそう思って出た言葉ではなくて、自然と出たものなのだ。だけど、その一言が当時ウェイトレスだった店長を今の店長へと導いたのだ。
 どこまでもすごい、お母さんだった。
「だからね、一言お礼を言いたかった。『ありがとう』って。もし良かったら、今度のお墓参りの時にでも、伝えてもらえるかしら。あの時の貴方の同僚は、今でも頑張っていますって」
 背筋を伸ばして、わたしは答える。
「……はい、必ず」
「ありがとう。――ふふ、こうして見ると、お母さんよりずっと凛々しく見えるのね。それでいて芯は一緒。暖かいものを持っている。……ねぇ、もしよかったら本当にうちでアルバイトしてみない?」
 それは、ちょっとした誘惑だった。
「今はやることがあるんで難しいです。でも、考えておきます。大きな休みとかだけで良ければ」
「うん、それでも大歓迎よ。――待ってるわね」



■ ■ ■



 レストランに入った時は昼過ぎだったのだが、出る時にはすっかり夜になっていた。
「うわ、寒っ」
 思わずそう呟いてやや駆け足で帰ろうとした時――、
「よっ、お疲れ」
 突然後からかけられたその声に、わたしは仰天してしまった。
「お、おとーさん!?」
 振り向いてそう言うと、
「おう」
 かけていたサングラスを額に上げて、おとーさんはにやりと笑う。
「帰りが遅いから気になって行ってみたんだ。びっくりしたぞ、お前が働いているんだから。で、ついでなんで、お前の頑張る姿を見ていた」
 み、見ていたって――。
「……しまった。待ち合いボード書いてあったノジー・マッケンジーって名前、おとーさんだったのね」
「大当たりだ」
 当たりも何も、おとーさんの使う偽名はそれしかない。忙しかったのでわたしが担当したお客さん以外の貌をじっくり見ていなかったとは言え、気付くべきだった。
「ほい、頑張った御褒美だ」
 そう言って渡されたのは、缶コーヒーだった。
「ありがとう、おとーさん」
 プルタブを早速引き上げる。本日二杯目のコーヒーは甘くて、
「……あったかい」
「そいつは、なにより」
 片目を瞑り、おとーさん。
「で、どういった経緯であんなに頑張っていたんだ?」
「ん、それはね――」
 大きく息を吸って、わたしはこれまでの経緯を話し出す。お母さんを巡る、ちょっとしたお話を。
 そんな賑やかな帰り道、お互いの吐く息が、ただただ白かった。



Fin.




あとがきはこちら













































「しかしすげえ谷間だったな」
「ちぇすとー!」




































あとがき



 ○十七歳外伝、ウェイトレス編でした。
 前に渚にメイド服を着せたので、○には何を着せようかと思った時、脳裏に浮かんだのが、ウェイトレス姿の渚だったので即決でこういう話になりました。
 しかし即決でこうなったものの……未だに○にもメイド服を着せたかったりw。
 さて次回は……未定です;

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