超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「『にはは、ぶいっ!』」
「いや、お前、幾ら似た声出せるからってそれは……」













































  

  


「なんなんだ、この状況……」
 ちゃぶ台に座りながら、俺、岡崎朋也は呟いた。
 俺の目の前には、ちゃぶ台を挟んで男子生徒が三人座っている。
 どれも、汐と同じ学校の生徒だ。それは間違いない。
 それは間違いないが――全員が、頭に紙袋を被っていた。



『検証、岡崎さんちの……』



「息苦しくないか? それ」
 重苦しい雰囲気の中、たっぷり三分はあった沈黙を破って、俺はそう言ってみた。
「はぁ、まぁ若干は」
 一番右にいた男子生徒が、ぽつりと答える。
 こんなのが三人も並んだ時点で俺はすぐさま玄関を閉めようとしたのだが、汐のことについて重要な話があるというので仕方なく中に入れたのだ。
 ちなみに、既に後悔している。
「で、お前達は汐の一体何なんだ」
「ええとまぁ、校内では新聞部と呼ばれております……」
 今度は一番左の男子がそう答え、頭の後ろを掻こうとして紙袋にぶちあたり、すごすごと手を引っ込めた。
「なんだ、新聞部か。最初からそういえばいいのに」
 自然と、楽な姿勢になる俺。
「へ、排除なされないので?」
 些か拍子抜けしたような声で、左側(面倒臭いのでそう呼んでしまおう)。
「まぁ、前に世話になったしな」
 それなりに昔の話だが、どういった理由か知らないが汐と智代が対決したことがある。その際新聞部はスクープ記事として一面にでかでかとその記事を載せて構内に配りまくり――どういった経緯かは知らないが、オッサンの手に何部か渡って、最終的に俺の処にまで来たことがあったのだ。
 ちなみに、一面扱いになっていたのは多分汐がハイキックを仕掛けた瞬間を撮ったためであり、そのため随分とあられもない写真が一葉掲載された訳だが、それはそれで置いておく。
「その紙袋も、大方俺に顔を覚えられたくないってとこだろ?」
「流石っすね。その通りです」
 と、左側が言った。差詰、俺経由で汐に反撃を食らいたくないといったところか。……汐がそんなことをする訳がないのだが。
「で、汐のについての話って何だ?」
 と、俺。すると、右側と左側が黙って半身分下がり、
「……単刀直入に申し上げましょう」
 それまで黙っていた中央の紙袋が、重々しく口を開いた。
 おそらく部長なのだろう。他のふたりに比べ、紙袋が一際大きい。
「新聞部の平和のため、ひいては校内の平和のため――岡崎汐の弱点を教えていただきたい」
 ふむ、学校の平和のために、汐の……、
「なんだそりゃ」
 俺は些か呆れた貌で、三つの紙袋を眺めた。
「ですから、我らにとって脅威以外の何物でもない岡崎汐の弱点です」
 いや、そんなこと言われても。
「……答えられない理由が、ふたつある」
 腕組みをしながら、俺はそう言った。
「ひとつ、汐の弱点を突くことが校内の平和にどう繋がるのかがわからない。ふたつは――訊く相手が間違っていると、思わないのか?」
「あー、言いたいことはわかります」
 困ったように左側が言う。どうもその声音には、あまり乗り気でない雰囲気が感じられた。
「父親が娘の弱点を教えるなんて事はありえないって。なんですけど、現時点で岡崎の影響力は急激に拡大中なんですよ」
「何でまた」
 しかも、意味がよくわからない。
「以前は平の演劇部員だったからいいんですけど、演劇部の部長に就任したじゃないですか。それ故部活動運営委員会とかに発言力を持つようになって――しかも生徒会と直接交渉できるポストに就任しちゃったんですよ」
「聞くだけだとなんかすげえな」
「実際すげえんです。なんせポストは部活動運営委員会会長――各部活の代表ですからね」
 むぅ……と思わず唸ってしまった。
 俺の周囲で、そんなことまでしてるやつは居なかった。強いて言えば生徒会長にまで上り詰めた智代が居るが、その頃から俺は渚の看病などで智代とは疎遠になっていたし、活動そのものに関しては正反対の事しかしていない、完全なアウトローだったからだ。
 なのに、今の汐は各部活をまとめる立場に居るという。
「それ故に」
 再び真ん中が重々しく口を開いた。
「今の岡崎汐が本気になれば、我々新聞部の行動を制限、場合によっては活動停止に追い込むこともできるのです」
「うちの娘は、個人的理由でそういう風に権力を使わないと思うがな」
「俺もそう思いますけどね」
「柴田――もとい司馬イ君! それ以上憶測でものを語るべきではない」
 名前を隠すつもりだったのか、ものすごい誤魔化し方で真ん中が左側を叱責する。
「はぁ、済みません――」
 どうも、新聞部は一枚岩ではないようであった。
「仲良くしたらどうだ? うちの娘と」
 何というか、高校生に言う台詞ではないような気がしたが、おれはそう提案してやる。
「いやそれは、我々の活動方針とは異なる道でして――」
「というと」
「こちらを」
 そう言って真ん中が右側に指示し、大きめの封筒をちゃぶ台の上に置かせた。
「ご覧ください」
 そう勧められて、俺は封筒に手を伸ばし、その中身を見る。
 すべて、校内で撮影されたピンナップであった。被写体はすべて、汐になっている。
 これは無頓着に廊下を走っているところだろう。
 こっちは、誰かを蹴り飛ばしているようだ。微妙に背景がぶれていて、汐本人がぶれていないところを見ると――蹴られているのは、撮影者なのかもしれない。
 どれもこれも……その、なんだ、ちらっと見えていた。
「見事だ。着替えや体育の授業、並びに部活動の盗撮ではなく、日常の写真だって事が良くわかる」
「恐れ入ります……」
 と、真ん中。
「結構色んな柄持っているんだなぁ。あいつ」
「おや、お父上が知らないとはあれですか、洗濯物を分けられてしまうという……」
「いや、それはない。むしろ堂々と俺のパンツを物干しに吊るしたりするぞ。……流石にその反対は恥ずかしがられるが」
「極めて一般的ですな」
「あぁ、そうなのか」
 そんなわけで、洗濯物を洗濯機にセットして洗うのは俺、干すのは汐と、通常は分業している。
「そうですよ。最近の女子ときたら父親は愚か兄にまで――あいや、話が逸れました。岡崎汐のお父上、これらのピンナップが権力によって差し押さえられましたら――いかが致します?」
 そ、それは……。
「少し、困るな」
 頬を人差し指で掻きつつ、俺。途端、縦に積み重ねただんご大家族の縫いぐるみが崩れたので、慎重に積み重ね直す。
「実はですね、困ったというか何というか、うちらの新聞、男子には滅法人気有るんですよ」
 と、左側が手伝いつつ補足した。
「ほら、これもうちの統計ですが――彼女にしたいランキングと、彼女にするのが難しいランキング堂々一位なんです。お宅の娘さん」
「マジか」
 あわてて目をこらしてみると、マジだった。
 それぞれ2位と接戦だったが、その2位以下の顔触れが違う。
「こいつら全員の鼻をスパナで回すのか……ちと厄介だな」
「いやいや、止めましょうよそういうの」
 それが難しいランクを上げている一因なんですって。と呆れたように、左側。
「とにかく、これでおわかりになられましたか。今からでも、岡崎汐を牽制しなければ、これらの素晴らしいピンナップは撮れなくなってしまうのです」
 と、真ん中が力説した。
「それ故の、弱点か」
「その通りです。こう、あの岡崎汐が可愛らしく悲鳴を上げるようなものをですな――」
「そんなもんがあるなら俺が訊きたいよ」
 つうか見てみたい。汐が可愛らしく悲鳴を上げる――そんなシチュエーションは全く想像できなかったが。
「んじゃ、苦手な食べ物とかあります?」
 と、左側。
「そうだなぁ……胡椒、かな」
「胡椒!」
「意外とシンプルなものが出ましたねぇ」
「ちなみに五歳の時の話な」
 だぁと、新聞部員達は一斉に引っ繰り返った。
「つうか、五歳の子供に胡椒食べさせたんですかい」
 左側が呆れたようにそう言った。
「――御免なさい」
 まじであの時の俺は配慮が足らなかったと思います。
「そうだ、オーソドックスに毛虫などいかがでせう」
 と、今度は右側。
「子供の頃、綺麗だからって手の上に載せて見せに来てくれたぞ」
 そして毒針が刺さって湿疹が出来、病院で看護師の藤林に俺が怒られた。
「では、暗くてじめじめしたところを好む、黒くてすばしっこいアレは――」
「全くもって無頓着に攻略出来るぞ」
 俺でさえ引くことがあるというのに。
「うーん……」
 全員で唸っている、紙袋新聞部。
「やはり岡崎は無敵か……」
「岡崎ですからねぇ」
 いや、岡崎岡崎って。
「――俺も岡崎なんだが」
「……! そうか、親子揃って駄目な物があるかもしれん! お父上、苦手なものはありましょうか!」
「汐の涙」
「無理だーっ!」
 一斉に吼える、新聞部。まぁ俺も、ここ最近見ていない。
「本当に、本当に無いのですかお父上! このままでは岡崎汐は完璧超人になってしまいますよ!」
「あ、いいなそれ」
「まぁ、なんらかの事情でいじめられるよりずっと良いですわな」
「しば――司馬イ君!?」
 喧々諤々となりかける新聞部を、俺は手で制した。
「ひとつ、思い出したんだが」
 それだけで、ぴたりと騒ぎは治まった。一枚岩ではないが、統率だけは取れているのかもしれない。
「強いて言うなら、五歳のころから早苗さんのパンを避ける傾向にあるなぁ……」
「古河パンで、いつも売れ残るあのパンですか」
「なるほど、アレならばっ!」
 真ん中の紙袋が、意味も無く立ち上がる。
「こうしてはおれん、総員、直ちに古河パンに赴き、そのパンをすべて確保するのだっ! お父上、お話は大変参考になりました。お礼はまたいずれっ!」
 そう言って、右側をお供にそそくさと玄関に向かう。やや遅れて左側もそれに従おうとしたが、静かに俺に寄ると小声で、
「いつか、万一岡崎が振りかざしたら、力添えお願いします」
「あぁ、んなこたぁないけどな。特にお前が部長にでもなれば」
「はは……」
 困ったように笑う、左側。
「なにをしている。行くぞ! 総員行軍開始!」
 真ん中の号令で、三人の紙袋新聞部は急ぎ足で帰っていった。
 ――早苗さんのパンを勇んで買いに行くのは良いが……どうやって汐に食べさせるつもりなのだろうか。
 買ったは買ったで、大いに悩みまくりそうな気がする。そこでまた、さっきみたいに終わりの無い論戦を繰り広げていたら――いつまで経ったって汐には敵わないだろう。
 そんなことを思いながら、ちゃぶ台の上に用意していた四つの湯飲みを片付けていると――、
「ただいまー」
 今まで話題の的だった汐が帰ってきた。
「お帰り」
「何か今、紙袋を被ったうちの生徒とすれ違ったんだけど」
「紙袋同好会だ。今年の文化祭についてご近所にアンケートだと」
「ふーん……」
 釈然としていない我が娘であった。
「にしても帰り、遅かったな」
「うん。部活動の運営委員会で遅くなっちゃって」
「お前が代表なんだって?」
「うん、そうだけど……どこで知ったの?」
「いや、うわさを小耳に挟んでな。就任、おめでとう」
「あ、うん。ありがとう……」
 改めて言われたせいか、少し照れいる。
 そこで俺は、ふと興味を持った。
 新聞部が捜し求めて、俺には全く検討がつかないもの。つまり――。
「そういえばお前、苦手なものってあるか?」
 ものはためしと訊いてみる。すると汐は、
「苦手? うーん……」
 そう言って腕を組み、しばし考え、
「おとーさんの、涙かな?」
「そうか」
 思わず、笑みを浮かべてしまう。
「何? 何かの心理テスト?」
 と、訝しげに訊く汐に、
「まぁ、そんなとこだな」
 と、俺は誤魔化す。
 それにしても、何というかまぁ――、
 父娘だった。



Fin.




あとがきはこちら













































「『世界を、革命する力を!』」
「えええええ……」
「……うん、流石にわたしもこれは無理だと思った」




































あとがき



 ○十七歳外伝、○の弱点を探れ編でした。
 本編、及びムック(いわゆる光坂)を見る限り、○に弱点など存在しないと断言できそうですが――まじめに考察しようとしたらこんな話が出来上がりました。実際にはあの人がらみだと少しばかり困ってしまったりするんじゃないでしょうか。すべて私の推測ですが……。

 さて次回は――未定です;。

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