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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「だんご大家族デスメタルアレンジってどう? 岡崎」
「春原さん駄目ですっ」












































  

  


「こんにちはー」
 夏休みのある日、わたし岡崎汐はおとーさんの職場を訪れていた。
 理由は簡単。おとーさんが、お昼のお弁当を忘れたのである。
「ハーイ」
 事務所の奥から、陽気な声が帰って来る。おとーさんの同僚で、わたしと顔見知りのジョニーさんだ。
「汐サン、今日ハドウシタノ?」



『はじめての、おとどけ』



「フーン、岡崎サンニハ珍シイみすネ」
 事務所にあるキャスター付きの椅子をひとつ勧めて、ジョニーさんはそう言った。
「うん。たまたまわたしが夏休みだから良かったけど」
「ソレモソウネ! アル意味岡崎サンはっぴーヨ」
 と、あくまで陽気にジョニーさん。
「ソレニシテモ、汐サン奇麗ニナッタネ」
「そう?」
「ソウヨ、モウオ嫁ニ行ッテ子供ばんばん産メルヨ!」
「やだっもぅ!」
 ちょっと想像してしまい、思わず軽く背中を叩く。
「ぐほっ。……汐サン、強イ子産ムネ。間違イナイヨ」
 何故か多少苦しそうに、ジョニーさん。
「でも珍しいわね。ジョニーさんだけお留守番なんて」
「留守番ハ持チ回リダカラネ。ヨクアルコトヨクアルコト」
「そうなんだ」
 たまにしか来ないので、正直おとーさんの職場についてはわかっていない事が多かったりする。
「ソウイエバ、ハジメテアッタトキモフタリキリダッタネ」
 ――確かに、そうだった。



■ ■ ■



「こ、こんにちわっ」
 あれは、小学校に上がって初めての夏休みだったと思う。
 ちょうど今のようにお弁当を忘れたおとーさんのために、わたしはまず古河パンであっきーと早苗さんに地図を作ってもらい、単身此処に乗り込んだのであった。もちろん、おとーさんがそこにいるつもりであったためなのだが……。
「スミマセーン! 今作業員出払ッテオリマシテ――アレ? コンナトコロデドウシマシタりとるがーる?」
 それが、ジョニーさんとの出会いであった。そしておそらくそれは、わたしが初めて見た異国の人でもあったのだ。だから当時はまだまだ人見知りする方だったわたしは完全に萎縮してしまい、かといって帰るに帰れず事務所の入り口にしがみついてしまったのである。
「コノ事務所ノ誰ニ用事デス? りとるがーる」
 自分の大きな体躯がわたしを怖がらせると思ったのか、随分と窮屈そうに身体を折り曲げ、ジョニーさんがそう訊いたのだが、
「パパに、おべんとう……」
 わたしはわたしで本当に余裕がなくて、最低限の単語しか出て来なかった。
「フムム、ぱぱ……ぱぱ!? 貴方モシカシテ汐サン?」
 雷のような大きな音で両手を打ち合わせるジョニーさん。もちろん脅すつもりはかけらもなかったはずなのだが、わたしはそれでますます萎縮してしまい、ただただこくこくと頷いて答える。
「岡崎サンカラ聞イテルヨ! 話ノ通リトテモ可愛イネ!」
 何度もおとーさんから話を聞いていたのだろう。ジョニーさんは嬉しそうにそう言った。
「サァサァ、コッチニ座ッテクダサイ。入口ジャ暑イデショウ。モットモ、ワタシノほーむ程ジャ無イケドネ」
 そう言って、ジョニーさんはそっとわたしに近づき――。
「――ひぅっ」
 わたしがあげた小さな悲鳴で、ぴたりとその動きを止めた。
 今思えば、それは完全にわたしが悪かったのだ。だけどジョニーさんは困った貌で、
「ゴメンネ、怖カッタネ」
 そう、謝ってくれた。
 いくら当時でも、今のはわたしが悪いとわかる。
 わたしは首を大きく横に振って、怖くなかったという意味の意思表示をした。けれども、まだ声は出せないし、ジョニーさんの勧める椅子にも座れない。
「フムム、コレハ困ッタネ」
 郷里の子供達とは違ったのだろう。ジョニーさんは腕組みをして真剣に考え込んでいるようであった。だけど、ややあってから軽く喉の調子を整え、
 唄を、歌ってくれた。
 それは事務所内に響く位太く低い声で、わたしが今まで聞いたことも無い言葉だった。
 けれども、不思議と気分が明るくなってくる、そんな唄。
 気が付くと、わたしはジョニーさんの足元でその唄に聞き惚れていた。
「……ほーむノ唄ヨ。目出度イ時ニ歌ウノネ。汐サン、元気出タ?」
 わたしはいちにも無く頷く。
「ソレハ良カッタ。ワタシノほーむデハ――オオ?」
 お礼とばかりに、わたしも歌っていた。曲名はもちろん、『だんご大家族』。
「トッテモあっとほーむナ唄ダネ! ソレニ声ガ綺麗ダヨ。汐サン、貴方イイ歌手ニナルヨ!」
 先程よりも大きな音で両手を打ち鳴らし、ジョニーさんが褒めてくれる。でももうわたしは怖くない。あえて言うならそれは、陽気なタンバリンであったのだ。
「ヨーシ、次ハほーむノ踊リヨ! ヨークミテテネ!」



■ ■ ■



「そうそう、それで俺が帰ってきたら、ふたりで歌いながら踊ってるんだからな。吃驚したよ」
「わ、おとーさん!」
 背後からかかってきた声に、わたしは思わず飛び上がってしまっていた。
「オ帰リナサイ、岡崎サン」
 ジョニーさんが嬉しそうにそう言う。
「汐サンカラ、オ届ケ物ヨ」
「あ、弁当か……悪い悪い」
「そう思うなら、おとーさんも一曲」
 少し悪戯っぽい声でわたしがそう勧めると、
「そうだな――んじゃ久々にだんご大家族歌うか」
 そう言って、おとーさんが喉をさすった。
「それなら伴奏がいるだろう」
「わ、芳野さん!」
 いつの間にか、おとーさんの背後にギターを持った芳野さんがいる。
「イイネ。コウイウノ、ほーむヲ思イ出スヨ!」
 とても嬉しそうに、ジョニーさんが笑い、わたしにウィンクした。
 わたしもウィンクを返して、おとーさんと一緒に全力で歌うべく大きく息を吸う。
 だからその日は夕方になるまで、事務所に音楽は絶えなかった。
 それは、祭囃子と同じくらいわたし達にとって心地良かったのだ。



Fin.




あとがきはこちら













































「んじゃだんご大家族ユーロビート版ってのは」
「おじさま、それ取り合わせ悪いです」




































あとがき



 ○十七歳外伝、夏休みの終わり編でした。
 ○十七歳編がまだ本編であった頃、○がひとこと言っていたことからこの話が生まれました。
 何処だったかは、秘密です^^。
 
 さて次回は、劇場版公開記念ってことでひとつ。


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