超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「何だよ杏。珍しく電話かけてくるなんてさ」
「陽平……あたし今寂しいの。慰めて――くれる?」
「行く行く行くすぐ逝く――っ!」










































  

  


「年末じゃん、急な電話じゃん、僕暇そうな人間じゃん」
 と、春原陽平は早口で呟いた。
「そりゃあ、だいぶ年食ったとは言え、僕だってまだまだ若いのに負けるつもりは無いからね、力仕事ぐらいお手のもんだけど」
 さらに早口で呟く陽平。良く見ると、額には汗が浮いて居る。
「これって僕がしなきゃ、いけないこと?」
 中に何が入って居るのか知らないが、ものすごく重たい段ボールを抱えて、陽平はそう叫んだ。
「黙って運ぶっ!」
「ひいッ」



『藤林家の、大掃除』



 藤林家。その居間には箪笥やら段ボールやら衣類の入った袋などが乱雑に置かれていた。
 網戸、雨戸、それに障子は既に清掃済み、若しくは障子紙の張り替え済みで、後は室内の清掃が済めば完了らしい。
 要するに大掃除である。
 大掃除であったが、現在藤林家の住人は、長女の藤林杏のみであり、そこで一計を案じた彼女は、陽平を召喚したのであった。
「無謀だって気付かなかったわけ? ひとりで大掃除なんてさ」
 と、一階から二階へ杏とふたりで段ボールを運びながら、陽平。
「障子とかの時は、みんな居たのよ。だから室内だけでも出来るかなって思っていたんだけど。そう言う意味では感謝しているわ、陽平」
「へーへー。ま、杏にしちゃ珍しいミスだよね。これは未来永劫僕の記憶に留めておくとする――」
「あ、電話だわ。ちょっとこれ持ってて」
「え? あ、ちょ、ちょっとこれ重いっ!」
 わざとではない。狙って鳴った電話でもなかったがしかし、下側にいた杏は電話を取りに行き、陽平はひとりで段ボールを支える羽目になった。段ボールを降ろそうにもここは階段の真ん中。前に進めず後に下がれず、嫌な汗を掻きながら段ボールを支え続けない限り、陽平にはどうしようもない。
「はいもしもし。あ、椋? 大丈夫よ大丈夫。こっちは元気でやってるわ。え、なに、やっぱり泊まる? いーのいーの気にしなくて。ゆっくり楽しんでらっしゃい。え、大掃除? それも問題無しよ。だって陽平がいるもの」
「うおっ、抜ける。腰抜けるっ。腰抜けちゃう〜」
「黙って持ちなさいっ!」
「ひいッ!」
「え? ああうん、なんでもない。陽平がうっかり荷物落としかけたみたい。あ、心配しないで。本当に落としたら投げっぱなしジャーマン食らわすから」
「お、鬼〜!」



■ ■ ■



「あー、疲れた……」
 すっかり片付いた藤林家の居間、そのソファーに座って、陽平はそうぼやいた。実に、箪笥が三、衣類の入った袋と籠がそれぞれ五、そして数え切れないほどの段ボールを運んでいたのである。
「はーい、お疲れ」
 そこへ台所に引っ込んでいた杏が、コーヒーカップをふたつ持ってくる。
「ああ、サンキュー」
 と、素直にコーヒーカップを陽平は受け取ると、
「初めはどうなるかと思ったけど、どうにか片付いたね」
 と、言ってコーヒーをすすった。
「そうね、もう日が暮れちゃったけど……」
「うわ、もうそんな時間? 道理で身体がへとへとなわけだ……」
 外を見てげんなりとした顔になる陽平に、杏は小さく苦笑すると、
「はい。元気が出る元」
 そう言って、小さなアルバムを置いた。
「へー、どれどれ?」
 興味津々と言ったようでアルバムを開いた陽平であるが、中身を見るなりすぐさま、
「お、これ汐ちゃんじゃん」
 そう言って、じっくりと見始める。そう、そこには岡崎汐の幼稚園時代の写真が収まっていたのであった。
「園の記念写真よ。懐かしいでしょ」
「懐かしいっていうか、この頃の汐ちゃんとは余り会わなかったからなぁ。新鮮だよ」
 そう言いながら、それなりの速さでページをめくっていた陽平の手が、ふと止まった。
「……あー、ここら辺で岡崎の奴と仲直りしたんだね」
 そして少し目を細めて、そう言う。
「やっぱりわかる?」
「まぁね」
 そう言って、陽平はアルバムの日付を読み上げる。
「うん、ここらへんから笑顔が違うだろ? なんていうのかな、無理してない感じ?」
 そんな陽平に、杏は少し驚いた貌で、
「……陽平、あんた保父の才能あるかもね」
「よしてくれよ。子供はどっちかというと苦手なんだ。汐ちゃんが例外なだけでさ」
「そうなの?」
「ああ、そうだよ」
「ふーん」
 少し意外そうに杏が呟く。彼女はそのまま、アルバムを見ることに熱中している陽平を眺めていたが、やがて少し神妙な顔つきになると、
「ねえ、大掃除のついでに御願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
 と、言った。
「ん? なに?」
 アルバムから顔を上げて、陽平が応える。
「このアルバムと一緒にね、届けて欲しいものがあるの」
「誰にさ」
「朋也によ」
「――岡崎に?」
「うん……ちょっと待ってくれる?」
 そう言って、杏はリビングから退出していった。そのまま階段を上って降りる音が続き、やがて古ぼけたノートと筆記用具を両手に抱えて戻ってくる。
「これって……」
「掃除前に部屋を整理していたら出てきたの。朋也から借りてたノートとかシャーペンとか――学生時代の借り物よ。今更返すの、恥ずかしくて……御願い、これを朋也に――」
 その先を陽平は手で制して、
「これは……だめだよ」
 と言った。
「なんで?」
 意外といった感じで、杏がそう言う。
「直接返せば良いじゃん。意識し過ぎなんだよ、お前」
「な、何をよ」
 動揺で頬を少し紅く染め、杏が訊く。
「今杏さ、恥ずかしいって言ったよね」
「そう言ったわよ。当たり前じゃない」
「違うだろ、本当は」
「な、何言うのよ、あんた」
「本当はさ、渚ちゃんに遠慮して居るんだろ」
 半ば当てずっぽうであった。それで外れても怒られるだけだし、僕に実害はない。そんな気持ちで言ったのだが、
「な、な、な、何でそれを……」
 効果、覿面であった。
「……マジなわけ?」
「――! 嵌めたわね、あんた」
「その点は謝るよ。だけど言いたいことは変えない。わかる?」
「あ……うん、わかるわ……」
 珍しくしゅんとなって、杏は頷く。
「次に岡崎に会うのはいつ?」
「え、えーと……新年の初詣かしら」
「そっか――しょうがないなぁ。僕もつき合ってやるよ」
「本当?」
「でも岡崎に渡すのは杏、お前だからな」
 彼にしては珍しく、ぴしゃりと言う陽平。
「う、うん……わかった。って、実家には帰らないの?」
「ああ。遠いし、今年は帰らないって言ってあるからね」
 ソファに背を預け天井を見上げながら、陽平は言う。そんな彼を、杏はちょっと見直したといった面もちで見つめていたが、すぐに立ち上がると、
「夕飯代わりだけど、年越しそば、食べる?」
 と訊いた。
「ああ、戴くとするよ」
 お腹空いてきたしね、と陽平。
「ついでに泊まってきなさい。今からじゃ宿の確保出来ないでしょ?」
「それも助かるよ。困ったときは岡崎んち行くんだけど、あいつスパナ持ち出して狭くなるから縮めって殴りかかってくるからさ」
 その光景を想像して、お互い吹き出し合う。
「言っとくけど、寝るときはリビングだからね」
「杏の部屋で寝たら、後が恐いよ」
「言ってなさい」
 まるで昔年の悩みを訊いて貰い、解決して貰ったような気分ねと思いながら、杏は台所に立った。
 事実その通りだったのであるが、そこを認めるのは、彼女のプライドが許さなかったのかもしれない。
 ともあれ、こうして藤林家の年の暮れは、更けていったのである。



Fin.




あとがきはこちら













































「あれっ、なんで春原のおじさまが藤林先生と?」
「汐、それ以上詮索するな。俺達の身が危うい」
「「そこっ、勝手な想像しないのっ!」」




































あとがき



 ○十七歳外伝、春原と杏でした。
年末に間に合わせるつもりだったんですが、新年にもつれ込んでしまいました;
まぁ、いいかw。
さて次回は……杏と○かな?

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