超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「おかしいですよ藤林さん!」
「でっかいお世話です」
「ごきげんようなの」
「お前らやりたい放題な」










































  

  


『あははははははははははははははははははははははは!』
 その小さなカセットレコーダーから飛び出た最初の声は、妙ちきりんな哄笑だった。
 次いで、
『お、お持ち帰りぃ〜』
 妙にくねくねした言葉が飛び出て来る。その声音、絶対に聞き忘れることが無いような気がするのだが、理性のどこかが断固拒否と叫んでいて、俺の脳裏には声の主が一向に浮かんでこなかった。
「なんだそのけったいなテープは」
 仕方が無いので、お茶を飲みつつレコーダーを持ってきた俺の娘に聞いてみる。すると、テープを聞いていた汐はひとこと、
「お母さんが演劇の練習に使った録音テープだって」
 俺は盛大に茶を吹いた。



『時を越えてく練習風景』



『あっちゃ〜……』
『はう〜ん』
 何のために練習しているのか、よくわからない言葉が次々と再生されていく。
 参考になると思って古河家から持ち出したのだろう。汐は真面目な貌をしてずっと黙って聞いていたが、ふと顔を上げると、
「何の劇なんだろ、これ」
「いや、俺に聞かれても」
 正直、困る。
「そもそも脚本なのかな……」
「いや、あいつ演劇はほぼ素人だったからなぁ――てことは」
「まさか」
 汐も膝を叩く。
「オッサンだな」
「あっきーね」
 それは、ほぼ同時に出た言葉だった。
「マンガだな」
「マンガよね」
 残念だったが、こちらは若干タイミングがずれる。
「まぁ確かに、好きな本の台詞を朗読するのって、演技力付けるのに良いけど……」
 他にも謎の台詞が飛び交う中、汐が呟く。
「元がわからないから演技力もわからない……」
「良いんじゃないか? 要は渚がどう捉えたか、だろ」
 手を伸ばしてレコーダーを止めながら俺。引っ張り出してみると、驚いたことに三時間もある。
「これ、いっぱいに入っているのか?」
 適当に早送りして俺。
「あっきーはそう言っていたけど」
「ふーん……」
 やっぱり適当に止めて、再生してみる。はてさて、どんな台詞が飛び出して来るやら……。
『セイジ君……好きですっ』
「誰じゃセイジって奴はぁぁ!」
「おとーさん、落ち着いて。台詞台詞」
 汐がそう言った直後、ノイズが走った。多分収録時間が違うのだろう。
『初めましてコウタ君、お母さんですよー』
「コウタって誰よっ! 兄!? 弟!?」
「お前も落ち着け、汐」
 今になってみると、正直男の子も欲しかったがな?
「中々威力高いわね、このテープ」
 汗を拭う汐に、俺も頷いて言う。
「正直俺達父娘限定のような気もするが」

『嘘だッ!』

 親子揃って、座ったままの姿勢で数センチ飛び上がる。それだけ、その声は恐かったのだ。
「何だ、今の」
「あ、あっきーじゃない?」

『嘘だッ!』

「違うみたいだぞ」
「そりゃそうだろうけど」

『嘘だッ!』

「やっぱりオッサンのようだ」
「お母さんの声真似して欲しいの? あっきーに」
「ああ、どんとこい」

『嘘だッ!』

「なかなか鋭いな」
「そろそろ流れ変えようよ」
「ほう、ならやってみろマイドーター」
「うーん、実は藤林先生やことみちゃんや師匠のことが気にならないでもない?」
「なんでだよ。俺は渚一筋だって」

『嘘だッ!』

 ひ、ひいぃ……! 本当だっ! 信じてくれ渚――って、何で俺が春原みたいにならなきゃいかんっ!
「ふむふむ。んじゃ次。実はエッチな本を隠し持ってる」
「持って無い持って無い」

『嘘だッ!!』

 うおすまん渚、実は押し入れの天板に――って、おい。
「……汐、母親の声で遊ぶな」
「はーい」
 大人しくイヤホンを取り出して、接続する汐。なるほど、そうすれば俺が無用な突っ込みを入れることがない――というか、集中して聴くことが出来る。
「でもすごいね、お母さん」
 と、汐。
「何がだ?」
「意味不明な台詞ばっかりに聞こえるけど、パターンと量が半端じゃないもん。こんなに練習していたんだ……」
 俺は遠い過去を思い出す。
『お連れしましょう。その場所へ……』
 ……あぁ、懐かしいな。
 そう、俺が闇雲に夜の街を歩き回ってた時も、あいつは一生懸命練習を続けていたじゃないか。
「そう、だな……」
 懐かしくて、思わず目を閉じる。瞼の裏に浮かぶのは、夜の闇に包まれた古河パンの店先。そしてそっと俺に手を差し伸べる、渚の姿。
「……あ」
「どうした?」
「ん、これ」
 そう言って、汐はテープを少し巻き戻すと、イヤホンをレコーダーから引っこ抜いた。
『この学校は、好きですか?』
 夜の風景が、すぐさま光に満ちた明るい光景に切り替わる。舞い散る桜。長い長い校門へと至る坂道。
『わたしはとってもとっても好きです』
 あぁ。俺も、今思えば好きだったよ。お前が居て、春原が居て、杏や智代が居て……短いとはいえ、楽しい学校生活だった。
 ふと目を開けると、入れ替わるように汐が目を瞑って聞き入っていた。
『――それでも、この場所が好きでいられますか?』
 もちろんだ。次の楽しいこととか、うれしいこと、俺はちゃんと見つけてる。目の前で静かにお前の声に聞き入っている、俺の娘が――。
 俺は再び目を閉じて、そのまま汐とふたり、しばらくテープを聞き続けた。
 お互いの瞼の内に、あの光景が見えていることを信じて。



Fin.




あとがきはこちら













































「わたしに女の子が出来たら、名前はやっぱりみらいちゃん?」
「あのな……」




































あとがき



 ○十七歳外伝、ポケットの中のメモリアル編でした。(←元タイトル候補)
 今回は、所謂中の人遊びというやつですw。私の場合、あまり渚の中の人の作品を多く見ていないので結構苦労しました。(春原や杏や智代や○の中の人なら良くわかるんだけどなぁw)
 そう言えば、来年七月には劇場版CLANNADが公開予定ですが……朋也の声は誰になるんでしょうねぇ。
 
 さてさて。次回は○と杏で、回想気味に。

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