超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。
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「いただきます」
「いただきます」
(それ、私の持ち台詞なの……)
きっかけは、俺の何気ない一言だった。
それが後になって、色々大変なことになるとは思わずに。
『岡崎家の、すれ違い』
「明日、デートしに行かないか?」
俺がそう言ったのは金曜の夜、夕飯でのことだった。
茹だるような暑い夏が過ぎて、日差しは相変わらず強いものの風が涼しくなってきた九月の中頃。明日も降水確率は0%で、行楽日和に違いなかった。
話を聞いていた汐はというと、好物ののりたまふりかけご飯を元気にかっ込んでいたのだが……俺の言葉を聞いた途端、ぽかんとした顔でこっちを見て、
「パパ……」
「どうした?」
「もういちど……」
えらく頼りない表情で、そう言う。
「明日、デートに行かないか?」
事態を飲み込めていないっぽかったので、俺はゆっくりとそう言ってやった。
「パパが……デート?」
「あぁ。お前とな」
「いっしょに?」
「もちろんだ」
「あした?」
「そのつもりだが」
そこまで言った途端、汐はちゃぶ台からがたっと立ち上がり、しばらく右往左往したかと思うと、箪笥に突進しておでこをぶつけてしまった。
「いたい……」
「だ、大丈夫か?」
「うん……」
涙目になってはいたが、泣き出さないのは我が娘ながら流石だと思う。思うが……そこまで狼狽することを言ったんだろうか、俺は。
「何をしようとしたんだ?」
「じゅ、じゅんび……」
「食事が終わってからで良いからな」
「うん……」
おでこをさすりながら、汐は静かに座り直した。そしてやにわ茶碗を掴んだかと思うと、
「ごちそうさまっ」
と叫んで再び箪笥に向かう。
――見えなかった。瞬きひとつしなかったつもりだが、茶碗半分に残っていたのりたまふりかけご飯が一瞬にして無くなる過程を、俺は完全に見落としていた。
早い、早いぞ汐……。
翌朝、俺が目を覚ますと、隣の枕元にばかでかいリュックサックがあった。ネームタグを見ると、『対災害用超大型リュックサック、メイドバイ古河秋生』とある。どうもオッサンの私物がわが家に紛れ込んでいたらしい。
無論、俺はこんなものを引っ張り出しもしなければ、用意することも無い。あえてする人物がいるとすればそれは、
「汐……」
「あ! お、おはようパパ」
「ああ、おはよう……」
ときどき俺より早く起きることもある汐だったが、すっかり着替え終わっているのは初めてだった。よそ行きの服を一部の乱れも無くしっかりと着付けているその姿は、なんというか入学式を控えた新入生に見える。
「なあ汐。これ、どうするんだ?」
そう言いつつ、リュックをつつく俺。つつかれたリュックはというと、中身がぎっしり詰まっているのか、びくともしない。
「もっていっちゃ……だめ?」
「その前に背負えない背負えない。というかおまえが丸々入るからな」
「そ、そうかな……」
ショックだったらしい。見てわかるくらいに落ち込む汐。
「どうしよう……」
「なぁ汐、どうしてそんなに頑張るんだ?」
と、俺は訊いた。
「え?」
あわてて顔を上げる汐に、俺は視線を合わせて小首を傾げ、先を促す。普段はしっかりはっきり答えるやつだから、簡単に答えが返ってくると思っていたのだが……、
「えと……えと……」
答えの代わりに逡巡する汐の顔が、みるみるうちに真っ赤になって、
「ママのかわり、できるかな……って」
近くにあっただんご大家族のぬいぐるみを抱き寄せ、顔の下半分を埋めながらそう言う。
「? なんでママの代わりにならなくちゃいけないんだ?」
「え、だって……」
さらにもう半分、つまり顔全部をだんごに押しつけて、汐は消え入りそうな声になると、
「だってせんせいが、いってたから。デートっていちばんすきな人とするんだって。パパがいちばんすきなのは、ママだから……」
きょ、杏の奴――!。
俺も思わず顔を隠したくなる。
つまり汐は、不安なわけだ。
渚の代役を務めることが。
それは、本人が頑張って頑張って頑張りきっても無理だと、わかっているのだ。
「……あのな、汐」
だから、それでも頑張ろうとしている汐に、俺は言ってやる。
「デートの相手って言うのは一番好きな人というのは間違いだ」
「え……?」
顔の半分だけだんごから離して、俺の思っている通り不安げに眉を寄せる汐に、続けて言う。
「本当は、一番大切な人なんだよ。杏――藤林先生は、恥ずかしいからそう言ったんだ」
「……そうなんだ」
本人に聞かれたら、辞書が数冊頭に突き刺さりそうな話だった。話だったが、だからといって撤回するつもりは毛頭無い。
汐はそんなことで頑張る必要は無い。そして俺の目の前に大切な人がいる。それだけだ。
「だから、汐は汐らしく。な?」
「うん。あれ、でも……」
沈んでいた表情が浮き上がったものの、今度は困惑に曇った汐は再び不安気な声で、
「ママは、だいじじゃない?」
「そんなことないぞ。パパは結構欲張りだからな。一番大事な人がふたりもいるんだ。ママとお前をな、汐」
「パパ……」
今度こそ、汐の顔から不安の色が消えて無くなった。
「よし、そろそろ行くぞ」
「うん」
「準備は良いか?」
「おー!」
その久々に聞いた汐の掛け声に、俺は頬を緩めつつ立ち上がった。
やっぱ元気一杯でないとな。そう思う。
今日のデートは、きっと忘れられない一日となるに違いなった。
Fin.
あとがきはこちら
「せんせい、いちばんすきなひとってだれ?」
「え、あたし? …………秘密っ」
「……パパなの?」
「ななななな、なんで!?」
「パパがいってた。せんせいがひみつっていったら、それはたいがいおれのことだからなって」
「……汐ちゃん、朋也に伝えてくれる? 冗談はその老けない顔だけにしろって」
あとがき
○十七歳外伝初めてのデート編、第二回最萌○支援でした。(長い、長いよスレッガー中尉)
以前朋也と○のデートを書きましたが、今回はそれらの記念すべき第一回を書いてみました。正確にはその前段階までですが、きっと楽しめたのだろうと思います。
さて次回は……最近常用しているものか杏で。