『里村茜の看過』



 夏休み終盤、里村茜と折原浩平はショッピングプラザに買い物に来ていた。所謂、巨大な建物の中にいくつも小さな店舗があるタイプのデパートメントストアである。これを浩平はひとり商店街と呼んでおり、言い得て妙な例えであると、茜は思っていた。
 目的は特にない。ただお互い、たまにはこういうのも良いかと少々遠い此処を選んだだけである。
 そんなふたりであるが、先程までは眼鏡店にて最近日差しがきついのでサングラスが欲しいと言った浩平に付き合った茜が試しにかけてみたレイバンのサングラスが異様に似合ったり、玩具屋の隣にあるゲームセンターにて有名なイタリア人の配管工のレースゲームで浩平が小学生に大敗を喫したりと色々あったが、今は小休止と言ったところで、茜が買ったちょっとした荷物を、コインロッカーに預けているところであった。
「お待たせしました」
 荷物を入れ終え、浩平の待つ長大なエスカレーター脇のベンチに茜が戻ってきた。
「……浩平?」
 浩平は答えない。何やら唸りながら、何かの機械を弄くっては、メモに書き続けて居る。
 機械の方はすぐにわかった。所謂クーポン発行端末である。しかしそこから何をメモしているのかが、茜にはわからない。こういった端末には、プリントアウト機能が常備されているからである。
「浩平……?」
 もう一度問いかけても無言だったので、茜はメモの方を覗き込んでみた。


折原浩平:×

折原 浩平:×

折原・浩平:×

おりはらこうへい:×

オリハラコウヘイ:×

折原@浩平:×

折原(はぁと)浩平:△


「……何をやっているんですか?」
 多少呆れ、ため息混じりに茜が訊く。すると浩平は弾かれたかのように面を上げて、
「――! も、戻ってたのか」
「少し前には」
 やや憮然となって、茜。
「もう一度聞きます。一体何をやっているんですか?」
「いや、さっきから巧く行かなくてな」
「何がです?」
「そ、それは……」
 浩平が言い澱んみつつ、例のクーポン発券機を見たので、茜は構わず画面を覗き込んだ。すると、そこにはクーポン券発行のものではなく、いくつかの入力欄を供えた状態になっていた。どうも、クーポン券発行機に良く付いてくる、おまけ画面を開いているらしい。
 そして、ひとつの画面には浩平の名前が載っており、もうひとつの入力欄に、自分の名前が載っていた。
「……浩平?」
「見ろ、此処」
 画面の一角を浩平が指す。
「……低いです」
 そこには、幾つかの数字が羅列されていた。どういった基準かわからないが、どれも30を超えていない。
「感情、運動、知性、仕事、おまけに結婚、皆低いんだよ……」
「なんの話なんです?」
「……相性占い」
「ああ……」
 やっと納得がいった。茜はひとつ頷いて、
「どうでもいいです」
「いや、そう言い切られると、困るぞ?」
 頭を掻き掻き言う浩平に、
「……それは、あくまで相性ですから」
 きっぱりと斬って捨てる茜。
「浩平は、最初にふたりきりで逢ったときのこと、憶えていますか?」
「……そりゃあ、もちろん」
 今でもはっきりと思い出せるぞ、と浩平。もちろん茜も、あの、雨の降る空き地のことを良く憶えている。あの時、浩平が声をかけてくれたからこそ、今の茜が居るのだから。
「あのときの私達は、お互いぎくしゃくしていました。浩平はもう、憶えていませんか?」
「いや。忘れちゃ居ない」
「……良かったです」
 即答した浩平に、ほっとしたように息を付いて微笑む茜。
「なら、浩平も気付いたと思います。それは――相性は意味がありません。色々なものを乗り越えてきた、今の私達には」
「そうか……そうだな」
 頷く浩平。そして素早く右手が動き、クーポン発券機の画面を初期化する。
「行くか」
「行きましょう。この先に美味しいワッフルのお店があります」
「そっか……ここを選んだ理由って、もしかしてそれか?」
「浩平の想像に任せます」
 そういって茜は手を伸ばす。浩平は迷わずその手を握り、ふたりは午後のショッピングプラザを並んで歩いたのであった。



Fin.







あとがき



 第二回最萌茜支援ONESSでした。
 とある相性占いサイトで、試しに私の名前と茜の名前を入れてみたのが、全ての発端だったりします。
 いやあ、すげえ低かったんですよ。ONEヒロイン最低値というか、Keyヒロイン足して東方ヒロイン足して、それでも最低orz。まぁ、あんまり気にしちゃいないんですがね(かなりやせ我慢)。
 さて次回は……間に合えば、プールもので^^。

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