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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「えーりんー」
「どうしました? 姫」
「人参スムージー、もう飽きた……」
「…………」














































  

  





『博麗神社で昼食を』



 その日は、記録的な猛暑であった。
「あぢい……」
 後に『文々。新聞の主筆、暑さにやられ湖に墜落』という見出しの新聞がばら蒔かれる程の直射日光を博麗神社の庇で避けて、心底参ったといった風体の霧雨魔理沙がそう呟いた。
「だらしがないわね、これくらいの暑さで」
 と、魔理沙と同行していたアリス・マーガトロイドがそう窘める。
「というかね、服を着なさいよ、服」
「うるさい。お前みたいに暑さ寒さに強かないんだよ、こっちは」
 そう反論する魔理沙。多少凄んではいるのだが、アリスの言う通り下着姿であるためあまり迫力はなかった。
「だからって、自宅でもないのに下着姿ってどうかと思うけど」
「服に熱が籠もるんだよ」
「黒いんだから、当たり前でしょ」
「だからってコスモス色とかに変えられるか。魔女なんだぞ、私は」
「妙な拘りよね、それ」
 アリスがため息をついたときである。
「あーつーいー」
 神社の庭を掃いていた、博麗霊夢が戻って来た。そして、居間で大の字になって寝そべり、帽子を団扇替わりに扇いでいる下着姿の魔理沙を一目見ると、
「あら魔理沙、涼しそうね。私も真似しようかしら」
「あんたまで何言ってるのよ……」
 感覚を共有出来ているふたりが、少しだけ羨ましく感じるアリスである。
「で、どうする? お昼。食べていくんでしょ?」
「ひーるー?」
 ごろんと寝返りを打って魔理沙が呟く。
「当たり前だぜ」
「じゃあ、素麺でも」
「あーきーたー」
「あんたね」
「アンタね」
 ほぼ同時に、霊夢とアリスがため息をついた。
「もっとこう冷やっこくて、食いでのあるのにしようぜー」
「語尾を延ばさないの。だらけて居るように見えるわよ」
「だらけているんだ。私は」
 アリスの忠告も暖簾に腕押しといった感じで、魔理沙。そして霊夢はというと、何かを考えるかのように腕を組んで、
「……そうね、氷と干し魚があれば何とか出来ないことも無いわ」
「本当か?」
 がばりと起き上がる魔理沙。
「本当だけど、手に入るの?」
「任せろ。収集は趣味と実益を兼ねた私の十八番だ」
 そう言って、魔理沙は帽子を被った。
「先に行くぞアリス!」
「ちょっと! 服着なさいよ服!」
 どたばたと出て行くふたりを見送り、霊夢は呟く。
「――大丈夫かしらね」



■ ■ ■



「悪いわね」
 干し魚を分けてくれた紅魔館のメイド長である十六夜咲夜に、アリスは素直に頭を下げた。
「気にしなくて良いわ。この前分けてもらった香草のお礼がまだだったし、うちのお嬢様、お魚は滅多に食べないから」
「あぁ、鰯の頭が駄目なんだっけ?」
 幸いなことに、幻想郷に鰯は居ないが。
「肝油に嫌な思い出があるようね」
 と、咲夜。それがかつて紅魔館でひと騒ぎ起きる元凶になったのだが、それはまた別の話である。
「でもどうするの? その干物」
「霊夢がね、氷と干し魚があれば魔理沙の言う冷やっこくて食いでのあるお昼が作れるんですって」
 そう答えたアリスに、咲夜はたっぷり三秒間(と、時間を止めた分九秒の計十二秒)考えた後、
「新レシピの参考になりそうだわ。私も参加する。いいわよね?」
「……いいんじゃない?」
 そこらへんの判断基準が、よくわからないアリスである。
「で、氷をどうにかするって言ったどこぞの白黒は、何処に行ったの?」
「さぁ……ちょっと前に別れたから、すぐ側に居ると思うんだけど」



 ちょうどその頃――。
「そろそろいいんじゃないの?」
 紅魔館に程近い湖の一角で、氷の妖精であるチルノは珍客に向かいそう言った。
 申し訳ない程度の小島――というか岩である。普通なら二坪ほどの広さでひとりでも窮屈さを感じてしまうくらいであるが、岸には流氷よろしく氷が張り付いており、見かけ上の広さを倍以上としていた。
 無論、この炎天下で氷が自然に存在出来る訳が無い。すべて、チルノが過ごしやすいようにと、自らの能力により凍り付かせたものである。
「うぅ、スカートは乾いているのに、下着がまだ乾ききって無いです……」
 気持ち悪そうにそう言って岩影から出てきた珍客――射命丸文が呟く。先ほどチルノの目の前で墜落し、この島に案内されて服と身体を乾かしていたのだった。
「どちらにしても助かりました。カメラを空中で受け止めてくれて。あれ、水に落ちると修理出来ないんです」
「ふん、キラキラしたものが落ちてきたから拾っただけよ」
 腕を組んでそっぽを向くチルノに文は微笑んで、
「それでも感謝していますよ。――それにしても不覚でした。まさか私が自分のネタになりそうなことをするなんて」
「いつもくっろい服着ているからよ」
 チルノはにべもない。
「あたいの勘で言うと、あんたでそんな感じなんだから、どっかの白黒なんて今頃きっと焼き鳥ね!」
 そう言って、チルノは高らかに魔理沙と笑った。
 ……魔理沙と、笑った。
「おもしろい事言うよなぁ、お前」
「あ、あれ?」
 がっしりと頭を掴まれるチルノ。
「偶には火力を頼らず交渉で氷を得ようと思ったんだが……」
 そう言いつつ、エプロンのポケットからミニ八卦炉を取り出して、魔理沙。
「やっぱ私と言えば力押しだなっ」
「あ、あれ〜〜〜?」



■ ■ ■



「なんか随分と大人数になったわね」
 と、博麗神社の台所に集まった面々――魔理沙、アリス、咲夜、チルノ、そして文――を眺めて、霊夢はそう呟いた。
「まぁそう言うな。賑やかな方が良いだろ?」
 帽子を両手の間でくるくると回しながら魔理沙がそう言う。
「で、干し魚はともかくとして、氷は?」
「まぁ見てろ――ほれチルノ、早速だが水を凍らせてくれ」
 そう言って、手近な入れ物に水を汲んで、チルノの前に置く魔理沙。
「うー、あたいにそれやらせてどうするってのよ」
「美味い昼飯が食える。ついでに、みんなが褒める」
「まっかせて!」
 チルノが叫んだその途端、大きめの丼になみなみと注いであった水はあっという間に氷結した。
「凍らせ過ぎ。どうやって砕くのよ」
 それを見ていた霊夢がぼそっと指摘する。
「うー……」
「いいわ。それは私がやる」
 そう申し出たのは、咲夜である。
「どうやって?」
「こうやって」
 魔理沙の疑問に咲夜は笑って答えると、空中から大皿を取り出して(同時に食器棚から一枚無くなっている)、そこにひっくり返した丼から氷塊を載せた。そしてスカートの裾からナイフを一本抜くと、逆手に持ってリズミカルに砕き始める。
「たいしたものね」
 と、感嘆するアリスに、
「メイドには、バーテンダーやソムリエの能力も求められるものなのよ」
 と、氷を砕き続けながら咲夜。
「なるほど、過去に酒場で働いていた可能性ありっと……」
 文が素早くメモを取った。
「アリス、ちょっと手伝ってくれる?」
 そこへ、米飯を焚いていた霊夢が声をかける。
「なに?」
「胡麻を擦って欲しいの。加減は油でペーストにならない程度で」
「わかったわ」
「文、あんたも暇ならそっちのまな板に茗荷を用意してあるから、少し細かめにそぎ切りにして、水にさらしておいて」
「了解です」
「私は?」
「魔理沙は配膳。お茶碗とお箸を一膳ずつ」
「へいへい」
 それぞれに指示を飛ばしながら、霊夢は米飯の蒸らしを確認した後、大きな擂り鉢を用意するとその中に味噌の塊を入れ、そこに水をそっと注いだ。そのまま擂り粉木で、ゆっくりとかき混ぜ始める。
「咲夜、チルノ、砕いた氷」
「はい」
「よいしょ」
「アリス、文、胡麻と茗荷」
「うん」
「どうぞ」
 茗荷が入った途端、霊夢が操る擂り粉木の動きが急に慎重なものになった。茗荷を潰さす、それで居て慎重に掻き回しているのである。
「魔理沙、配膳終わった?」
「言われなくてもすたこらさっさだぜ?」
「訳わかんないわよ」
「もう終わったってこった」
「最初からそう言いなさい。それじゃ全員、居間に移動して。あ、魔理沙は残って。お櫃とこの擂り鉢運ばないといけないから」
「……へいへい」



「いただきましょ」
 霊夢がそう言った途端、各自から一斉にいただきますとの声が上がった。
「なるほど、これが冷や汁なのね」
 軽く炙った干し魚を丁寧にほぐしつつ咲夜。
「正解。材料がなかなか揃わないから、滅多に作らないんだけどね」
 短冊切りにした胡瓜を自分の椀に入れつつ霊夢が言う。
「で、どうやって食べるんだ?」
 茶碗と米の入ったお櫃、それに擂り鉢と魚、胡瓜の載った皿を順番に眺めながら魔理沙が問う。
「簡単よ。ご飯を好みの量でよそって、そこに胡瓜とほぐした魚をやっぱり好みの量で入れて、最後に冷えたおみそ汁をこれも好みの量でかければいいの」
 と、霊夢が答える。そして霊夢が答える頃には、魔理沙は言われた通りのことを全て済ませて茶碗を傾けていた。
「美味いっ!」
「喉に詰まらせないでよ。とんでもないことになるから」
 魔理沙の隣に座ったアリスが心配そうにそう言う。向かい側では、チルノと文が美味しそうに箸を動かしていた。
 そんな皆の様子を、霊夢は箸を休めて眺めていたが、やがて思案気に眉根を寄せて少し上を見上げた。
「どうした?」
 既に三杯目を平らげた魔理沙が訊く。
「んー、みんなで宴会ってのは良くあったけど、こうやって協力しあって昼食作ったこと、あったかなって」
「あー、そういや無かったな。無かったが――」
 四杯目の米飯を装いながら魔理沙は片目を瞑って言う。
「賑やかな方が、良いだろ?」
「……そうね」
 霊夢は頷いて、冷や汁を静かにかき込んだのだった。



Fin.




あとがきはこちら













































「茗荷と胡麻と、お味噌の香りがするわ……」
「はい?」
「行くわよ、妖夢。お土産の一升瓶、忘れないでね」
「え、ちょ、何処へ行くんです幽々子様!?」




































あとがき



 なんかたくさんキャラの出てきた、残暑お見舞い東方SSでした。
 さて、劇中に出てきた料理は九州の郷土料理としてよく見られるものでして、この季節でしたら和食のレストラン『藍屋』(某天狐さんとはまったく関係ないですw)で食べることが出来ます。というか私はそこで食べました。こちらでは鰺の塩焼きをほぐして入れるのですが、流石に海のない幻想郷では無理であろうと干し魚にしました。咲夜さんがどうやって手に入れているか、相変わらず謎ですがw。
 さて次回は……またちょっと未来の幻想郷の話になるかもしれません。暗くならないように、頑張ります^^。

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