超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「お客様、二回目の御登場おめでとう御座います!」
「いや、まず対象は俺じゃないし、星がネタでもあんたの出番ないからな」










































  

  


「本当によろしいんですか?」
 と、俺、岡崎朋也は念入りに訊いた。
「あーあー、ええよ。持って行きなさい」
 好々爺然とした、老人――冷房の屋外器具の修理を依頼してきた、俺達の客――がスローペースながらもしっかりと頷く。
「……わかりました。ではお言葉に甘えて、戴きます」
 こちらも深く頭を下げて、俺は老人からそれを受け取った。



『ささのは、さらさら』



「パパ、すごい……」
「うん、すごいな」
 思い切りかさ張る笹を抱えて帰宅したところ、先に小学校から帰っていて出迎えに出てくれた汐をかなり驚かしてしまった。
 そりゃまぁそうだろうなと思いながら、俺はひとりで行った冷房器具の修理で、お礼に裏庭に生えている笹を分けて貰ったことを出来るだけわかりやすく説明し、それが終わるころには笹に視線が釘付けになっていた汐と一緒に部屋の中に飾り付ける準備を進めていた。
 そして今、飾り終わった笹をふたりで見上げていたところだったりする。
 窓際に飾ってみると、それだけで部屋の一角を占められてしまった。幹というか、本体はそう高くないのだが、いい枝振りの御陰で天井へぶつかりそうになっている。
「うーん……」
 汐が眉根を寄せつつ小首を傾げた。
 言いたいことは俺にもわかる。何か、物足りないのだ。
「どうした? 汐」
 俺がそう訊くと、汐は遠慮がちに、
「みんなのねがい事が、書ければいいのにと思って……」
 ――それだ。
「そりゃいいな。じゃあ、そうしてみるか」
「え?」



「短冊か。面白れーこと考えるじゃねぇか、小僧」
 オッサンはのっけから乗り気だった。俺が渡した何も書いていない短冊を引ったくるように受け取ると、
「ほらよ。もってけ」
 と、三秒足らずで書き上げて俺に手渡してくる。興味本位で内容を見てみると――、
『古河家世界征服』
 ものすごい野望だった。
「ってことはなにか。汐が跡を継ぐ訳だな」
「おう、世界の命運は汐に任せたぜ!」
「ふたりとも、当の本人が困ってますよ」
 俺達のテンションに当てられ君だった汐を、早苗さんがフォローしてくれる。
「はい、これがわたしの短冊です」
「「どれどれ」」
 オッサンと俺、それに無言の汐と三人で覗き込んでみる。
 するとそこには、実に早苗さんらしい丁寧な文字で、実に早苗さんらしい願い事が書いてあった。
『この街が平和でありますように』
「うおおおお!? 何か血が騒いできたぞコラァ! 早苗っ俺達も笹だ笹っ!」
「はい。それじゃ短冊は古河塾の子達から募集しますねっ」
 相変わらず楽しそうな夫婦だった。



「ん」
「ん、ってお前な……」
 杏から渡された短冊には単刀直入に、そしてでかでかと『再婚』の二文字があった。
「汐にどう説明すりゃいいんだよ。漢字の意味知ったらあれだぞ」
 杏の家まで遠いので、汐には留守番へ回って貰ったことに心底安堵しながら俺。
「いいのよ。どっちかというと朋也向けなんだから」
「俺向け、ね……言っておくが俺は今だって渚一筋だからな。今だって――愛しているんだ」
 かなり恥ずかしい台詞を意識的に言ったのだが、
「本気で言ってるのなら、かなり恥ずかしいし、冗談で言ってるんなら、嫌みったらしいくらいにキザよ、それ」
 軽くあしらわれてしまった。
「一応、本心だからな」
「わ、わかってるわよっ」
 何で顔が赤くなる? 杏……。
「とりあえず、書き直すわ。余ってる短冊、ある?」
「ああ、一応な」
 と、俺が予備の短冊を渡すと、杏はさらさらと書き直して、俺に手渡してくれた。えーと、内容は――。
『結婚』
「お前な……」
「しょうがないでしょっ、行き遅れちゃったんだからぁっ!」



「もう蹴っ飛ばされませんように、だろ?」
『あんたいきなりなに失礼なこと言ってんですかねぇ!』
 さすがに実家に戻っている春原を短冊を書かせるためだけに呼び付ける訳にも行かないので(面白そうではあるが)、俺はやつの望みを聞くべく自宅から電話をかけていた。
「違うのか」
『何のことだかさっぱりわからないけど、違うのは間違いないよ』
「実はだな……かくかくしかじかへぎょー」
『……最後のへぎょーが意味不明だけど、大体はわかったよ。七夕の願い事だね』
「まぁそんなところだ」
『OK、そんじゃ言うよ。僕の願いは……』
「お前のこと、忘れればいいのか」
『何でそうなるんですかねぇっ!』
「いや、懐かしいフレーズについ――な」
『な、じゃないよ。な、じゃ』
「で、結局何なんだよ」
『うーん、何だろうなあ』
「早くしろ、こっちは忙しいんだ」
『かけてきたのはそっちでしょ!』
「いいからさっさと言え」
『わかったよ。それじゃ――』
 ………………。
 受話器を置きながら、俺はひとり呟いた。
「『僕の顔がへこむことが、もうありませんように』って……最初に俺が言ったのとあんま変わんないじゃん」



 その後、そいつはいいなっと芳野さんから『公子ラブ&ピース』、風子からは杏に負けず劣らずでっかい字で『ヒトデ』、公子さんから唯一真っ当な『祐くんがこれからも頑張れますように』という短冊を貰って、俺は笹にくくりつけた。
「おーい、汐。短冊書けたか?」
 ものすごく悩みつつ一文字一文字書いていた汐が、俺の声に反応して慌てて振り向く。
「……もうちょっと」
「わかった。出来たら声かけてくれ」
「まって……できた」
「お。丁度書き終わったんだな」
 俺は、汐から短冊を受け取ろうとすると、汐は渡そうとした手を直前で止めて、
「パパは、なんて書いたの?」
「ん、パパのぶんか。よし、見せ合いっこしよう。いっせーのでいくぞ?」
「うん」
「いっせーの――せ!」

『汐がずっと元気でいますように 朋也』

『ずっと元気にすごせますように 汐』

「……一緒だなっ」
「あ――うんっ」
 お互いぐっと、拳を付き出し合う。
 その、少し申し訳なさそうな表情が少し気になったが、すぐ笑顔に戻った汐に、俺は安心しきっていた。



■ ■ ■



 ――その夜、俺は見てはいけない物を見てしまった。
 たまたま空いていた汐のランドセル、そのポケットに見慣れぬ紙切れが挟まっていたのを、引き抜いた俺が馬鹿だった。
 その紙切れは丁寧に折り畳まれた短冊で、そこに丁寧な文字でこう書いてあった。

『お母さんに、会いたいです』

 名前を書こうとして、途中で消しゴムで消してあるのがわかった。
 しかし、その願い事は消されていなかった。
 消そうにも消せず、捨てようにも捨てられず、こうしてランドセルの片隅に隠してあったのだ。
 それは――そう、汐の本心にほかならない。
 それでもそれを笹に飾らないということは、つまりは決して叶わないことを汐は知っている。
 どこまでも辛い、連鎖だった。
 今、俺は窓を開け、その枠に腰を下ろしている。手には酒の入ったコップ、傍らにはみんなの短冊が飾り付けられた笹。汐が隠していた短冊は、既に元の場所に戻してあり、当の本人はぐっすりと眠っている。
 汐の願いを叶えてやりたい。今まで生きていた中で、汐のためにこれほど強く願ったことはなかった。
 俺は窓から夜空を仰いだ。
「……なぁ渚。いつかでいい。どんな形であってもいい。だから、汐に逢ってやってくれ――な」
 呻くように、そう呟いてしまう。俺の願いだって、叶うはずがないのに。
 なのに、その場でささやかな奇跡が起きた。
 叶うはずのない俺の願いに応えるように、流れ星がひとつ落ちたのだ。
 風が部屋の中に僅かに吹き込み、笹の葉がさらさらと揺れる。
 俺はそれでいくらか救われ……コップの中の酒を一気に煽ると、窓の枠から降りた。
 いつかでいい。どんな形であってもいい。汐が渚に逢えますように。



Fin.




あとがきはこちら













































『いつか、しおちゃんと逢えますように 渚』




































あとがき



 ○十七歳外伝、七夕編でした。
 いつものとちょっとだけ違って、話の結論が、ずっと前に書いた話にリンクしていたりします。まぁつまり、朋也の願いは――って事です。
 さて、このお話葉鍵板第二回最萌にて○戦用に書いたものなのですが……なんか色々時間オーバーしそうで大変です。間に合うといいけど……。

 おっと、次回ですが、一個前の春原のお見合い完結編です。

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