秋山瑞人特集
――E.G.コンバット、鉄コミュニケイション、猫の地球儀――
2000.05.05


 というわけで特集第一号は、Ogurinが最近深ーくハマっている秋山瑞人先生の作品でお送りします。

 そもそも、私が秋山先生の本に触れるキッカケになったのは、当HPからリンクしている『天球堂画報』のイラストレーター、椎名優先生のイラストが目に留まったからでした。『猫の地球儀……焔の章……』です。へえと思いながら(久々に椎名優先性のイラストを文庫で見たので)、プロローグを立ち読みして……、
 そのままプロローグを読み切ってしまいました。その時間、ざっと半時間。まわりのことを一切気にいていなかったせいか、気が付くと本屋の他のお客さんがひいていました。これ、私にとって滅多にないことなのです(たまーにやりますが)。

 そして続巻を待って悶々とすること2ヶ月、ついに出ました『猫の地球儀その2……幽の章……』まるで別の生き物(家族:談)のように読み切りました。そしてより終わった直後に走った鋭い衝撃。こいつあ揃えるしかねえな。と気障に呟いたものです。

 しかし、残りのE.G.コンバットと鉄を揃えるのに少し時間がかかりました。大体こんな感じです。

猫                   E.G.鉄

 今もそうなのですが、私は原作付きという作品にはやや距離を置く傾向があります。理由は簡単。ノベライズというものが大抵はオリジナル、つまり原作に比べその魅力が半減することが多いからです。ポイントは半減というところで、似たおもしろさならともかく、大きく魅力をダウンさせてしまうのがほとんどだと思います。E.G.と鉄は原作付きである。その事が購読にブレーキをかけていたのでした。
 しかし物事には例外というものがあります。E.G.も鉄も異常なまでに面白かったのでした。

 ではここで各作品の紹介を。(古い順)

■E.G.コンバット(電撃文庫/1〜3巻)
 何故か女性ばかりを狙い、殺す謎の生物である『敵』、「プラネリアム」により全人類の人口は五億以下にまで減った時代。それ以前に人類は救世軍という統一組織を造り上げ、プラネリアムが地球に集中しているのを見取り、ほとんど全ての女性を月に移送。そのため地球は汗くさく、月のコミケはやおいだらけになったかどうかさておいて、とにかく戦力増強のため、月の女の子を鍛えて優秀に育ったものを地球に送るという図式が成立します。
 主人公のルノア・キササゲ大尉は月の訓練施設「オルドリン」を卒業した後卓越した能力で地球に降下し、大きな戦果を挙げます。しかし、それをやっかんだ、仲の悪い、それこそ犬と猿がおててつないでスキップできるくらい、仲の悪いライバルにより訓練施設の教官という地位に降格。そこでできの悪い一班の五人組を担当することになったのですが……


けけけけけ


 軍隊ものと学園ものを合わせるとこうなります、の見本です。特筆すべきは戦争の描写で、学園ものが混じってたりする場合、大抵が『トップガン』悪いと『ホットショット』化するのですが、この作品の場合『プライベート・ライアン』『シン・デッド・ライン』だということです。なれ合いはしない、ということなのでしょう。ちなみに私の一押しキャラは特等生のカデナ・メイプルリーフ嬢です。

■鉄コミュニケイション(電撃G’s文庫/全二巻)
 たくま朋正先生の漫画が原作でちょっと前までアニメの放映していました。私の場合は原作は未読で、アニメは(ちょっとした事情で……)4話までしか見ていないのですが、この作品、雰囲気は一緒なのに、内容がえらい違うような気がします。徹底的(?)な戦闘描写はどう評価したらいいか困るくらい精密で、リアリティがあります(E.G.もそうなのですが。)。一押しキャラはルーク。強くて格好いいのです。

■猫の地球儀(電撃文庫/全二巻)
 秋山先生の本のなかで私が一番好きな作品です。
 地球を周回するスペースコロニー『トルク』。人がいなくなって、黴が雑草のように繁り、その土地に適応した知能の高い「トルクの猫」が大集会という宗教的な組織によって導かれている時代。地球は地球儀と呼ばれ、彼岸の先であると定義されます。
 ところが、知能が高くなった猫の一部が、その知能故、地球儀の正体を見抜きました。そしてそこに行きたいと研究を始めます。しかしそれは天動説主流の時代に地動説を唱えるような、帝国主義全盛に民主政治を求めるような危険なものでした。スカイウォーカーと呼ばれるようになる彼らは、大集会に仇なすものとして抹殺されるようになります。
 36番目のスカイウォーカーは自らの研究が実を結ばず、そして大集会に殺されますが、彼の相棒であるロボットが、研究の記録と共に脱出に成功。長い間かくれ続けます。そしてその長い年月がたったあるとき……

 秋山先生の初のオリジナル作品だそうですが、とにかく面白いのです。猫の社会と生活、その習性。歴史の闇に埋もれ、猫たちに解釈される歴史。そして猫たちが熱狂的に観戦する格闘スポーツ(?)スパイラルダイブ。ぎゅうづめになるくらい綿密な描写です。加えて、個性豊かなキャラクター達は、脇役まで本当に個性的でたまりません。そして驚くくらいシビアな本編。所々に秋山節ともいえるコメディチックなところもあるのですが、その本道はとてもとてもシリアスで胸を熱くするものなのです。ちなみにお気に入りのキャラクターはクリスマスと震電の同着一位。彼らがどんなキャラクターかは見てのお楽しみ。

 とにかくここでは表現し切れませんし、あまり多くを書きすぎるとこの作品を読んだときにドキドキを感じなくなってしまうので、これ以上は書きません。とにかくこの作品だけでも読んでみて下さい。後悔はしないと思います。


にゃー


 秋山先生は文章で勝負する先生だと思います。私を含めた多くの若手クリエイターみたいに設定やキャラを武器にするのではなく、その文章力を武器にし、その上に精密なキャラクターと設定を載せています。俗な言い方をすれば基本が違うのです。さらに精密な文章力はそのまま精密な設定とキャラクターになります。当然のことですが、同じキャラクターと設定でも、それの書き方次第で大きく大きく持ち味を伸ばせるのは言うまでもありません。本当にすごいと思います。

 また、追いつき、追い越したい人が増えました。

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