『春霞の人形』(2006.10.05)

 階の下に辿り着き、溜め息を吐く。
 幻想郷は今、春の盛りである。この辺りもそうらしく、目の前にある石造りの階段の両脇には、薄桃色の桜の花が咲き誇って居た。
 階段の先は、霞がかっていて見えない。
 かつての友人曰く、あまりに多くて数えるのを途中でやめたという程の長さを誇る段数であるが、それにしても不自然な濃さの霞である。
 だが、此処では不自然が自然なのかもしれない。幻想郷を基準に出来ないからだ。

 冥界。白玉楼へと至る、大階段。 続きを読む →

『魂魄妖夢の困惑と決断』(2006.05.09)

 冷たい刃が自らの喉に潜り込む瞬間、これで全てから解放されると思ったのに。

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 バネ仕掛けのように跳ね起きる。
 反射的に辺りを見回し――彼女は、自分が何者であるかを思い出した。

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『魂魄妖夢の困惑と決断』

「ねぇ、妖夢」
「なんでしょう、紫様」 続きを読む →

『ディアフレンド』(2005.10.05)

 冥界たる白玉楼にも、日は上り、月も上る。
「ふぁぁ……」
 生憎冥界生まれの冥界育ちたる魂魄妖夢にとって、それは疑問にも何にもならなかったのだが、毎度毎度狂いもなく上ってくる天文二象にはつくづく感心していた。
 私だって、時折寝坊したりするのにな。
 そんなこと考えながら、その日の早朝、彼女が着替えようと箪笥の引き出しを開けると、
 引き出しの底に、妖夢を見つめる形で八雲紫が頭がはまっていた。そして、そのままずるりと上半身を引きずり出すと、
「やっほー、お邪魔するわよ」
 白玉楼の庭二百由旬いっぱいに、妖夢の悲鳴が木霊する。 続きを読む →

『西行寺幽々子の挑戦』(2005.07.05)

 最近、白玉楼の庭師、魂魄妖夢は微妙に疲れていた。
 理由は、よくわからない。だが数日ほど前の朝から、台所に立つと決まって首筋に冷たいものが這って行くような感覚をおぼえるのである。
 殺気のような刺々しい感覚でもないし、後ろを見ても誰もいない。
 故に、妖夢は錯覚としてやり過ごしていた。
 それが、亡霊特有の視線によるものだと気付かずに。 続きを読む →