『学年末の、馬鹿騒ぎ』(2005.05.23)

『エントリーの締め切りまで、後五分を切りました! 参加希望者は昇降口横のエントリー受付までお急ぎください! 繰り返しまーす! エントリーの――』
 校内放送を外にまで回して、放送部の声が響く。30分前から五分置きに流れるその放送を脳裏に流して、わたし、岡崎汐は最終チェックを済ませていた。電源、表示、激鉄、引金すべて良し。
「なんというか、俺達が現役のころはただの進学校だったのになぁ」
 傍らで、感慨深気におとーさんがそう言う。
 そして、そのまま何も言わなくなってしまったので、わたしはわざと声に出してみた。
「『渚は生まれてくるのが早すぎたのかもしれない』?」 続きを読む →

『岡崎家のバレンタイン』(2005.02.16)

「中に軽くローストしたコーヒー豆が入っているんです」
 綺麗に広げられたラッピングの中身に対し、カフェ「ゆきね」の店長、宮沢有紀寧がそう説明する。
 大豆を一回り大きくしたようなそれは、チョコレートの粒だ。中にはきっと、いま宮沢が説明した通りコーヒー豆が入っているのだろう。
「なるほど……」 続きを読む →

『初秋の日差しとコーヒーの香り』(2004.09.19) 

 新学期になってから一週間経ったその日、わたし、岡崎汐がカフェ『ゆきね』のドアをくぐると、珍しいことに店長以外の客がいなかった。
「いらっしゃいませー」
 と、店長こと宮沢有紀寧さんが挨拶をする。以前、ふぅさん――美術講師の伊吹風子先生――と一緒に入ってから、わたしは良くここを利用するようになっていた。 続きを読む →

『ゆきねぇの階段』(2004.08.08)

 今日も俺と渚は、あの坂を上っていた。
 ちなみに、遅刻風味なのでお互い駆け足だったりする。
「と、朋也くんっ」
 俺の後ろから、息も切れ切れな渚が声を掛ける。
「さ、先に行ってくださいっ、わたし、後から行きますっ」
「駄目に決まっているだろ」
「そんなことないですっ、朋也くん、ちゃんと授業受けなきゃ駄目ですっ」
「おまえもだろ」
 言うまでもないことだが、俺は自分のペースを二段階ほど下げている。はっきり言って小走り程度なのだが。
「ああっ、なにか景色が歪んできましたっ!」
 渚にとってはトライアスロンに近いようだった。 続きを読む →