『里村茜の行動』(2010.11.20)

「うわっ、うわぁ~」
 その一枚の写真を前に、長森瑞佳は黄色い歓声を上げた。
 写真の中には、長くて薄い髪の色をした女の子が、はにかみながら写っている。黒を基調としたふわっとした、それでいて丈がちょっとだけ短いワンピースと、胸元を飾る黄色いリボンが良く似合っている一葉であった。
「すっごい可愛いねぇ……」 続きを読む →

『里村茜の探索』(2009.08.01) 

「里村さんっ」
 その、ほとほと困りきった友人の声で里村茜は振り返った。
 教室、その放課後。クラスメイト達はあちらこちらで部活動の用意、あるいは帰り支度を済ませようとしている。
 かく言う茜も、帰宅組のひとりであった。
「どうしました? 長森さん」
 呼びかけて来た声の主――長森瑞佳に応え、片付けの手を止めて茜。
「えっと、浩平見なかった?」 続きを読む →

『里村茜と七月のラプソディー』(2008.07.18) 

 七月。長かった梅雨が明け、暑い日差しが照り出した初夏のことである。
 里村茜は土曜日の日中を利用して、診療所を訪れていた。
 ここのところ、どことなく体調が優れなかったためである。
「大きな病気というわけではありませんな」
 と、診断があらかた終わり、カルテに何かを書き込みながら初老の医師はそう言った。
「というと……」
 ブラウスのボタンを留めながら、茜が問う。 続きを読む →

『里村茜の仮眠』(2005.12.28)

 年末、その少し前に学生にとって最大の試練が訪れる。
 折原浩平にも、長森瑞佳にも、七瀬留美にも、そして里村茜にも、それは均等にやってくる。
 残念ながらそれは回避不可能で、立ち向かうしかない。いわゆる、逃げられない戦いというものなのである。
 多くの学生が来るのを厭い、憂鬱にするもの。

 その名を、期末試験という。 続きを読む →

『里村茜の勝負! そして、その顛末』(2005.11.03)

「茜ってさ」
 里村家の風呂場。最早恒例となったお泊まりで、湯船に浸かっていた柚木詩子はそう問いかけた。
「何です?」
 洗い場でお下げを解いた里村茜が、その髪にお湯を丁寧にかけつつ聞き返す。
「折原君と、付き合っているんだよね」
「――そう見えても、否定はしません」
 シャンプーを右手に五回。一度頭に乗せて今度は左手に向かって五回ポンプを押して、茜が答える。
「ってことは、茜は折原君のことを――だよね」 続きを読む →

『里村茜の不覚』(2005.01.24)

「あのさ、お前」
 昔ながらの水銀式体温計を眺めながら、折原浩平は諭すように言った。
「ミイラ取りがミイラになるって言葉、知ってるか? ――微妙に今回のケースとずれているが」
 数値は37度8分。高すぎるという訳でもないが、平熱という訳でもない。
「どちらかと言うと、医者の不養生でしょう……これも微妙にずれていますけど……」
 布団の中で、里村茜が答える。頬に朱が散っているのは先程はじき出された体温の保有者であり、呼吸がやや荒いのも、さらに言うと声が若干浮ついていたりするのもまた、そのためであった。
 浩平の部屋の中である。 続きを読む →

『里村茜の 動 揺 』(2004.03.31)

 ある日の放課後、いつものように山葉堂でワッフルをとばかりに集まった学生たちは、そこで閉じたままのシャッターを見た。シャッターのど真ん中には『しばらくの間休業』とだけ書いてある張り紙が貼られているだけである。
 ある者は、ただ単に休みなのかと思っただけであり、またある者は急な休業の理由を訝しみ、またある者は代わりの店はどこになるだろうかと思案していたが、それらのどれであったとしても、それ以上店の前にいても仕方のないことであるという一応の結論を得て、ひとり、またひとりと去り、最終的に山葉堂前は、ただ単に流れる景色として埋没することになった。

 が、彼らは最初から最後まで、ひとり立ち尽くす女生徒の姿に気付かなかったのである。 続きを読む →

『里村茜1割増』(2003.09.01)

意外なことかもしれないが、里村茜の家には、良く泊まり客が来る。
 月に一度ほど、大荷物を担いで学年が1年下の上月澪が、同じくらいのペースで、ごく普通の軽装でクラスメイトの長森瑞佳と七瀬留美が、さらに同じペースで、「人肌が恋すぃー!」とかいって折原浩平が泊まりに来る(彼は叔母と暮らしているのだが、その叔母が多忙のため、実質一人暮らし状態なのだ)。
 まあ、月に3~4回というとそれなりに多い方だが、茜の家の場合にはさらに続きがある。
 ほぼ毎週1回、幼馴染みの柚木詩子が泊まりに来るのだ。 続きを読む →

『アイツにアレを飲ませるな』(2002.02.05)

 元旦、昼前のことである。
 新年の挨拶をしようということで、長森瑞佳と、七瀬留美は浩平の家へ向かって並んで歩いていた。
「なに?それで瑞佳は行かなかったの?浩平主催の忘年会」
「うん、やっぱり二人だけにしてあげたかったしね」
「あのね。んなこと言ったって他の子が来るじゃない」
「うーん、でも、人数は少ない方がいいと思ったから」
「それ、損な性格よ、瑞佳」
 ため息をつく留美。
「そうかな……じゃ、七瀬さんは?」 続きを読む →

『Farewell Night』(2001.12.23)

「あ、里村さんだ」
「本当だ。里村さん!こっちこっち」
 クリスマス、商店街を歩いていた瑞佳と留美は見慣れた傘と、大きなお下げを見つけいた。
「長森さん、七瀬さん」
「これからでしょ? 浩平の家に行くの」
「はい……」
 留美が息を弾ませながら、先に駆け寄る。後から瑞佳も追い付いた。
 つい昨日のことである。 続きを読む →

『続・里村茜嬢の二律背反的な悩み』(2001.10.10)

あらすじ:甘いものの食べ過ぎで、体重が増えた里村茜。具体的に何キロ増えたのかは秘密らしい。

 昼休みが終わりに近づく中、どうにか教室は平穏を取り戻していた。長森瑞佳と七瀬留美と里村茜が揃って、『折原浩平がご迷惑をおかけしまして……』と頭を下げたところ、『彼なら仕方がない』と教室一同が納得したためである。一発目は明らかに茜が原因なのだが、発言の原因を浩平と言うことにして、彼のせいにしておこうという、乙女3人の密約が発動したのであった。……二発目は明らかに浩平の茜に対する失言が原因で、それで一気に3人を敵に回したことになったとはいえ、つくづく女性というものは恐い。
「でも、確かにそれは控えた方がいいわ。私も剣道辞めたときウエイト対策に悩まされたもん。ねえ、瑞佳?」 続きを読む →