『里村茜の行動』(2010.11.20)

「うわっ、うわぁ~」
 その一枚の写真を前に、長森瑞佳は黄色い歓声を上げた。
 写真の中には、長くて薄い髪の色をした女の子が、はにかみながら写っている。黒を基調としたふわっとした、それでいて丈がちょっとだけ短いワンピースと、胸元を飾る黄色いリボンが良く似合っている一葉であった。
「すっごい可愛いねぇ……」 続きを読む →

『里村茜の共闘』(2010.11.15)

 文化祭。それは年に一度生徒が本気ではっちゃける行事である。
 文化祭。それは出し物の企画立案者の趣味が色濃く反映される行事である。
 文化祭。それはその趣味を反映させるため企画会議の時点で各人の思惑が複雑怪奇に絡み合う行事である。
 故に。
 だからこそ。
 折原浩平のクラスは大いに荒れていた。 続きを読む →

『七瀬留美の激走』(2009.09.08)

 放課後、軽音楽部の部室。
 使用している軽音楽部は、普段より幽霊部員だらけで、まともな活動をしていないのに存続を許されているという希有な部活である。それ故その部室も誰かに注目されると言うこともなく、今日も無人の教室として校舎の一角にひっそりと佇んでいるものと部外者である誰もが思っていたのだが、その日だけは些か事情が異なっていた。
「――よし。此処だったらふたりきりになれるな」 続きを読む →

『里村茜の探索』(2009.08.01) 

「里村さんっ」
 その、ほとほと困りきった友人の声で里村茜は振り返った。
 教室、その放課後。クラスメイト達はあちらこちらで部活動の用意、あるいは帰り支度を済ませようとしている。
 かく言う茜も、帰宅組のひとりであった。
「どうしました? 長森さん」
 呼びかけて来た声の主――長森瑞佳に応え、片付けの手を止めて茜。
「えっと、浩平見なかった?」 続きを読む →

『里村茜と七月のラプソディー』(2008.07.18) 

 七月。長かった梅雨が明け、暑い日差しが照り出した初夏のことである。
 里村茜は土曜日の日中を利用して、診療所を訪れていた。
 ここのところ、どことなく体調が優れなかったためである。
「大きな病気というわけではありませんな」
 と、診断があらかた終わり、カルテに何かを書き込みながら初老の医師はそう言った。
「というと……」
 ブラウスのボタンを留めながら、茜が問う。 続きを読む →

『OTOME道どりふ』(2007.12.21) 

「起きろ折原」
 そんな声で目が覚めた折原浩平がうっすらと目を開けると、眼前に振り下ろされつつある肘が迫っていた。
「な、なんでやっ!?」
 奇跡的なタイミングで横に跳び起き、すんでのところを避ける。凶器となるところであったその肘は、浩平が普段見慣れている学校指定のものとは違う制服の袖に包まれていた。
 その制服を着る人物は、浩平の知るところひとりしか存在しない。
 言うまでもなく、七瀬留美である。
「お前な、オレに何か恨みでもあるのか!?」
「恨みなら山とあるわっ!」 続きを読む →

『里村茜の計略』(2007.07.17)

「なぁ、茜」
 憂鬱な一学期の期末試験が明けた七月の放課後、里村茜が帰り支度をしていたところに折原浩平はそう声をかけていた。梅雨が明けて、蒼天が飽きもせずに直射日光を浴びせ続けているため、昼が過ぎてもその蒸し暑さは衰退する気配を見せていない、そんな午後のことである。
「どうしました? 浩平」
 支度の手を休めて茜が訊く。すると浩平は咳払いをひとつして、
「今年の夏休み、海かプールに行く予定はあるか?」
「無いです」 続きを読む →

『里村茜の憂鬱』(2007.04.24)

「最近――」
 4月の中頃、昼休みの学校。
 教室の机をくっつけて作った卓の上でお昼の弁当を食べていた里村茜は、一見ではわかりづらい憂鬱の色を浮かべてそう言った。
「浩平の姿を見かけないような気がします」
「そういえば、そうね」
 一緒に昼を取っていた七瀬留美が頷いて言う。
「瑞佳、何か知らない?」
「え? うーん」
 同じく一緒に食事をしていた長森瑞佳は、持っていた牛乳のパックを机に置くと、 続きを読む →

『里村茜の遠慮』(2006.08.25)

 プールの一日貸し切りは、思っているより安い。
 それに気付いた折原浩平のクラスメイト、住井護は、クラス内から有志を募集。クラスメイト8割の出席者とカンパによる資金を確保し、見事とあるレジャー施設のプールを一日貸し切りことに成功したのであった。
 そして当日の昼過ぎ、ひとりの男子生徒が、プールサイドから動かない女生徒を発見したのである。 続きを読む →

『折原浩平の作戦ッ!』(2006.06.08)

「んんーむ……」
 昼休み。例によってトトカルチョで巻き上げた食券を駆使し昼食を超高速で平らげた折原浩平は、自分の席で頬杖を突き、むーむー唸っていた。
「どうしたの浩平、変な声出して」
 食堂かどこかで弁当を食べていたのだろう。ナプキンに包まれた弁当箱を下げて、教室に戻って来た長森瑞佳が不思議そうに訊く。すると浩平は背筋を延ばして鷹揚に腕を組みつつ頷くと、
「いや、茜の驚いた顔、見たことがないなと思ってな」 続きを読む →

『里村茜の仮眠』(2005.12.28)

 年末、その少し前に学生にとって最大の試練が訪れる。
 折原浩平にも、長森瑞佳にも、七瀬留美にも、そして里村茜にも、それは均等にやってくる。
 残念ながらそれは回避不可能で、立ち向かうしかない。いわゆる、逃げられない戦いというものなのである。
 多くの学生が来るのを厭い、憂鬱にするもの。

 その名を、期末試験という。 続きを読む →

『里村茜の勝負! そして、その顛末』(2005.11.03)

「茜ってさ」
 里村家の風呂場。最早恒例となったお泊まりで、湯船に浸かっていた柚木詩子はそう問いかけた。
「何です?」
 洗い場でお下げを解いた里村茜が、その髪にお湯を丁寧にかけつつ聞き返す。
「折原君と、付き合っているんだよね」
「――そう見えても、否定はしません」
 シャンプーを右手に五回。一度頭に乗せて今度は左手に向かって五回ポンプを押して、茜が答える。
「ってことは、茜は折原君のことを――だよね」 続きを読む →

『里村茜の不覚』(2005.01.24)

「あのさ、お前」
 昔ながらの水銀式体温計を眺めながら、折原浩平は諭すように言った。
「ミイラ取りがミイラになるって言葉、知ってるか? ――微妙に今回のケースとずれているが」
 数値は37度8分。高すぎるという訳でもないが、平熱という訳でもない。
「どちらかと言うと、医者の不養生でしょう……これも微妙にずれていますけど……」
 布団の中で、里村茜が答える。頬に朱が散っているのは先程はじき出された体温の保有者であり、呼吸がやや荒いのも、さらに言うと声が若干浮ついていたりするのもまた、そのためであった。
 浩平の部屋の中である。 続きを読む →

『里村茜の 動 揺 』(2004.03.31)

 ある日の放課後、いつものように山葉堂でワッフルをとばかりに集まった学生たちは、そこで閉じたままのシャッターを見た。シャッターのど真ん中には『しばらくの間休業』とだけ書いてある張り紙が貼られているだけである。
 ある者は、ただ単に休みなのかと思っただけであり、またある者は急な休業の理由を訝しみ、またある者は代わりの店はどこになるだろうかと思案していたが、それらのどれであったとしても、それ以上店の前にいても仕方のないことであるという一応の結論を得て、ひとり、またひとりと去り、最終的に山葉堂前は、ただ単に流れる景色として埋没することになった。

 が、彼らは最初から最後まで、ひとり立ち尽くす女生徒の姿に気付かなかったのである。 続きを読む →

『だよもんどりふ』(2003.09.07)

 ひどく鈍い頭痛を覚えて、長森瑞佳は目を覚ました。
 折原浩平の部屋である。しかも、どうやらベッドの上で寝ていたらしい。
 そのことを認識して、瑞佳は慌てて身を起こした。いくら毎朝訪れているからといって、ベッドで寝ているとなると何となく恥ずかしかったのである。
 今、何時だろう。未だ鈍く痛む頭を軽く振る。此処にいるということは朝のはずだけど……と壁にかけられた時計を見ると、午前8時。いつもより少し早い。
 あれ、なんで早いんだっけ……と思ったところで、瑞佳は重大なことに気付いた。
「浩平?」 続きを読む →

『里村茜1割増』(2003.09.01)

意外なことかもしれないが、里村茜の家には、良く泊まり客が来る。
 月に一度ほど、大荷物を担いで学年が1年下の上月澪が、同じくらいのペースで、ごく普通の軽装でクラスメイトの長森瑞佳と七瀬留美が、さらに同じペースで、「人肌が恋すぃー!」とかいって折原浩平が泊まりに来る(彼は叔母と暮らしているのだが、その叔母が多忙のため、実質一人暮らし状態なのだ)。
 まあ、月に3~4回というとそれなりに多い方だが、茜の家の場合にはさらに続きがある。
 ほぼ毎週1回、幼馴染みの柚木詩子が泊まりに来るのだ。 続きを読む →

『開け、夏の扉』(2003.06.21)

 連日降り続いている雨は、今朝になっていよいよその勢いを増してきたようで、それを証明する雨音と目覚まし時計のベルとの不協和音で、私は目を覚ました。
 ぐっしょりと濡れている身体は、おそらく湿度のせいだけではないだろう。ただ、その原因となった夢の内容は思い出したくなかった。
 ……だいたい、見当がついていたから。 続きを読む →