『学年末の、馬鹿騒ぎ』(2005.05.23)

『エントリーの締め切りまで、後五分を切りました! 参加希望者は昇降口横のエントリー受付までお急ぎください! 繰り返しまーす! エントリーの――』
 校内放送を外にまで回して、放送部の声が響く。30分前から五分置きに流れるその放送を脳裏に流して、わたし、岡崎汐は最終チェックを済ませていた。電源、表示、激鉄、引金すべて良し。
「なんというか、俺達が現役のころはただの進学校だったのになぁ」
 傍らで、感慨深気におとーさんがそう言う。
 そして、そのまま何も言わなくなってしまったので、わたしはわざと声に出してみた。
「『渚は生まれてくるのが早すぎたのかもしれない』?」 続きを読む →

『父二人』(2004.11.01)

 物音ひとつしなかった。
 今夜、風はない。
 窓の向こうでは満月が昇っており、煌々と光を投げかけていた。
 これ以上は無いと言って良いくらいの、理想的な秋の夜である。
 そんなお月見どきに、酒ビンひとつとコップふたつを乗せたちゃぶ台を挟んで、岡崎朋也とその父、直幸が座っていた。
 直幸の実家である。
 二人はかれこれ一時間近く、酒を酌み交わしていた。
「それにしても――」 続きを読む →

『秋桜の畑を抜けて』(2004.10.23) 

 土の具合は、非常に良い。
 指でそれを摘みながら、男は満足気に頷いた。
 今年の夏は大変暑く、その終わりには大きな台風が一回だけ通り過ぎたが、その後はすべてが良好と言えた。
 秋、収穫の季節である。
 TVの画面からは、都会の彩りが秋のものへと改装されて行く様を映していたが、ここでは、人は何もせずとも装いは改められて行く。あえて言うなら、田畑だけが人の手を借りるということになるだろうか。例えば、男が今居る小さな菜園とか。
 本当に、小さな菜園である。近所の農家から分けてもらった2~3坪のその土地は、彼の家庭菜園だった。
 園丁鋏を持って、パチ、パチと収穫し、傍らに置いたザルに盛っていく。
「あの……」
 ふと、背中の方から声がした。男は手を休め、ゆっくりと振り向く。 続きを読む →