『里村茜の探索』(2009.08.01) 

「里村さんっ」
 その、ほとほと困りきった友人の声で里村茜は振り返った。
 教室、その放課後。クラスメイト達はあちらこちらで部活動の用意、あるいは帰り支度を済ませようとしている。
 かく言う茜も、帰宅組のひとりであった。
「どうしました? 長森さん」
 呼びかけて来た声の主――長森瑞佳に応え、片付けの手を止めて茜。
「えっと、浩平見なかった?」 続きを読む →

『里村茜と七月のラプソディー』(2008.07.18) 

 七月。長かった梅雨が明け、暑い日差しが照り出した初夏のことである。
 里村茜は土曜日の日中を利用して、診療所を訪れていた。
 ここのところ、どことなく体調が優れなかったためである。
「大きな病気というわけではありませんな」
 と、診断があらかた終わり、カルテに何かを書き込みながら初老の医師はそう言った。
「というと……」
 ブラウスのボタンを留めながら、茜が問う。 続きを読む →

『里村茜の計略』(2007.07.17)

「なぁ、茜」
 憂鬱な一学期の期末試験が明けた七月の放課後、里村茜が帰り支度をしていたところに折原浩平はそう声をかけていた。梅雨が明けて、蒼天が飽きもせずに直射日光を浴びせ続けているため、昼が過ぎてもその蒸し暑さは衰退する気配を見せていない、そんな午後のことである。
「どうしました? 浩平」
 支度の手を休めて茜が訊く。すると浩平は咳払いをひとつして、
「今年の夏休み、海かプールに行く予定はあるか?」
「無いです」 続きを読む →

『天井知らずの、空』(2003.09.23)

 放課後、その日日直だった私が職員室に日誌を届けた帰り、一年後輩の上月澪を見かけた。下駄箱から校庭に向かって、手頃な石を蹴りながらとぼとぼと歩いている彼女は――普段見せる明るさをすべて捨て去ったかのように、酷く寂しそうに見えた。

 空が底抜けに深い、秋のことである。 続きを読む →

『里村茜1割増』(2003.09.01)

意外なことかもしれないが、里村茜の家には、良く泊まり客が来る。
 月に一度ほど、大荷物を担いで学年が1年下の上月澪が、同じくらいのペースで、ごく普通の軽装でクラスメイトの長森瑞佳と七瀬留美が、さらに同じペースで、「人肌が恋すぃー!」とかいって折原浩平が泊まりに来る(彼は叔母と暮らしているのだが、その叔母が多忙のため、実質一人暮らし状態なのだ)。
 まあ、月に3~4回というとそれなりに多い方だが、茜の家の場合にはさらに続きがある。
 ほぼ毎週1回、幼馴染みの柚木詩子が泊まりに来るのだ。 続きを読む →

『アイツにアレを飲ませるな』(2002.02.05)

 元旦、昼前のことである。
 新年の挨拶をしようということで、長森瑞佳と、七瀬留美は浩平の家へ向かって並んで歩いていた。
「なに?それで瑞佳は行かなかったの?浩平主催の忘年会」
「うん、やっぱり二人だけにしてあげたかったしね」
「あのね。んなこと言ったって他の子が来るじゃない」
「うーん、でも、人数は少ない方がいいと思ったから」
「それ、損な性格よ、瑞佳」
 ため息をつく留美。
「そうかな……じゃ、七瀬さんは?」 続きを読む →

『夕陽の中で午睡』(2002.01.23)

 里村茜が、滅多に訪れない演劇部の部室に足を踏み入れると、そこには彼女を招いた張本人が夕陽に照らされながら床に座り込んでいた。机があちこちに追いやられ、ぽっかりと空いた床にである。
「おう、悪いな急に呼び出して」
「いつものことですから。……悪いことには悪いんですけど」
「すまんすまん、後で山葉堂だ」
「それなら、それほど悪くはないです」
 まんざらではない表情でそう言って、張本人、折原浩平へと歩み寄る。
「どうしたんですか?その毛布」 続きを読む →

『Farewell Night』(2001.12.23)

「あ、里村さんだ」
「本当だ。里村さん!こっちこっち」
 クリスマス、商店街を歩いていた瑞佳と留美は見慣れた傘と、大きなお下げを見つけいた。
「長森さん、七瀬さん」
「これからでしょ? 浩平の家に行くの」
「はい……」
 留美が息を弾ませながら、先に駆け寄る。後から瑞佳も追い付いた。
 つい昨日のことである。 続きを読む →

『続・里村茜嬢の二律背反的な悩み』(2001.10.10)

あらすじ:甘いものの食べ過ぎで、体重が増えた里村茜。具体的に何キロ増えたのかは秘密らしい。

 昼休みが終わりに近づく中、どうにか教室は平穏を取り戻していた。長森瑞佳と七瀬留美と里村茜が揃って、『折原浩平がご迷惑をおかけしまして……』と頭を下げたところ、『彼なら仕方がない』と教室一同が納得したためである。一発目は明らかに茜が原因なのだが、発言の原因を浩平と言うことにして、彼のせいにしておこうという、乙女3人の密約が発動したのであった。……二発目は明らかに浩平の茜に対する失言が原因で、それで一気に3人を敵に回したことになったとはいえ、つくづく女性というものは恐い。
「でも、確かにそれは控えた方がいいわ。私も剣道辞めたときウエイト対策に悩まされたもん。ねえ、瑞佳?」 続きを読む →