『サンタコス、上から見るか下から見るか』(2017.12.23)

「ちわーす! 岡崎、汐ちゃん、メリークリスマ——」
「だーかーらー、こういうときはズボンいらないのよ! そのために裾長くしたんだから!」
「だめだ! 汐のサンタ服には色気とかアピールポイントとかそういうのは要らん! 絶対にズボンをはかせるぞ!」
「おふたりともわかっていません。サンタさんの衣裳には黒タイツです」 続きを読む →

『とある日の、先生と生徒の会話』(2017.12.02)

「恋はいいわよ、汐ちゃん」
「せんせいも、したことある?」
「あるわよ。ふられちゃったけどね」
「かなしくない?」
「最初はね。でも今はこうして汐ちゃんと出会えて感謝しているわ」
「うん?」
「ふふ。汐ちゃんが大きくなったら、自然とわかるわよ」
#key版深夜のお絵描き60分一本勝負

『学年末の、馬鹿騒ぎ』(2005.05.23)

『エントリーの締め切りまで、後五分を切りました! 参加希望者は昇降口横のエントリー受付までお急ぎください! 繰り返しまーす! エントリーの――』
 校内放送を外にまで回して、放送部の声が響く。30分前から五分置きに流れるその放送を脳裏に流して、わたし、岡崎汐は最終チェックを済ませていた。電源、表示、激鉄、引金すべて良し。
「なんというか、俺達が現役のころはただの進学校だったのになぁ」
 傍らで、感慨深気におとーさんがそう言う。
 そして、そのまま何も言わなくなってしまったので、わたしはわざと声に出してみた。
「『渚は生まれてくるのが早すぎたのかもしれない』?」 続きを読む →

『岡崎家のバレンタイン』(2005.02.16)

「中に軽くローストしたコーヒー豆が入っているんです」
 綺麗に広げられたラッピングの中身に対し、カフェ「ゆきね」の店長、宮沢有紀寧がそう説明する。
 大豆を一回り大きくしたようなそれは、チョコレートの粒だ。中にはきっと、いま宮沢が説明した通りコーヒー豆が入っているのだろう。
「なるほど……」 続きを読む →

『ライク・ア・ファミリー』(2004.11.20)

 前に研修で家を一週間空けたおとーさんが、再び研修のため出掛けることとなった。
「というわけでしばらく家を空けるが――」
 急な話だったらしい。大きなカバンに荷物を詰めつつ、おとーさんは言う。
「……古河家?」
 と、わたし。
 前のときは、一週間も一人で暮らすには……ということで(そしておとーさん曰く、変な虫がつかないように)古河家に御厄介になっていた。まあ、あの時はお母さんの部屋で寝たり、あっきーから話を聞いたりと、いろいろあったが……。
「いや、今度は三日だからな」 続きを読む →

『未確認歩行物体対策会議』(2004.10.09) 

 おおむね、保母さんのオフタイムは夕方以降になる。
 その日、幼稚園を後にした藤林杏は、明日のお遊戯の内容を考えつつ、何かの参考になるかなということで、本屋に足を伸ばしていた。
 この職業に就いてから、読書の幅が大きく広がった杏である。なにせ、児童向けから教育書までの読者階層を幅広く抑えているのだから、当然のことと言えば当然のことなのだが、学生時代には想像すらしなかったことだ。
 本屋に入る直前、店から出て来た良い感じのカップルとすれ違う。
 あー、良い感じだなー、あたしも学生時代もうちょっと頑張るべきだったかなー、と思っていると、
「で、次はどこに行くんだ?」
「本屋さん」
 男の方の声に聞き覚えがあって、杏は慌てて振り向いた。すれ違った時には無意識に追いやっていたが、その後ろ姿は――杏がよく知っている人物であった。 続きを読む →

『秘密の花園と少女』(2004.10.03)

「こんにちはー」
 ようやく残暑が抜けて、ほっとしたところに中間試験。そしてそれを乗り越えた試験休みの日、わたしはわたしが通っていた幼稚園に顔を出していた。
「はーい」
 応対に出てくれたのは、わたしの恩師、藤林杏先生。
「あら、汐ちゃんじゃない。どうしたのよ?」
 答えの代わりに、わたしは持っていたタッパーを差し出した。中身は、クッキングペーパーで包んであるシナモンクッキーである。 続きを読む →

『海へ。』(2004.09.12)

 列車の中には、わたし達しかいなかった。
 わたし、岡崎汐はそれをいいことに、あっきー、早苗さん、そしてふぅさんと一緒に座っていたボックス席を立って、別の席に移り、車窓から外を眺めていた。……ふぅさん――幼馴染で美術講師の伊吹風子先生――が、窓にベッタリ張り付いてしまったため、座るスペースが狭くなってしまったためである。
 列車のリズムに揺られながら、目を閉じてみる。
 こうやって、鈍行の列車に乗るのが、わたしは好きだ。理由はおそらく、おとーさんとの最初の旅行が、こんな感じだったからだろう。
 リニアやらなにやらで特急料金が安くなって、利用人数がめっきり減ってしまったけれど、それでもわたしは好きだった。 続きを読む →