『木を隠すには森の中』(2000.08.22)

 商店街の盆踊り大会、その夜である。

「んんーこの味、高校時代に経験しておきたかったぜ」
 ビールのショットボトル片手に、浴衣姿。今年二十歳の藤田浩之は、大きく伸びをした。さすがに一本ではほろ酔いにすらならない。
「程々にね」
「飲み過ぎは体に毒ですよー」
 彼の左右に同じく浴衣姿の神岸あかりとマルチがいる。周囲から見れば両手に花なのだが、浩之本人に言わせると、 続きを読む →

『Meet again』(1999.07.20)

 梅雨も過ぎ、本格的に暑くなったとある大学構内にて。
「かぁーたりぃ~」
 大学生、藤田浩之はプリントやらテキスト、ノートの入ったクリアケースを肩に載せながらぼやいていた。今日の講義は全て終わって、これから帰ろうかと校舎を出たところである。
「なんか大変そうだね。浩之ちゃん」
 同じ授業を受けていて、彼の隣を歩いている神岸あかりがそう言った。 続きを読む →

『夜想狂詩曲』(1999.04.12)

「これを俺に?」
 藤田浩之は手元の封筒を何度も眺めながら、彼の前に立つ少女に尋ねた。封筒はかなり上質な紙で造られており、その色は迷いのない白に統一されている。さらには金と銀の縁取りまで施してあり、中央には何かの紋章が印してあった。
「――え、招待状?来栖川家のか?」
 来栖川。口紅からメイドロボまで扱う超大型企業集団、来栖川グループのことを一般的に指すときに使う言葉だ。そして、目の前にいる少女が他でもない来栖川家に縁のある人物なのである。 続きを読む →