『七色の人形遣いの失敗』(2006.12.17)

 大晦日も迫ったある日の夕方、魔法の森のマーガトロイド邸に、炬燵を囲む三人の少女の姿があった。ひとりは博麗神社の巫女、博麗霊夢。もうひとりは魔法の森の魔法使い、霧雨魔理沙。そして最後はこの家の主、アリス・マーガトロイドである。
 所謂ひとつの、お茶会であった。
「それにしても……」
 と、リビングに無理やり設えた――魔理沙が持ち込んだとも言う――炬燵の天板を撫でながら、アリス。
「炬燵って、佳いものねぇ……」
 その独特の魅力に呑まれたのか、目が何処かとろんとしている。
「だろう。幻想郷が生み出した、文化の極みだぜ」 続きを読む →

『霊霊刀、妖魔刀 ~続・春霞の人形』(2006.12.05)

「こんにちは」
 ある晴れた日の午後、マーガトロイド邸に響く魂魄妖夢の声に、家の主であるアリス・マーガトロイドは軽く首を傾げた。
 妖夢のほかに、微弱ながらもうひとつの気配があったためである。
「開いてるわよ。今キッチンに居るわ」
 正体不明の気配とは言え、妖夢と一緒に居るのだ。害を与える者ではないと判断し、アリスは少し大きめの声でそう返答した。丁度焼き菓子の仕上げに入っていたので、火元から離れたくなかったというのもある。
「わかりました。そっちに行きます」
 案の定、足音はふたつであった。但し、ただの足音ではなく片方が随分と体重が軽い。しかも、この軽さには……覚えがある。
 と、足音は戸口まで近づいて、
「お邪魔します」
 妖夢が顔を出した。続いて――、
「……あら」 続きを読む →

『紅白、白黒、ふたつの華』(2006.11.06)

 博麗霊夢が身罷ったのは、とある穏やかな春の日であった。
 死因は老衰で、彼女の正確な年齢など誰も知らなかったが、文句無しの大往生であったことは確かである。
 最期を看取ったのは、彼女に呼ばれて博麗神社に来ていたアリス・マーガトロイドで、奇しくもその少し前に霧雨魔理沙の最期をも看取っていた彼女は霊夢最期の言葉、『ありがとう』聞くことにもなってしまったのであった。
 この日、幻想郷は喪に服した。 続きを読む →

『春霞の人形』(2006.10.05)

 階の下に辿り着き、溜め息を吐く。
 幻想郷は今、春の盛りである。この辺りもそうらしく、目の前にある石造りの階段の両脇には、薄桃色の桜の花が咲き誇って居た。
 階段の先は、霞がかっていて見えない。
 かつての友人曰く、あまりに多くて数えるのを途中でやめたという程の長さを誇る段数であるが、それにしても不自然な濃さの霞である。
 だが、此処では不自然が自然なのかもしれない。幻想郷を基準に出来ないからだ。

 冥界。白玉楼へと至る、大階段。 続きを読む →

『博麗神社で昼食を』(2006.08.20)

 その日は、記録的な猛暑であった。
「あぢい……」
 後に『文々。新聞の主筆、暑さにやられ湖に墜落』という見出しの新聞がばら蒔かれる程の直射日光を博麗神社の庇で避けて、心底参ったといった風体の霧雨魔理沙がそう呟いた。
「だらしがないわね、これくらいの暑さで」
 と、魔理沙と同行していたアリス・マーガトロイドがそう窘める。
「というかね、服を着なさいよ、服」 続きを読む →

『魂魄妖夢の困惑と決断』(2006.05.09)

 冷たい刃が自らの喉に潜り込む瞬間、これで全てから解放されると思ったのに。

□ □ □

 バネ仕掛けのように跳ね起きる。
 反射的に辺りを見回し――彼女は、自分が何者であるかを思い出した。

□ □ □

『魂魄妖夢の困惑と決断』

「ねぇ、妖夢」
「なんでしょう、紫様」 続きを読む →

『香霖堂と二冊の本 ~新釈、竹取物語』(2006.05.03)

 花見の盛りを過ぎ、梅雨へと至る前の穏やかな一時、僕は朝から読書に耽って居た。
 その格好は店に来る或る客曰く、常にむさぼり読むような姿勢に見えるそうだが、その実あまり真面目には読んで居なかったりする。眼前の本は既に細部まで読み尽くし、今はおさらい程度に読んでいるに過ぎないからだ。
 だから、僕の意識は思索に向かっている。今の課題は――何故、春になると眠くなるのか。 続きを読む →

『モノクロームの終焉』(2006.02.21) 

「ヴワル魔法図書館で棚から魔道書を奪おうとした時に落ちた?」
 自室のベッドでうつ伏せになっている霧雨魔理沙に、アリス・マーガトロイドは心底呆れたように呟いた。
「奪うじゃない。借りる、だ。……痛てて」
「私は結果の話をしてるの。まったく、その年で腰痛なんて早すぎるわよ。というか飛びなさいよ」
「後もうちょっと落下距離が長ければ飛べたんだよ。それに腰痛を気にした方が良いのはアリス、お前の方だぜ」
「お生憎様。私はもう腰痛がどうこう言う歳すら越えているわ」
 乳鉢に薬草、香り付けにハーブを入れて磨り潰しながら魔理沙の皮肉など何処吹く風で、アリス。
「畜生、羨ましい……。私も妖怪になるか」
「――やめときなさい」
「なんでだ?」 続きを読む →

『藤原妹紅と蓬莱山輝夜の、屈辱』(2006.02.02)

 五色の弾丸をかい潜り、走る。
 今日は些か分が悪かった。文字通り山で柴刈りをしている時に背後から一発食らったのだ。
 くそ、たまたま見つけた茸に気を取られるんじゃなかったと、藤原妹紅は舌打ちしつつ、なおも弾丸を避けて行く。
 こちらから反撃らしい反撃が出来ないのには、訳がある。低木が多い山の中腹、しかも空気が程よく乾燥した冬の日だ。妹紅が追っ手を倒せるだけの炎を放ったら最後、山が丸まるひとつ焼けてしまう。
 対する相手は文字通り、弾丸。そこらの人妖では軌道を読む前に食らっているであろうそれはしかし、妹紅が前に見た時よりも弾速が遅かった。
 おちょくっているな。妹紅はそう思い、軽く舌打ちをする。 続きを読む →

『ディアフレンド』(2005.10.05)

 冥界たる白玉楼にも、日は上り、月も上る。
「ふぁぁ……」
 生憎冥界生まれの冥界育ちたる魂魄妖夢にとって、それは疑問にも何にもならなかったのだが、毎度毎度狂いもなく上ってくる天文二象にはつくづく感心していた。
 私だって、時折寝坊したりするのにな。
 そんなこと考えながら、その日の早朝、彼女が着替えようと箪笥の引き出しを開けると、
 引き出しの底に、妖夢を見つめる形で八雲紫が頭がはまっていた。そして、そのままずるりと上半身を引きずり出すと、
「やっほー、お邪魔するわよ」
 白玉楼の庭二百由旬いっぱいに、妖夢の悲鳴が木霊する。 続きを読む →

『レミリア・スカーレットの初体験』(2005.08.04)

 廊下がいつになく騒がしいせいで、レミリア・スカーレットは目を覚ました。
 聞こえてくるのは、複数の足音と、引っ切りなしに扉を開け閉めする音。
 何時ぞやのように、侵入者か。最初はそう思ったが、その割には慌ただしさがない。
 寝間着のまま部屋から出て顔を出して見る。すると、向かいの書斎にメイド達が出入りしていた。
「一体どうしたの?」
 メイドを一人捕まえて、訊く。
「あ。お、おはようございます。お嬢様」 続きを読む →

『西行寺幽々子の挑戦』(2005.07.05)

 最近、白玉楼の庭師、魂魄妖夢は微妙に疲れていた。
 理由は、よくわからない。だが数日ほど前の朝から、台所に立つと決まって首筋に冷たいものが這って行くような感覚をおぼえるのである。
 殺気のような刺々しい感覚でもないし、後ろを見ても誰もいない。
 故に、妖夢は錯覚としてやり過ごしていた。
 それが、亡霊特有の視線によるものだと気付かずに。 続きを読む →

『伊吹萃香の暇つぶし』(2005.06.26)

 夏がだいぶ近づいて来たある日、伊吹萃香が博麗神社に遊びに来たところ、遊び相手となる当の巫女、博麗霊夢が押し入れに上半身を突っ込んでいた。
「何やってるの、霊夢」
 縁側から靴を縫いで居間に上がりながらそう訊く萃香に、
「いやその……洗濯物の捜索よ」
 と、答える霊夢。身体を動かしながら話しているので、萃香からはお尻が喋っているように見えなくもない。
「……捜索? 洗濯物の!?」 続きを読む →

『アリス・マーガトロイドの災難?』(2005.06.17)

「う゛~」
 毛布を口許まで寄せて、アリス・マーガトロイドは小さく唸った。
 現在彼女を襲っている感覚は、頭痛、軽い嘔吐感、そして熱。――要するに、風邪である。読書をしていたら、急に文字が踊り出したので嫌な予感はしていたのだが、いかんせん滅多なことで風邪を引かない体質故、油断してしまったのだ。
 時刻は間もなく正午になろうとしている。
「困ったな……」 続きを読む →

『博麗霊夢の事始め』(2005.06.12)

 博麗神社の朝は、おおむね早い。

 その日、雨戸と雨戸の隙間から伸びてきた光を顔に受けて、神社の巫女、博麗霊夢は目を覚ました。そのまま布団の中で大きくのびをして、しばらく布団の上で大の字のまま目を瞬かせた後、のそのそと起き出す。彼女はどちらかというと低血圧である。
 欠伸をしながら雨戸を開け、眠い目をこすりつつ風呂場に向かう。もちろん、着替えを抱えることは忘れない。
 脱衣場に着くと、霊夢は籠に着替えを放り込み、無造作に風呂場の扉を開けた。 続きを読む →