『深緑萌時(しんりょくもゆるとき)』(2000.07.20)

「いらっしゃいませ~」
 ここのところ、私の店は明るい活気に包まれている。別に客の数が増えたわけではない。相も変わらず、多くもなく少なくもなくと言ったところか。間違えても、大繁盛ではない。
「お一人様ですか~」
 アルバイトが一人貼っただけである。その経緯なのだが、話が少々複雑になる。
 私の店の奥に、アルバイト募集と書いて貼ってある張り紙がある。私の友人であり、私の店の常連客でもあるとある物書きが、
『華がない』
 ということで、私に半ば強制的に貼らされたものなのである。 続きを読む →

『雨路一会』(2000.02.17)

「参ったな……」
 天気予報で雨が降ると知ってはいたが、ここまで強い事は予報でも言っていなかったし、計算に入れてもいなかった。私の着ているコートは撥水性だが、ここまで強く降られてはあまり意味がない。この季節、四国はそんなにひどい雨は降らないものだが、まあ、物事には例外というものがある。 続きを読む →

『午後日和』(1999.10.12)

 日々に風が冷たくなり、秋の、そして冬の到来がそう先ではないことを予感するようになった日の午後、私の店は閑散としていた。いや、閑散という言葉は当てはまらない。ひとりも客がいないのだから。かなり前からこの店をやっているのだが、開店以来ずっとこんな調子である。まあ、夜になればそこそこの客が来て、経営に困るということがないので、別に気にしてはいない。
 店内の景気に比べ、外は良く晴れているようであった。それは朝の散歩でも分かっていたし、何よりこの薄暗い店内のどの明かりよりも強い光が入り口や窓から射し込んでいたからである。ここからそう遠くない広大な公園では、昼寝としての最高の環境が整っているであろう。
 そう、最近――といっても数年前からのことであるが――私の店にも常連客が来るようになった。 続きを読む →