『岡崎家の父の日』(2008.06.10) 

「おとーさーん」
 汐に背中にのしかかれたのは日曜の午後、何気なしにテレビを観ていたときのことだった。
「どうした汐、おねだりか?」
 テレビから目を逸らさずに、俺はそう訊く(そんなことはまずないのだが)。すると汐は、俺の耳元で囁くように、
「んーん、今回はその逆」
 ……何?
 その言葉の意味がわからずに視線を横に向け、汐と目を合わせる。
「どういう意味だ? それ」
 そう尋ね返すと、汐は指を一本立てて、
「さてここで問題です。今日は何の日でしょう?」
 はて。
「誰かの誕生日だったか?」
「違う違う。今日はね、父の日」
 ……ああ、そうか。 続きを読む →

『はじまりの坂? おわりの坂?』(2018.03.31)

「うーん……」
 あの坂を上りながら、今年十七歳の汐は何とも言えない声をあげていた。
 春の日曜日。お互いとくにやることもなかったのだが、汐がちょっと出歩かないと誘った場所が、ここだった。
 今は桜が咲き誇っている。例年より少し早めに満開になったようだ。
「ふーむ……」
「さっきから変な声が出てるぞ、汐」 続きを読む →

『サンタコス、上から見るか下から見るか』(2017.12.23)

「ちわーす! 岡崎、汐ちゃん、メリークリスマ——」
「だーかーらー、こういうときはズボンいらないのよ! そのために裾長くしたんだから!」
「だめだ! 汐のサンタ服には色気とかアピールポイントとかそういうのは要らん! 絶対にズボンをはかせるぞ!」
「おふたりともわかっていません。サンタさんの衣裳には黒タイツです」 続きを読む →