『七色の人形遣いの失敗』(2006.12.17)

 大晦日も迫ったある日の夕方、魔法の森のマーガトロイド邸に、炬燵を囲む三人の少女の姿があった。ひとりは博麗神社の巫女、博麗霊夢。もうひとりは魔法の森の魔法使い、霧雨魔理沙。そして最後はこの家の主、アリス・マーガトロイドである。
 所謂ひとつの、お茶会であった。
「それにしても……」
 と、リビングに無理やり設えた――魔理沙が持ち込んだとも言う――炬燵の天板を撫でながら、アリス。
「炬燵って、佳いものねぇ……」
 その独特の魅力に呑まれたのか、目が何処かとろんとしている。
「だろう。幻想郷が生み出した、文化の極みだぜ」

 魔理沙がそうまぜっ返した。
「別に幻想郷で出来た道具じゃないでしょ」
 と、最後に霊夢が注釈を入れる。すると魔理沙はちょっとむっとした貌で、
「何を言うか。魔法式に改造したのは、私だぜ?」
 確かにその通りである。通常の炬燵は火鉢が熱源と相場が決まっているのだが、この炬燵、火の符を天板の裏に貼り付けて暖を取っているのであった。無論、熱量は調整してある。お陰で符に溜めてある熱量が節約出来て、一石二鳥であった。
「言われてみればそうかも。それに、うちで使ってる火鉢式より便利よね。足が伸ばせて」
 と、霊夢。
「で、何の話だっけ?」
 どうやら、博麗の巫女でも炬燵の呪力には敵わないようである。
「だから、今年も後ちょっとで終わるでしょ? 一年の締めくくりの事話しているうちに、失敗談になったんじゃない」
「しっかりしろ、春はまだまだ先だぜ?」
「わかってるわよ」
「「本当に?」」
 アリスと魔理沙の声が重なる。
「本当よ。今思い出したの」
 と、炬燵の上に置いてある湯飲み――霊夢持参のもので、中身は以前アリスに分けた茶葉で滝れた焙じ茶――を傾けながら、巫女はすました貌でそう言う。
「じゃあ、霊夢は?」
 久々に悪戯っぽい表情を浮かべて、アリスが訊いた。
「私は失敗なんてしないの」
「普段の生活で失敗ばかりだからな。片方だけ無くした靴下、通算何足目だ?」
「うるさいわよ」
 多少は恥ずかしいらしい。僅かに頬を紅潮させて、霊夢はそう反駁した。
「そういう魔理沙は?」
「私の失敗は是爆発だぜ」
「今年は一回家の屋根吹っ飛ばしたわよね」
 と、珍しくもアリスが茶化す。
「うるさいぞ」
 隠れて見ていたな。烏天狗かお前はと、ぶつくさ言いながら魔理沙。
「お前はどうなんだ? アリス」
「私? 私は――」
「悩みもないから失敗もないってか?」
 と、先を取った気になった魔理沙がそう言う。だが、アリスは至極真面目に、
「あるわよ。失敗」
 と、言った。
「へぇ。例えば?」
 興味を引かれたのか、霊夢がそう訊く。
「人形作りで希に失敗しちゃうことがあるのよ。それも今年のは基本的なことで。それだけ」
「そいつはどうしてるんだ? 爆破?」
 爆破の部分を強調して魔理沙も訊く。
「なんでよ。後で参考になるかもしれないから保管してあるわ。家の離れに」
「……へー」
 一定の方角を見つめ、魔理沙。今日みたいに何度もこの家に訪れているので、庭を含めて建物の構造はすべて把握しているのである。
「おっと、だいぶ陽が落ちて来たな」
「あ、そうね」
 アリスが指をぱちりと鳴らす。途端、寝室に居た人形の半分が一斉に動き出し、部屋の外に出て行った。
 ややあって、邸内の雨戸が次々と閉まっていく音が響いて来る。
「便利よねー」
 と、湯飲みを置いて霊夢が言った。
「んじゃ、私はもう帰るぜ。急用を思い出したからな」
「気を付けなさいよ」
「近所だろ、心配するな」
 少しばかり名残惜しそうに炬燵から出ると、魔理沙は帽子と箒を持って玄関口へと消えていった。しばらくして、風切り音を伴って飛んで帰って行く気配がリビングまで伝わって来る。
「魔理沙が急用ねぇ」
 霊夢が炬燵の天板に顎を載せて、そう言った。そんな巫女に合わせるように、アリスも顎を天板に載せて、言う。
「ねぇ霊夢。今日だけど――」

■ ■ ■

 深夜、マーガトロイド邸前。
「そう言われたら、忍び込むしかないよなぁっと」
 まるでお茶でも飲みに来ましたと言った風体で、魔理沙は箒から降りた。
 そのまま音消しの呪文を唱えると、持ち前の俊敏さで離れに向かって一気に移動する。離れは、ちょっとした小屋ぐらいの大きさで、扉には小さな錠がかけられていた。
 魔理沙はその錠にかかっていた簡易な施錠呪文をあっさり打ち消し、さらに解錠の呪文をかけて戸を開けると、そっと内部に侵入する。
「さーてーとー、アリスの失敗作とやらはどーれーかーなーっと――」
「なーにしてんのよ」
「うお!?」
 背後からかかって来た声を聞いて、反射的に気を付けの姿勢になる魔理沙。
「な、なんでアリスが此処に? どうしてわかった」
「お生憎様。魔理沙だったら庭に入って来た時点でわかるわ」
 と、アリスの背後から加勢するように、もうひとりが声をかけた。
「げ、霊夢……泊まってたのか」
「護衛よ。護衛」
 と、眠そうに欠伸をしながら霊夢。
「何でまた。お前、泊まらせることはあっても滅多に泊まらないじゃないか」
「それはね、ちょっとした意見の一致をみたの」
 アリスが横から言う。
「というと?」
 忍び込んで来たというのに、堂々と腕を組んで魔理沙が追求すると、アリスと霊夢は視線を合わせた後同時に小さく頷いて、
「「魔理沙は今晩忍び込んで来るって」」
 完璧に合わせた声でそう言った。
「ただ、予想より速かったわね。忍び込むの」
 と、少し悔しそうにアリス。
「解錠するまでには追いついている予定だったのに、腕上げてるじゃないの」
「はっはっは。まぁな」
 あくまで胸を張りながら、魔理沙。
「逆に言えば、現行犯逮捕だけどね」
 と、懐から府を出す仕草をしながら、霊夢が言う。
「――OK、一言云わせてくれ」
「何よ」
「霊夢、ネグリジェの上に半纏はどうかと思うんだが」
「別に良いでしょ。私の勝手じゃない」
「いや、それはどうかと思うわ」
 と、ネグリジェを貸したアリスが言う。当の本人が着ているのも色違いのネグリジェだが、半纏を羽織ってはいない。
「だって寒いじゃないの」
 今だって、足が寒いし。と、霊夢がむくれる。
「アリスと違って、私は普通の人間なのよ」
「私だって、普通の魔法使いだぜ」
 と、魔理沙。
「というわけで見せてくれ。失敗作の人形とやらを」
「あのね」
 忍び込んでおいて言う台詞じゃないでしょ、と言うアリスの肩を霊夢が叩く。
「私も見たいんだけど」
「――あのね」
 頭が痛そうに、こめかみをさするアリス。
「ねぇ霊夢。まさかと思うけど、気付くにわざと遅れたんじゃないでしょうね……」
「まさか。たまたまよたまたま」
 と、半纏の袖をぶらぶらさせて、霊夢は言った。
「ほれ、霊夢も見たがっているんだし、大人しく見せてくれ」
 勝利は私のためにある、と言った風情で魔理沙が急かす。
「……なんかもう、どうでもよくなって来たわ。一番奥に白い布、被さってるでしょ。其処よ」
 そう言って、部屋の一点を指さすアリス。
「どおれ」
 即座に動いた魔理沙が豪快に布を払い除けた。中には、等身大の人形が一体、静かに椅子に座っている。
 そしてその人形は、金髪の快活そうな少女を象っていた。
「……お?」
「魔理沙の人形ね」
 布を撥ね除けた態勢のまま硬直してしまった彼女の代わりに、霊夢がそう言う。
「でもまぁ、何て言うか――」
「長いぜ、私の首が長いぜ」
 そう、確かに長かった。大人の拳ひとつ分かふたつ分、明らかに長い。
「しょうがないでしょ、そのまま拡大しちゃったんだから……」
 今になって恥ずかしさが感情の殻を破って溢れ出したらしい。真っ赤になってアリスがそう言う。
「どういうこと?」
 霊夢が、首を傾げて訊いた。すると其処は生粋の魔法使い、赤面したままでも流暢に説明をする。
「例えば、貴方の六分の一の人形を作るとするじゃない。でも、服の材料となる布の薄さを六分の一にするわけにはいかないでしょ?」
「なるほどね」
 それだけでわかったらしい。霊夢は深く頷いた。
「察しが良いわね。――言い訳になるけど、普段はもう少し縮尺した人形を作っているのよ。で、其処から拡大しちゃったからこうなっちゃったの」
「……あー、人形は小さくなればなる程、分厚い布地で首が埋まり易くなるってことか」
 と、遅れて魔理沙が両手を打ち合わせる。そしてそのままたっぷり五秒程間を置くと、
「気付けよ」
 と言って、裏拳をアリスの胸にお見舞いしたのであった。
「って言うか何で私なんだ」
「な、何となくよ。何となく」
 霊夢が回れ右をして、玄関へと歩きだす。
「――原因がわかったら眠くなって来ちゃった。とっとと寝なおそ」

Fin.

あとがき

 アリス達の年末話でした。
 当初はクリスマスを考えていたんですが、紅魔館の面々ならともかく、霊夢達が一緒にいるとちょっと個人的な違和感を感じてしまったので、大晦日風味の話になってしまいましたが、これはこれで良かったかな? と思っていたりします。
 本編でアリスがやってしまった所謂設計ミスですが、これは実際に起こるというか、資料になるかなと人形の素体(これに髪の毛を被せたり、服を着せたりする)を見ているうちに気付きました。服と一体化しているフィギアではないことなので、ちょっと新鮮に感じています。
 さて次回は……こんどこそ紅魔館の面々か、三途の川の御二方で?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です