ドラテクその8


<パッシング>

 レースはタイムトライアルではありません。最速なライダーが勝つという単純なものではなく、パッシングテクを含めた総合テクニックが優れたものが勝つのです。最速ラインしか練習しない方は、そのスピードをレースで発揮するのは極めて困難です。

 パッシングの基本、それは決して先行車と同じラインを走らないということに尽きるでしょう。

 そりゃそうだ、と思ってるあなた、本当にこれを実践できてますか? 自分が通っているライン一つ一つを、「なぜここを通らなければならないのか」と考えていますか。

 コースのどのポイントでも先行車と違うラインを通っていれば、たとえ相手の方が速くても、ミスさえしてくれれば前に出ることができるのです。が、現実には先行車に追い付いても(即ち先行車の方が遅くても)、つい追走してしまって前に出れないものです。
 また、普段最速ラインしか練習していないのに、レース本番でのみパッシングラインを通ってみても、そう簡単に抜けるものではありません。というか、おそらく自爆してしまうでしょう。自爆しなかったとしても、それは相手とのレベル差が大きい場合でしょう。

 つまり、パッシングをほいほいこなすためには、勝負所のコーナーでは、最速ラインと同程度のタイムで抜けられるラインを確保していなければならない訳です。これは、単独で練習していても分かりません。普段の練習で自分と同程度の相手を見つけ、相手と違うラインを通って感触を確かめておく必要があります。


 さて、これはパッシングを行うために最低限マスターされているべきことであって、ラインを複数確保できていればそれでよい、というわけにはいきません。追い付いた相手は、追い付いた瞬間に抜く、これが理想のパターンです。そうすれば、相手とのインの奪い合いでペースを落として後続車がやってくるというパターンを逃れられます。

 これを実行するためには、追い付いてからどこでどうやって抜くかを考えるのではなく、どこで追い付いてどう抜くかを、追い付く前に考えておく必要があります。完全に追い付いてしまうと、相手が邪魔になってコーナーの立上がりなどで、相手がアクセルを開けてくれるまで、自分もアクセルを開けられません。これでは前に出ることなど不可能です。したがって、相手の走りに関係なくアクセルを開けるためには、相手と接近しすぎてはダメなのです。

 これを押し進めて考えると、完全に追い付いてしまって追走パターンにハマってしまった場合には、一旦わざと下がり、勝負ところのポイントの手前で一気に詰め寄るのが有効であることが分かります。また、相手の真後ろを走らざるを得ない時も、視線は相手のマシンではなく、あくまでその先に送る必要があります。

 同様のことはジャンプでも言えます。
 相手はダブルを飛べない、あなたは飛べるとしましょう。このような相手には接近してはダメです。ダブルの手前のセクションではわざと下がっておいて、相手が飛ぶ飛ばないにかかわらず自分は飛べる状況にしておきます。そして、ダブル着地後のスピードの乗りで相手を抜き去るのです。

 パッシング。これを自分と大差ない相手に対して行えるようになってこそ、好結果が得られるのではないでしょうか。それは別段危険なことではありません。事前練習とその場の組み立て次第です。手頃な相手を掴まえて、シーズンオフに練習しておきましょう。

 しつこいようですが、相手に付いていかない。これに尽きます。