ドラテクその13


<連続ギャップ>

 みなさんは、ギャップの多い荒れたコンディションは好きですか?

 私は大嫌いです。レースでも練習でも極力ギャップを避けたライン取りで走ります。練習の時ギャップを避けるのがいいかどうかは私には分りませんが、レース本番においては、ギャップの多いラインを走ってはいけません。たとえそこが普段最速であると思える場合でも。

 特に重要視すべきなのは、コーナー立ち上がりのギャップです。進入時は減速することが目的であり、ギャップを通過することで自然と減速していくので、体力の消耗や安定性を度外視すれば、ギャップの多いラインを取ることもさほどマイナスではないでしょう。
 しかし、立ち上がりではほとんどマイナス面しかありません。立ち上がりでは加速することが目的なのに、ギャップの多いラインを立ち上がったのでは、たとえアクセルを大きく開けていっても、ギャップの持つ減速効果のために、スピードに乗りません。加速することとアクセルを開ける(パワーをかける)ことは違うのです。
 しかも、トータルで見て加速も減速もしていないような状態であっても、瞬間瞬間に区切って考えると、加速と減速を繰り返しているわけで、体力の消耗も激しくなります。

 そうなると、立ち上がりでギャップの多いラインを取るべき場合というのは、距離が最短、あるいはそこだけ土質がよい、傾斜(バンク)の関係でパワーをかけやすい場合などに限られます。

 しかし、実際のところ、立ち上がりでギャップができる場所というのは、トラクションしにくいところです。

(例えば、逆バンクの立ち上がり。バンクの立ち上がり等でも荒れることはありますが、それはみんなわずかながら蛇行して立ち上がっているためアクセルを開け続けていてもサスが伸びぎみになっているためです。また、バンクに進入した瞬間に自然とサスが縮むのと同様の原理でもって、バンクから離れる時にはサスが伸びやすくなります。それを防いでサスを押さえ続けることを可能にするのがアクセルワークですが、それにも限界があります。)

 「アクセルを開けやすいポイントだから開けた結果荒れてくる」、のではなくて、「コンマ1秒でも速く走りたいから開けた結果、トラクションのかかりにくいところが荒れてくる」のです。

 つまり、荒れるラインというのは一見最速のようでいてそうではないことが多いのです。もちろん、それでも荒れたラインが速いこともあります。しかし、レーススパンでは、体力の消耗具合まで勘案して、それでもそのラインが有利な場合のみそこを走るべきでしょう。


 さて、そうなるとギャップを避けて走ってさえいればよいのかということになりますが、そういうわけにもいきません。時間とともに荒れているラインは増えていきますから、嫌でも多少のギャップは覚悟しなければならなくなります。コーナーの前後だけならば、丁寧に走って体力を温存するのも一つの手ですが、ストレートはタイムの稼ぎどころです。荒れているからといって抑えぎみに走っていたのでは、いい成績は残せません。

 では、荒れたストレートを速く走る方法とはどんなものか?

 私は、腰を後方に持っていき、膝は曲げ、上体はやや前傾するポジションで全開にすることだと思います。

 この時座るのか立つのかという疑問を持たれる方もいると思いますが、実際のところどうでもよいでしょう。というのは、思いの他タイヤが食い付いて、体が遅れそうになった時は、自然と尻がシートに触れて支えられることになりますし、トラクションが途切れ途切れになった場合にはギャップの減速効果で体はマシンの中央部に戻され、立ち姿勢になるからです。気持ちとしてはシートの後ろの方に座ったまま全開でよいでしょう。

 スタンディングでステップよりも体の重心が後ろにいってしまった状態でアクセルを開けると、加速Gを腕で支えることになるので不合理だと思われるかもしれませんが、そもそもスタンディングでないと耐えられないセクションというのは、たとえアクセルを開けてもトータルで見ると大した加速はできないセクションです。それに、アクセルを本当に全開にできる時間などたかが知れています。腕力で耐えてでもタイムアップできるのなら、それは結果として正しいと言えるでしょう。

 そんなことより重要なのは、少々のギャップにはビビらずアクセルを戻さないようにすることです。アクセルを戻してしまうと、体がマシンの中央部に戻されるなどという穏やかな挙動では済まされず、フロント荷重になり、ハンドルを振られて転倒することになります。

 さて、このような説明をすると、「そんなことぐらいできとるわい!」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
 しかし、実際にはこの走りを実践するのは結構難しいものです。陥りやすいパターンは、腰をマシンの中央付近においたまま、上体の前傾度で、前後の荷重コントロールをしようとするパターンです。このパターンが問題なのは、リア荷重にしよう、あるいは強く加速しようとするあまり、体が遅れぎみになって上体が後傾になってしまった場合、コントロール不能になり腕上がりをおこし、そうならないように気を使うとアクセルを開けきれなくなることです。

 その点、「後ろに座ってやや前傾」という姿勢ならば、それ以上体が後ろに持っていかれることがないので、好きなだけパワーをかけれます。立ちぎみの姿勢で加速しても、遅れた体は、上体が前傾さえしていれば、シートが尻を支えてくれることになるので、再びニュートラルなポジションに戻ることも容易です。唯一問題なのは、マシンごとウイリー状態になってしまう可能性があることですが、これは「中央に座って前傾度でコントロール」という走りでも同様ですし、この場合でも、やはり常に上体の前傾が保たれている「後ろに座ってやや前傾」の走りの方が有利でしょう。


 で、「後ろに座ってやや前傾」という走りが難しく、実践されにくいのは、コーナーでの向き変えや、立ち上がりのトラクションコントロールの難しい姿勢だからです。ストレートのことだけを考えた姿勢ではコーナーが難しくなり、コーナーのことだけを考えた姿勢では、ストレートでアクセルを開けきれないのです。

 ではどうするか?

 理想的にはコーナーの出口付近までは中央付近に座って上体の前傾度でコントロール。ストレートに出ていくにしたがって尻の位置を後方へずらすという走りでしょう。しかし、これまたホントに実践するのは難しい。なぜなら、立ち上がりでうまくトラクションがかかっていればいるほど、尻はシートに押さえつけられ、移動が困難になるからです。

 で、一つ方法があります。それは、ギャップを利用してギャップで体を跳ね上げられる(というても、シートとの摩擦力がなくなる程度)度に少しづつ尻を後ろに持っていく方法です。現実問題として、いいラインを選んでも、多少は連続ギャップがあり、そこで加速すれば、跳ね上げられた体は再びシートに接触するまでの間にマシンからわずかに遅れるわけで、その遅れが自動的に後ろへ移動することに繋がるのです。そういう意味においては、立ち上がりのギャップも役に立つこともあると言えますね。(いや、でも、そもそもギャップがあるからリア荷重にしないといけないわけなので、やっぱりギャップは避けるべきですね。)

 そしてもう一つの解決策は、そのセクションがストレートを重視すべきセクションか、コーナーを重要視すべきセクションか見極め、ストレートが重要なセクションならば、手前のコーナーは敢えて抑えぎみに走り、ストレートで全開走行がしやすくなる姿勢で走ることです。

 この考え方は、荒れたストレートだけに適用されるものではなく、あらゆるセクション、そしてレース展開、おそらくはシーズンの展開にまで適用できるものです。あらゆるセクションをがむしゃらに攻めるのではなく、最も重要なことは何なのか、そしてそれを実行するにはどうすることが得策なのかを考え、敢えて抑えるべき事柄があるならば、強い意志でもって抑える。

 「そこまでして勝ちたくないや」と思われる方もいるでしょう。それはそれで、結構なことです。MXには人それぞれ楽しみ方があります。しかし、あなたの周りにこのような考え方を持って取り組んでいる人がいることも確かです。本当にいい成績を残したいのなら、ライバル以上のことを考え実行しなければ、平凡な成績に終わってしまいます。才能があるのなら、そこまで考えなくたっていい成績は残せるかもしれません。

 しかし、それに価値があるのか? 努力しなくても手に入れることができるものなんて、値打もその程度。

 私も常に研究を続けるものの1人です。ただし、乗ることに限ってですけどね。(^^;

 どんくさい私に抜かれないように、精進して下さい。



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